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神愛転生  作者: クレーン
第四章
186/210

180話:グラディウス飛翔 ★(10/8改稿)

10/8に説明不足、表現不足の点を改め、一部改稿しました。

 王都から北上して数分。

 オレたちはひと気の無い浜辺で、とある準備をしていた。


「旦那様? それは一体何ですか? マーク様の鞍も別の物に換えられたみたいですが?」


 マークの背に乗せている鞍だが、ここに来るまでの間は以前使用していた二人乗りができる物を使用していたが、今は数点の金具を取り付けた別の代物に換えている。


「マークにコレを引いてもらうから、そのためのロープなんかを固定するための物だよ」

「コレを……ですか?」


 ソルムが不可解な表情で見つめるのは、今オレが準備している少し大型のソリだ。

 ソリと言っても、ちゃんと二人分の座席もあるし、ソリ状の脚とは別に、真ん中に複数のローラーも仕込んでいるので、牽引力さえあれば平坦な地上でも十分に滑走できるものだ。

 そして滑走するだけではない、あることをするためのソリでもあるので、それに付随する色々な装置も搭載している。


「よし! 準備完了! ソルム、前の席に座って」

「は、はい!」


 マークの鞍とソリを万能ロープと金具で繋ぎ、ある事の準備を整えたオレは、ソルムをソリの前座席に座らせて胴体や腰回りなどをシートベルトで固定する。


「旦那様? これでは身動きが取れませんが?」

「コレは逆に動かれると危ないんだ。いいかい? 何があっても絶対にこの上で暴れたり、激しく動いたら駄目だからね? あと、このソリの左右に繋がってるロープにも触らないこと。解った?」

「ハイ! 旦那様のいいつけは守ります!」

「よし♪ じゃあそろそろ始めようか!」


 オレは後部座席に座り込み、ソルムと同じように身体をベルトで固定すると、マークに念話で指示を出す。


『マーク、前進だ。先に説明したとおり、かなりの負荷がかかるから、安定するまで速度の調整は慎重にな』

『御意! 心得ております! では参ります!』


 マークが静かに前進を始めると、マークとオレたちの乗っているソリを繋ぐ約五メートルのロープがピンと張り、ソリが静かに前進を始める。


「あ……前に進み始めました」

「よし、地上での滑走には問題ないな」


 ソリの走り具合を確認しつつ、ソリの側面に繋がれている複数の細いロープの束がスルスルと後方へと流れてゆくのを確認する。

 そしてそのロープ群が伸び切った次の瞬間――


『マーク! 負荷がくるけど少しづつ速度を上げてくれ!』

『御意! お任せを!』


 ――ロープ群の先にある大きな布地がバサッと大きな音をたて、それが風の抵抗を受けて大きく広がりだすと、いままで砂浜の抵抗を受けていたソリの衝撃が徐々に感じなくなってゆく。


「だっ! 旦那様! これは⁈」


 どうやらソルムの今の状況に違和感と未知の感覚を感じたようだ。

 さあ! 一気に行くぞ!


『マーク! そのまま速度を上げて! 飛ぶぞ!』

『御意! 良き空の滑空を!』


 マークのスピードアップと同時に、複数のロープで繋がれている大きな布「パラシュート」が対気速度によって大きく広がり上昇を始めると、二人の乗っているソリがフワリと宙に浮きだす。


「旦那様!!」

「いっけええええ~~~~!!」


 そう叫ぶと同時に座席の右手側にあるレバーを引くと、マークと繋がっているロープが、ソリの前方に設置してある巻き取り装置からスルスルと伸びだし、それと同時にどんどんと上昇をはじめていった。


「はわわわわ⁈ 飛んでます! 旦那様! 私たち飛んでますよ⁈⁈」


 ソルムが精いっぱい首を後ろに向け、不安そうな表情でオレの顔を窺うが、オレはそれに対してただ笑顔で応えた。

 そして設置していた一〇〇メートルの万能ロープが全て伸びきり、ソリは風を切り裂きながら静かに滑空する。


「大丈夫♪ ほら、左側を見てごらんソルム。海が凄く綺麗だよ?」

「え?……」


 オレの言葉に促されるようにソルムが海側へと視線を向けると、それまで不安一杯の表情が徐々に、驚きと歓喜の表情へと変わってゆく。

 その視線の先にあったのは、高度約六〇メートルから眺める、キラキラと輝く青い海と広大な水平線の絶景だった。


「凄い……綺麗です…………」

「うん……本当に綺麗な海だね」

「しかしまさか、こんな方法で空を飛べるだなんて驚きました。旦那様は本当に凄い御方です」

「オレの世界の娯楽の一つでパラセーリングっていうんだ」

「ぱらせぇりんぐ? ですか? ……でも本当に凄いです。まさか私が空を飛べるなんて思いもしなかったですよ……」

「以前アリオス爺から、まだこの世界に空を飛ぶ技術が無いって聞いていたからね。だから試してみたんだけど上手くいって良かったよ♪」

「旦那様のいた世界は、本当に驚きに満ち溢れていますね♪ 本当に……本当に凄いです!」


 ソルムはそう称賛しつつ、キラキラと光る海を眺めながら瞳を輝かせる。


 しかし今回のこのパラセーリング、予想以上に上手くいったな。

 先日のソルムに関する話を聞いて以来、せめてオレが出かけるまでの間に楽しい思い出を作ってやりたくて、突貫で制作したソリ部分だったが大成功だ♪


 パラセーリングの構想自体は別のところで既に完成していたのだが、今回急遽このような形で活用できたのは、一重に機械神様や錬金神様、ネット神様、書物神様の御力あったればこそだ。

 突貫資料調査と突貫製造、そしてぶっつけ本番の運用になったが、本当に上手くいって良かったよ。


 パラシュート部分は、アリオス爺からこの世界の空に関する話を聞いて以降、いつかオレも空を飛びたいと思って、時間の合間にせこせこと作っていたものだ。

 まさかその素材となる「リップストップ生地」まであるとは思わなかったけどね。

 裁縫神様、本当にありがとうございます! であ~る♪


 ちなみに動力源となっているマークだが、実はこれが一番の不安材料だったのだ。

 もしかしたらパラシュートによる抵抗と浮力によって、マーク自体が逆に引っ張られてしまうのではないかと思ったのだが、そのことを踏まえてマークに相談してみたら――


『斯様な程度の力でこの我が力負けすることはございませぬ! どうか安心して、その任務をお任せ下さいませ!』


 ――とのことだったので、その言葉を信じて任せてみたが、いや大したものだ。


 でも……今マークの体重をAR表示で確認してみたのだが、走り出す前は三トン程度だった体重が、今は倍の六トン近くにまで増えている!

 お前体重の増減なんてできるのかよ⁈

 しかも体重増えても走る速度は全然変わらずとか訳わからん。

 さすがは神獣……不思議…………。




 そんなこんなで約二〇分ほどの時間ではあったが、オレとソルムの二人は、フォーランド初となる空中遊泳を楽しんだ。

 ちなみに着地するときはソリの座席左側にあるハンドルを回して、ロープを巻き取りながら動力源となるマークとソリの距離を縮める。

 そしてマークが徐々に速度を落とすのに合わせてソリも地上に着地しながら滑走。

 そのまま減速して完全停止するといった感じだ。


「どうだいソルム? 初めて空を飛んでみた感想は?」

「申し訳ありません……正直、この感動をどう言葉にしたらいいのか、今の私にはわかりません……」

「そっか……でも楽しかっただろ?」

「それはもう! すごく楽しかったです!」

「ならいいや♪ ソルムを楽しませてあげたくてやったことだから、そう言ってくれればオレも嬉しいよ」


 と、オレがそんな言葉を返したら、ソルムの表情が少し曇った。

 え? なに? なんかまずいこと言ったか?


「旦那様……本当に申し訳ありません……。先日の事といい、今日もこんな……」

「ソルム?」

「仲間たちから今の私の状況をお聞きになられたのですよね?」

「……うん……まぁ……ね……」

「私がもっと気を強く持てばいいものを、ここまで旦那様のお気を煩わせてしまって……」

「それは違うぞソルム。以前にも言ったはずだ。これからはキミの面倒はオレが見るって。むしろそういう配慮が足らなかったのはオレの方だ。寂しい思いをさせてしまって本当にごめんな……」


 その言葉と同時に少しの間だけ沈黙が流れたが、それを打ち消したのはマークだった。


「盟友ソルムよ。この先に些かな不安があろうとも、案ずることはなにもないぞ。主様がこの世界に存在する限り、我ら眷属もまた、この世界に存在するのだ」

「マーク様……」

「空を見上げよ! 空は常に世界各地へと隔たりなく繋がっておる! 主様の御心と我らの心もまた、この空と同じよ! 今日、主様と共に空を駆けたお主なら、この言葉の意味も理解できよう?」

「隔たりの無い……心の繋がり…………マーク様!」

「フン……先と比べると、少しは良い顔になったではないか」


 マークは仏頂面でそう言いつつオレの後方へと下がり、静かに伏せの姿勢をとって控える。

 オレはそんなマークに対し、その大きな頭を優しく撫でてやった。


 ありがとうな……マーク。

 本来ならオレがこういったことを言ってソルムを安心させていあらなきゃいけないのに……本当にオレは頼もしい家来……いや、家族をもって幸せだよ。


 そしてソルムは一点の曇りのない真っ直ぐな瞳でオレを見つめつと、意を決した表情でオレの前に跪く。


「我が主、ソーマ・ウォーターフォール様……私、ソルムは貴方様の為にこの身を捧げ、この身朽ち果てるその日まで、永遠の忠誠を尽くすことをここに誓います」


 ソルムは畏まった言葉使いでそう言いながら、深々と頭を下げた。

 え? なに? おいおいソルムさん? なんか変なスイッチ入っちゃってますよ?

 どうしようか? って感じでマークに顔を向けると視線を逸らしやがった! 逃げたな……。


「いやいやソルム? オレを大事に思ってくれるその気持ちは嬉しいんだけどさ? ちょっと固すぎるというか――」

「旦那様、今の言葉はこの世界で忠誠を誓う「誓いの言葉」です」


 ソルムがオレの言葉を遮って、今の宣誓の説明をしてくれる。


「誓いの言葉?」

「はい。従者となった者が、その主に対して絶対的な忠誠を示す、誓いの言葉……。このフォーランドにおいて神聖な儀式の宣誓です……。そして私はまだ、この言葉を旦那様に言っておりませんでした。もっと早くそうするべきだったのに、自分の心の弱さにかまけて今の今までのこの不行届き……どうか平に御容赦願います」

「ソルム……」

「私……怖かったんです……。もしこの言葉を言ったとき、拒絶されたらどうしようかって……。勿論旦那様はこんな私でも凄く可愛がって下さいますし、お優しい御方でもあるので、受け入れてくれるとは思っていました。でもセイル行きの話が決まってからというものの、もしかしたらそのまま旦那様が帰ってこないんじゃないかって思い始めたら……なにもかもが不安になって…………そしたら……自分の言葉も……気持ちも……なにがなんだか分からなくなっちゃって……う、うう……うわぁあああ~~~ん……」



 そんな風に泣きじゃくるソルムの言葉にオレはハッと我に返った。

 気持ち……ソルムの気持ちか……。

 そうだな……大事なのは、ソルムを元気付けてやりたいというオレの気持ちじゃなく、ソルム自身がそうしたいと願う、ソルム自身の気持ちなんだ……。


 オレはこのあと、この東大陸で小さい領地ながら、王になる男だ。

 そしてソルムは成り行きとはいえオレの従者、本当の家臣となってくれた女性だ。

 だからこそ、オレはそんな彼女の「気持ち」に対して、少しでも応えてやらなきゃいけないんだ……。


 昨日や今日、オレがソルムに対してやってきたことも、所詮はオレの我儘でしかなかった。


 ソルムを楽しませてやりたい。

 ソルムを元気付けてあげたい。


 なに言ってやがる?

 大事なのはなんだ? オレがしばらくアルグランスを留守にすることで、いま気持ちを落としているのは誰だ?

 ソルムだろうが! ソルム自身だろうが!


 そんなソルムの気持ちを聞きもせず、話もせず、楽しいことをすれば気持ちも晴れて元気になってくれると勝手に思い込んでたオレは大馬鹿だ!


 ソルムの気持ち。

 ソルムの本当にしたかったこと。

 そんなことに何も気付けなかった……。


「ごめんよ……ソルム……。オレ、ちゃんとキミの言葉を聞いていなかったね……ごめん……本当にごめんな……。さっきの誓いの言葉を受け入れるよ。こんな駄目な主人だけど、どうかこれからもよろしく頼む……」

「ひっく……旦那様……ソーマ様……うう……うええええ~~ん……」


 気付くとオレは、同じように跪きながらソルムを精いっぱい抱きしめ、ソルムの宣誓を受け入れた。

 するとソルムも感極まったのか? 更に大きな声で泣き声を上げた。

 だけどこの泣き声はさっきとは違う、嬉しさと喜びの気持ちに溢れた優しい泣き声だった……。


 ああ……温かいな……ソルムの身体ってこんなに温かかったんだ……。

 寝室で毎日のように抱きしめられていたのに、全然気づかなかったよ……。


 こんな優しい女性ために、オレは何をしてやれる? なにを与えてあげれる?


 そう思った時、オレの身体は自然とその抱擁を解いて起き上がり、今も膝まづきつつ涙を流すソルムの額に手をあてて、とあるスキルを発動していた。


「ソルム……オレの可愛いメイドさん……キミの気持ちを伝えてくれてありがとう。そんなキミの気持ちに応え、これを贈ろう……」

「え?」

「我が眷属ソルムよ、この先も我を護る剣となれ。名前登録(ネームレジスター)! ソルム――」







 屋敷に帰ったオレたちだが、その時すでにライラとシルフィー、そしてメイリン女史とレージュ女史が来訪していた。

 なんでもオレとの時間を過ごしたいらしく、今夜はここに宿泊するとのこと。

 勝手に決めるなよ……。


 まぁしかし、無人島でも数日の間だけど同じ屋根の下で一緒に過ごした仲だ。

 そう目くじらを立てることでもないか。

 一応お目付け役のメイリン女史とレージュ女史がいることだし、問題はないだろう。


 そんなこんなでオレたちは賑やかな夕食を楽しみながら、今日一日起こったことを話していた。




「あ~~…… すまん……ソーマ殿や? もう一度話してくれんかの?」

「またソーマ殿のトンでも行動が出ましたね……」


 ライラは右手のナイフを皿の上に置くと、そのまま眉間を指でつまみながら深刻な表情を浮かべてオレの言葉を再確認。

 シルフィーは苦笑いの表情を浮かべつつも、食事の手は止めていない。

 相変わらずよく食う奴だ。


「ちょっとソルム? それ本当なの?」

「レージュ姉様? どうです?」

「……え? え? ええ~? ソルム……貴方……」


 エキルスとメイリン女史はソルムにあることを問いただし、レージュ女史は目を細めながらソルムを何度も見ている。

 おそらくソルムのステータス……というか、名前を確認しているのだろう。


「はい! 私、ソルムは本日から! ソーマ・ウォーターフォール様の忠実なる家臣! ソルム・グラディウスを名乗らせていただきます! 皆さんどうぞヨロシク! あ! そうだ! 爵位は伯爵です♪」

「「「「「「「「「「えええええ~~!!??」」」」」」」」」」


 家名を得たソルムに驚く皆をよそに、ソルムは太陽のような明るい笑顔でオレに言った。


「これからも幾久しく、宜しくお願いします♪ 御主人様♪」




 豊穣の月、十五日。

 その日ソルムはグラディウスの家名を得、オレ、ソーマ・ウォーターフォールに仕える最初の家臣「ソルム・グラディウス伯爵」となった。

 まだ朧気だが、オレはこの日を境に、自分の国の体制なんてものも色々と考えるようになった。

 その先駆けとして、ソルムに爵位を与えてみたが、特に問題はないだろう。

 オレの国では男女差別無し! 男性でも女性でも爵位を得て当主になれる。

 そんな国にしたいと思っている。小さい国だけどね。

 

 おっと! そして大事なことがもう一つ。

 ソルムがオレのことを「御主人様」と呼ぶようになった日だ。

 う~ん♪ やっぱり「旦那様」より「御主人様」の方が、オタク心情的にはグッとくるものがあるね!

今週休日出勤確定なので、次回更新は来週月曜日を予定しております。


今回のキャラ紹介はソーマ邸のメイド「ゼスト・ジャンパ」です。


ソーマ邸メイドの中で最年少で、ライラと同じ14歳の幼いハイドワーフ族です。

リコナ同様、家名持ちでジャンパ士爵家の次女。


少々内向的な性格で、言葉も吃音傾向ゆえに会話は少し苦手。

しかしながらメイドとしての能力はかなりの伸びしろがあると、副長リゼットに見込まれて色々と仕込まれており、吃音の傾向も徐々に改善されている……らしい。

光魔法の使い手で、難易度の高い浄化魔法系統を得意とする。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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