178話:休日、ままならず… ★
豊穣の月、一五日。
いつも通りの静かで穏やかな朝だが、今回は少し様子が違う。
時間は七時を少し過ぎたあたり。
六時になると同時に寝室へやってきて、カーテンを開ける起床係のメイドたちはまだ来ない。
左隣で寝てるアディも、右隣で寝てるソルムも今だ夢の中だ。
まぁ昨夜はあんなことがあって、屋敷に帰ってきたのが日付が変わってからだったから仕方がない。
昨夜の顛末だが、まずは怒り心頭のエキルス。
説教を終えたところでようやく冷静さを取り戻したのか?
我に返ったエキルスが――
『わ……私ったら旦那様になんてことを⁈』
――といった具合に、屋敷に帰るまでの間は終始オレに謝りっぱなしだった。
まぁ連絡も入れずに遅くなったのは明らかにオレのせいだし、エキルスやメイド隊のみんなにも随分と心配をかけてしまったのは事実だ。
なので今回の一件は全てオレが悪かったということで、エキルスを宥めて手打ちとした。
屋敷に帰ってきても、ハルガスや料理長、他の使用人、そしてアディにキャストとガドラ。
深夜なのに誰一人として寝ている者はおらず、みんなオレの無事を信じて待っていてくれていた。
そしてオレが屋敷に入ると同時に、いつも通りの笑顔で――
『お帰りなさいませ、旦那様』
――と言われた時は少し目頭が熱くなったよ……。
この屋敷で暮らすようになってからひと月半ほどだけど、今やこの屋敷はオレにとって、本当にかけがえのないものになってなっていたのだと改めて実感した。
もちろんオレは使用人の皆に心配をかけたことを謝罪し、今後もこのようなことが無いよう約束した。
で、夜ももう遅いということで、明日の起床係は必要無し。
使用人全員、好きな時間に起床し、そのあとは各自で休日を楽しむようにと伝えて、その日のお勤めは全て終了とした。
で、現在、いつもの起床時間を過ぎた今もこうして、穏やかな朝を迎えているわけだ。
オレは短時間の睡眠でも問題ない身体なので、今はすっかり起床モードなのだが、ソルムとアディはまだお眠の状態だ。
「むにゃむにゃ~~ そこワンツー……やった~命中~……」
「エキルスさんやめてぇ~~…… ボクひとりでちゃんと着替えれますから……」
二人ともどんな夢見ているのやら?
そんな感じで、今も夢の中のソルムとアディの寝顔と愉快な寝言を楽しみながら、二人が目覚めるまでベッドの上で緩やかな時間を過ごした。
寝床でゴロゴロしながら過ごす時間って尊いよね?
そして二人が起床し、朝食は少し遅めの九時頃となった。
「――ということで、本日は休日ですので、旦那様の御予定は全て無しとさせていただいております」
「わかった。ハルガスも昼からはゆっくりと休むんだよ?」
「お心遣い感謝します。ええ、しっかりと休ませていただきますよ」
ハルガスから今日の予定を聞かされたあと、今も最低限の仕事をしている使用人やメイドたちにも、その旨を伝えておく。
とはいえ、いくら休日とはいえ全員が一斉に休むのは、やはり色々と問題があるそうだ。
オレ個人としては、そういうのは気にせずみんな休んで欲しいのだが……なんだかこういうところは忙しない日本と同じだね……。
なかなかに難しい問題らしい。
そんなことを考えていたら、補佐執事がメモを持ってきてハルガスに手渡す。
なんか前にもこういう場面があったな?
そしてハルガスがそのメモに目を通すと、少し険しい表情を浮かべ、それをオレに報告すべきかどうか迷っている感じだ。
「あの……旦那様。大変申し上げ難いのですが……ソルナーク商会のオリバ氏が本日面会を求めたいと……。なんでも以前発注された小豆と餅米なるものが昨夜入荷したとかで……」
「会う! 至急返事をして極力早い時間に持って来てもらってくれ!」
オレは補佐執事に、オリバ氏の使いにそう伝えるよう直に指示した。
他の穀物ならまだしも、小豆ともち米はすぐにでも欲しい。
このタイミングで来てくれたのはむしろ大助かりだ。
とりあえずハルガスには、今後オリバ氏からの要件に関しては、遠慮なく全て通すように言っておいた。
でも一つだけ謝らないとな……。
「ごめんソルム。そういうことだから、お出かけするのはその件が終わってからでいいかな?」
「ハイ♪ 今日の御予定は全て旦那様にお任せしておりますから問題ありません。私は今日一日旦那様と御一緒させてもらえるだけで満足ですから♪」
うん……実は今日は一日、ソルムと一緒にお出かけしたり食事を楽しもうと思ってたんだよね……。
明日からはセイル森国とファーベスト王国に向けて出かけることになるので、せめて今日はソルムと一緒の時間を過ごそうと思っていたんだけど……イカンなぁ……オレは……。
「それに旦那様がそこまで執着なさる穀物ということは、美味しい食材ってことですよね?」
「え? まぁそうだけど……」
「なら私としても、それは楽しみのひとつとなる案件です♪ どうか御遠慮なさらないで下さいまし♪」
「ありがとうソルム。あとで飛びっきり美味しいお菓子を御馳走してあげるからな」
「ハイ♪ 楽しみにしてます♪」
ホントにソルムはいい娘だなぁ~♪
ならばそれだけに、今日はソルムのためにもオレが一層頑張らねば!
一分一秒も無駄にできん。
早く商談を終わらせて、全力で休日を楽しむぞ!
少し短めですいません。その分木曜も更新できると思います。
今回のキャラ紹介はソーマ邸の熊耳獣人メイド「アニル」です。
ソーマ邸獣人メイドの中では相談役となることが多い。24歳。
ルトと同期で仲が良い。
仕事の時はちゃんとした言葉使いだが、仲間内での会話の時は男らしい口調に変わる。
(一人称も「私」から「あたい」に変化)
熊系獣人として強い筋力を持ちながらも、しなやかな身体も持ち合わせており、アルグランスの一般メイドの中では一つ抜けた戦闘能力を誇る。
「女性らしくありたい」と本人は密かに思っているが、それとは真逆の強い身体と男勝りな性格に若干のコンプレックスを持ち、そのことで悩むこともしばしば。
「ルト、サボってたバカ二人を捕まえてきたぞ」
「「シュ~ン……」」




