174話:家名 ★
「というわけでの。おぬしの家名を決めてもらいたいのじゃ」
ようやくソルムの話を終えると、次は家名の話となった。
家名。
簡単に言えば苗字ってことだが……。
>名前 :瀧蒼馬 (ソーマ)
ソーマ……これが今のオレの名前だ。
よって、家名なんてものはない。
アリオス爺の話では、これから東大陸の各国へ赴き、各国の代表からオレの国を作るために認可を得る必要があるのだが、その前に家名を決めておく必要性があるのだそうだ。
家名とはこの世界にとっては、その者の身形と生い立ちを証明する証となる、とても大事なものなのだそうだ。
よって、家名を持つのは基本的に王侯貴族や、それらから認められて名を賜った者だけなのだそうだ。
事実、一般市民である獣人メイドの大半は家名を持たない。
エキルスも元々は家名を持たなかったが、アルグランス王家付きメイド隊の副隊長に就任したと同時に、その功績を称えられてシグマ武王から「ガル」の名を与えられたらしい。
「へぇ~ エキルスの家名にはそんな逸話があったんだ」
「ええ、この名は私の誇りそのものです♪」
エキルスは胸に手を当て、誇らしげな表情で胸を張った。
ちなみにハイドワーフ組のリコナ、テトラ、ゼストの三人やサーシャはアルグランス貴族の娘たちなので、当然家名を持っている。
ファムは「ファン」の家名を持ち、レットラーは持たない。
まぁこの二人は出身地がそれぞれ違うから、それぞれの習慣や風習に基づいたものがあるのだろう。
とまぁそんなわけでオレの家名だ。
…………ソーマ・タキ…………。
ないわ~。
洋風ファンタジー世界の中で厨二全開の日本語の名前は流石にないわ~。
となると、この瀧ってのを他の呼び方に変えればいいか?
瀧……滝……英語で………………
「ウォーターフォール……」
「む?」
「ウォーターフォールってのはどうかな? おかしくないかい?」
オレがそういうと、周りの全員が固まった。
あー……英語の響きとはいえ、やっぱり少し無理があったか?
と思っていたら……。
「いい……いいぞソーマよ! ソーマ・ウォーターフォール! 実に良き響きじゃわい!」
「ええ! とても素晴らしい家名かと存じます♪」
「旦那様はソーマ・ウォーターフォール!」
「ウォーターフォール卿、万歳ですわ♪」
「じゃあ差し詰め、旦那様の国はウォーターフォール王国になるのかな?」
「あら? それいいんじゃないかしら♪」
「ウォーターフォール王国のソーマ王~♪ カッコイイ~~♪」
アリオス爺や獣人メイドたちが笑顔でそれを称えてくれた。
ということで、オレの家名は「ウォーターフォール」に決まってしまった。
少し長ったらしい気もするが、オレ自身も少しこの響きは気に入ったので問題はないだろう。
そのあとオレは王城へと赴き、シグマ陛下にウォーターフォールの姓を名乗ることを報告。
そしてシグマ陛下が持つスキル「名前登録」でその姓を登録。
これで名実共に「ウォーターフォール」の名を名乗ることを許された。
「名前登録…………ソーマ・ウォーターフォール」
>名前 :瀧蒼馬 (ソーマ・ウォーターフォール)
>
>家名「ウォーターフォール」が登録されました
名前の登録を終えたシグマ陛下が、横で控えるレージュ女史に確認するように目を向けると、レージュ女史は人物鑑定スキルでオレの名前を確認したのだろう。
無事に家名が登録されているのを確認して、シグマ陛下に頷き返す。
まぁそんなことをしなくても、オレ自身で名前は変えられるんだけどね。
でもこういうのは形だ大事だ。
有数の大国家であるアルグランス武王国のシグマ陛下から、その家名を登録してもらったという事実が凄く大事なことなのだ。
「ソーマ殿よ。これから貴殿はウォーターフォール家の長となった。これからの益々の活躍を期待しておるぞ」
「ありがとうございます、シグマ武王陛下。この名に恥じぬ働きをお約束します」
オレはシグマ陛下に感謝し、深く頭を下げた。
ちなみにこのスキルは、王となった者や一部の王侯貴族などが後天的に習得するユニークスキルだそうだ。
アリオス爺やシグマ陛下も武王に即位したと同時に習得したらしいが、武王を退位したアリオス爺は、今はこのスキルは失っていることからも、国や組織のトップなどに与えられる超限定的なスキルみたいだ。
そしてこのスキルには等級があり、「クラウン」と「リング」がある。
クラウン級は王族や大貴族、法王などが習得するもので、なんと隠蔽スキルをもってしても改変できないものらしい。
対してリング級は、クラウン級の下位バージョンといった感じで、隠蔽スキルで改変させられてしまう。
つまりオレの名前はシグマ陛下からクラウン級の名前登録で登録されたので、由緒正しい経緯で名付けられた、改変できない名前の持ち主として一応の拍が付いていることになる。
…………多分オレの能力で簡単に改変できるだろうけど、今はこのままでいいや。
折角つけてもらった名前だしね♪
なんてことを考えていたら――
>スキル「名前登録(クラウン)」を得ました
――あの……オレまだ王様にもなってないんだけど……。
とりあえず今はこのことは黙っておこう……。
「この度は旦那様が家名を得られたこと、このソルムも大変喜ばしく思います♪」
レージュ女史がこの場にいるということで、ソルムもここにいる。
今回の家名の登録に際し、レージュ女史の確認が必要だったので、そのついでにオレの従者であるソルムにも、その様子を見届けてもらいたかったから、メイドの稽古を中断して連れてきてもらったのだ。
「ソルムの主人として恥ずかしくない家名を選んだつもりだけど、どうかな?」
「ウォーターフォール……本当に素敵なお名前です♪」
「ハハハ♪ ありがとう♪」
「では名前の件も準備万端ということで、此度の要件は全て終わりじゃな。ソーマよ、これからどうする?」
アリオス爺がそんな質問をしてくるが、この後の行動はもう決めてある。
「もうすぐ夕方近いし、このままソルムを連れて屋敷に帰るよ」
「え? でも旦那様、私はまだ稽古の時間が……」
「レージュさん。そういうことだから、今日はソルムも早退させてもらうよ!」
「かしこまりました。明日は予定通り休日とさせてもらいますので、稽古の再開は明後日、ソーマ様方が出立された後とさせていただきます」
突然の早退願いに戸惑うソルムだが、レージュ女史はそれを簡単に許してくれた。
多分ここに来る前に、事前にアリオス爺が手を回してくれていたのだろう。
オレがアリオス爺とレージュ女史に礼を言うように目配せをしたら、二人とも優しく微笑んでくれたので、やはり思った通りみたいだ。
「ではシグマ陛下、今日はこれにて失礼させていただきます」
「うむ。明後日は我も見送りに参るゆえ、それまで息災にの」
「はい、ありがとうございます! では!」
オレはそう挨拶をすると、そのままソルムの手を引いて足早に謁見の間を後にした。
「え? え? え? 旦那様?」
「帰りにちょっと繁華街でもブラつこうか♪」
その後、オレはソルムと二人っきりで、楽しい城下町でのデートを満喫した。




