172話:キャンピングカーと魔道具 ★
豊穣の月、一三日の夕方。
以前から製造していたキャンピングカーが遂に完成した。
全長九メートル、全福二.七メートル、全高三.五メートル。
神獣姉弟、キャストとガドラを動力とした牽引式の車両だ。
ダイニング、キッチン、寝室、水洗式トイレ、シャワールームを完備。
二階建て構造で、二階はスライド式の屋根で開閉が可能のテラスだ。
そこに大型浴槽やビーチベッドなども設置しているので、露天風呂やちょっとしたプール、日光浴なども楽しめるって寸法だ。
本来インドア派であるオレ自身が、アウトドア下においても普段通りに快適に過ごせることを想定した、あらゆる要素を全て詰め込んだ夢のスーパーマシン……もとい、もはや動く家そのものだ。
本来ならば収納の問題もあるのだが、そこは最低限に留めておいた。
だってオレには無限収納の能力があるからな。
なので、収納に関しては同行するメンバー用だけにしておき、その分を可能な限り「空間」の確保に回した。
なんのかんのと言っても、今回は長期間の移動を余儀なくされる大所帯での旅だ。
少しでもそのストレスを解消させるには、快適にリラックスできる空間が必要なのだ。
これで少しでも、みんなが快適に過ごしてくれると良いのだが。
ということで、完成した車両を早速メイド達に見てもらったのだが、総じての感想としては「やり過ぎです」といったドン引きの一言だった。
快適な旅にしようと頑張ったのになぜだ⁈ 解せぬ……。
ならば小型軽量化し、馬でも引けるサイズにしていずれ普及させてやる。
野宿などという原始的な旅は、このフォーランドでは終焉を迎えるのだ。
でもまぁ、今回のこのキャンピングカーを当初の予定以上に快適なものにできた一番の要因は、先日インテグラからもたらされた魔法「付与魔法」のおかげだ。
実は先日の魔法研究所訪問の一件のあと、アルグランスが所有する魔法銀板の閲覧を許可されたので、数点新しい魔法を覚え、早速それを付与させて色々とアイテムを作成してみた。
付与魔法とは、無機質な物に対象となる魔法の効果を付与させる魔法なのだが、その魔法を発動するにはやはり魔力が必要となる。
例えば「火」を剣に付与させ、それを手に取って魔力を流せば、雄々しく燃え盛る火炎剣の一丁あがり! と思っていたのだが、現実はそう甘くはなかった。
試しに自作の短剣に火を付与し、魔力をもつメイドたちに使わせてみたら、剣先にポッと火が出るだけだった。
うん……ただの着火ライター……。
しかし冷静になって考えてみれば当たり前の話だ。
だって付与したのは「火」の魔法なんだから、相応の火だけ点くのが普通なのだ。
オレがイメージした火炎剣のような物を作るには「火炎」といった、火の上位版となる中級魔法の付与が必要となる。
しかしオレがこの短剣を使えば、燃え盛る火炎剣のように扱うことができた。
何故か? それはオレの持つスキル「魔力制御」と「魔力操作」があるからだ。
実際のところ、火の魔法というのは、本当に小さな火を出すだけの魔法なのだ。
しかしオレがその魔法に各スキルを用いると、火の魔法そのものに「強弱」という概念を付けてしまうので、さっき述べたようなことも可能となってしまうのだ。
つまり現状のところ、オレ自身に火以上の火炎系魔法の習得は必要ないって事になる。
むろん、身体強化系の魔法もこの体なら必要なし。
ということで、その辺りを踏まえて色々と魔法銀板を吟味した結果、火魔法の「加熱」、闇魔法の「魔力蓄積」、光魔法の「光」を習得した。
え? たったの三つだけだって? 時間があればもっと色々と吟味したかったよ。
特に目を引いたのが魔力蓄積で、これは金属の類に一定の魔力を蓄積させる、付与魔法に近い仕組みの魔法だ。
つまり魔力電池を作ることが可能となるわけだ。
早速これを有効活用しようと、魔力の蓄積や伝達に優れる銀を地図検索したら、アルグランス内にまだ手付かずの鉱脈を発見。
さらに詳しく調べると、その鉱脈には銀が約七〇〇トンも眠っていることが判明した。
アリオス爺とシグマ陛下にその話をしたら二人とも驚愕。
当然アルグランスの領地なので、その鉱脈の所有採掘権を主張されたが、その辺りは好きにしてくれてかまわない。
ただしその場所を教える代わりに、一〇トンまでの採掘権をお願いしたら、喜んで承諾してくれた。
ということで、早速ダイルを連れてマークと共にその鉱脈へ移動。
見届け人のダイルに場所を教え、それと同時にオレは各能力を駆使して一〇トンの銀を掘り出した。
ゴラス島で鉄を採掘したときと同じ要領なので手慣れたものだ♪
実はここ以外にも、アルグランスにはあと四つの大きな鉱脈が眠っているのだが、今はまだ黙っておこう。
盗み取るつもりはないが、その辺りはアルグランスの財政が厳しくなったという話を聞いたあとでも遅くはないだろう。
現に現在発見されている鉱脈からも、銀を含めた各種資源は今も採掘されているのだから。
とまぁ、そんなこんなで大量の銀をゲットしたので、その銀に魔力蓄積で臨界点まで魔力を蓄積させ、錬金術で加工させながら車両の各部に組み込む。
そしてお湯用の鉄製水槽には加熱の魔法。
車内の壁や天井に設置した金には光の魔法をそれぞれ付与させ、魔力電池と銀の配線で繋ぐ。
すると魔力電池から魔力を供給された、常時稼働型の給湯器と照明が出来上がるってわけだ。
無論配線の間にはスイッチを組み込んでいるので、オンオフの切り替えも可能。
これで魔力のない人でも、便利な照明や給湯器が扱えるってわけだ。
王城や屋敷で使われていた魔光石を使用した照明も悪くはないが、色が暗めなので明るくしようとすると数がいる。
その点この照明はかなりの光量で目にも優しい。
そんな感じで、現在その車内を見学しているライラやアルテアに、ここまでの開発工程を説明すると…………。
「ソ……ソーマ…………アンタ、とんでもない物を作ってくれたねぇ……」
「わらわもソーマ殿なら、いずれもの凄い発明をするとは思っておったが……こんなに早く……しかもこうもあっさりと……」
二人とも車内ダイニングのソファーに力なく腰を下ろした。
うん、この反応は結構予想できてた。
多分こういう付与魔力を使った照明器具がないのだろうとは思った。
と思ったのだが、実はこういった魔法付与させた照明器具や着火器などは、一応あることはある。
だがなぜそれが普及していないのか?
理由は簡単だった。
まず付与魔法の使い手が非常に少ないこと。
そりゃそうか……付与魔法の習得は完全にインテグラの気まぐれによる後天的なものだからな。
しかも一回あたりの消費MP量がべらぼうに高い。
一回で一〇〇〇MP消費した時は焦ったよ。
そんな理由で、全世界に普及させるほどの魔道具を作れってのは無理な話だ。
そしてもう一つの理由は、魔力がないと機能しないからだ。
まず魔力蓄積の魔法だが、本来これは携帯できるレベルの銀製品に魔力を蓄積し、魔術師のMP切れによる失神、つまり「マインドアウト」を防ぐための魔力補充用に使われるのが、主な利用法らしい。
しかも闇魔法の中では上級に位置しているので、その魔法自体の習得も難しいそうだ。
簡単に習得できたのは全属性適応MAXのオレだからこそだな。
なにより、その魔法自体の消費MP量が多い上に、チャージするMPも高い数値が要求される。
つまり相当なMP量を誇り、且つ上級闇魔法を習得できる適正を持つ者でなければ、今回のような使い方はできないってことだ。
「だから魔力蓄積の魔法を利用し、魔道具を常時発動させるといった発想そのものが、私たちには無かったんだよ……。にしてもこのシャワーってのは気持ちがいいねぇ~♪ 今度私の部屋にも作っておくれよ」
「アルテアよ、次はわらわの番なのじゃ!」
現在素っ裸のアルテアがシャワー室で汗を流しながら、そう色々と説明してくれた。
だから勝手に使うなっての! つーか扉くらい閉めろ! 脱衣場の床まで濡れるだろうが!
「確かに銀は多くの魔力を蓄積することが可能だけど、やっぱりこれは常用的じゃないね」
「銀そのものの価値が高いからのう。銀より安価なものでなければ事業にはならぬのじゃ……」
ひと汗流したスットンドワーフ娘どもが肌着姿のままで、ダイニングのソファーに寝転びながらジュースを飲んでくつろいでいる。
つーか事業とか……そんなことを考えていたのかよライラさん?
とまぁ、そんな感じで無事にキャンピングカーも完成し、そのお披露目も済んだ。
色々と魔道具に関する話も聞けたし、なにかと充実した数日だったな♪
さあ! 三日後はいよいよ出発の日だ!
待ってろよセイル森国! 必ず醤油をゲットしてやるぜ!




