013話:道なき道は聖剣で切り開け(物理)
「さてと、これからどうしようかな~?」
時計を確認したら、なんだかんだで二時間近く経っていた。
地球の感覚で言えばお昼過ぎの時間だ。
頭上の太陽も真上近くにまで移動している。
というか、アレは太陽……なのかな?
とりあえず今起こせる行動は三つ。
一:このまま砂浜を移動して海岸添いを移動する。
二:森の中を探索する。
三:この砂浜を拠点とする。
まぁ普通に考えて海岸線を移動だわな。
三は論外として、この鬱蒼と生い茂った森の中に入るのも、なかなかにハードルが高い。
どんな危険な生き物がいるかわかったもんじゃないし、なによりも森の奥に見える「アレ」に対して、俺の魂が「行くな」と囁いている……。
山頂から灰色の煙を吐き出している大きな火山である。
それが三つも。
手前に一つと、奥側に二つの火山が見える。
形や大きさはどれも似たような感じで、急な斜面の山みたいだ。
一言で言えば「児童向け絵本に出てきそうな火山」これが一番シックリくる表現だと思う。
危険そうな森を抜けて近づいた途端に、大噴火とかしたら洒落にもならないので、他の場所の探索を終えるまでは近づかないでおこう。
ということで、オレは海の方角を前とすれば、向かって右側の海岸添いを移動する事にした。
折角なので、この新しい体の身体能力も色々と検証しながら移動するか。
オレは徒歩から徐々に速度を上げて走りだす。
うひょ~! 体がめっちゃ軽い!
多分時速三十キロくらいは出てるんじゃないかな?
二十代の頃にバイク乗ってた時期があったからなんとなく判る。
しかもまだ速度を上げれそうだ。
おっと地図を確認確認っと……。
やはりオレの思った通り、移動するとオレを中心として半径一キロの範囲で、不明だった地図がどんどんと開けてゆく。
この砂浜は右にカーブを描くように続いているみたいだ。
オレは地図を確認しながら突き進む。
その先で砂浜が途切れて坂道になるみたいだ。
そのまま坂道を駆けあがると、次は高さ二十メ-トルくらいの崖が待ち構えていた。
しかしオレの体が「余裕で駆け上がれる」と言っている。
オレは崖から突き出してる岩や樹木、蔦を利用して、その崖をヒョイヒョイと軽く登ってゆく。
ハハハ、ロッククライミングの選手もビックリの身軽さだ。
崖を登りきると、また右にカーブを描くように道が続くので、道なりに海岸添いをひた走る。
今の道は砂浜と違って足場がしっかりしてるので、実験も兼ねて全速力で走ってみよう。
うおおおおお! めっちゃ速ええええええ!!!
多分、時速八十キロは出てると思う。
自分の脚でこんなに走れるなんて超気持ちいい!
しかも全然疲れない!
俺は固い道から砂浜に切り替わったのも気に留めず、ただこの体の面白さに夢中になっていた。
それこそ地図を確認するのも忘れて、ひたすら夢中で走っていた……。
うん……ナンかね……ずっと海岸線が右にカーブしてばっかりだったから、もしかしたらな~と、薄々と感じてはいたんだ……。
で、今オレの眼前には崖がある。
ウン、先ほど登った例の崖だ。
オレはAR表示に出てるポップアップを恐る恐る選択する……。
>ゴラス島の外周を走破しました
>地図「ゴラス島」を全表示
――島⁈……島⁈
俺は急いで地図を確認する。
「――嘘だろ……?」
地図を確認したオレは思わずそう呟いてしまった……。
今オレがいるのはゴラス島。
直径三〇キロほどの、ほぼ円形状の……無人島だ……。
なぜ無人島と判ったか?
速攻で「人間」「亜人種」で島全体に地図検索かけましたもの!
人間どころか亜人すらもいやしませんよ!
いや、確かに転移先は「人気の無い所」って言いましたけどね!
隔絶された孤島じゃ皆無ですやん!
オレはせいぜい人里離れた僻地程度だと思っていたけど、こいつはとんだ大誤算だ……。
オレは少しの間、頭を抱えて地面にヘタりこんだ。
どうする? どうする? どうする? キミならどうする?
誰に聞いてるんだよ!!
悩むこと数分……。
高い精神力のおかげか、オレは自分でも信じられないほどの冷静さを取り戻していた。
悩んだ結果の結論だが――。
『無人島での生活、いけんじゃね?』
考えてもみたら、今のオレには神様たちからいただいた、豊富なチート能力とアイテムがある。
これらを駆使すれば、この無人島でもなんとか生活ができるかも知れない。
いや、できるはずだ!
完全に平常心を取り戻したオレは、踵を返して最初の転生地点である砂浜に戻り、地図を開いてゴラス島の地形を再確認する。
どうやらこの地図機能は外周を囲むと、その周囲の内側をオープンにする仕組みのようだ。
今回の一件で地形把握の重要性を思い知ったので、別の陸地に行ったら、真っ先に地形把握するために走りまくろうと心に誓う。
とりあえずオレは地図検索機能で、この島に住む生き物の数を細かく検索した。
>肉食動物:448
>草食動物:2756
>鳥類:737
>虫類:328874397
次は肉食動物と草食動物のみに限定して――
>レベル1以上の生物:2260
>レベル20以上の生物:936
>レベル50以上の生物:8
>レベル100以上の生物:なし
よし! オレより強い生き物は、この島には存在しないようだな。
一先ず安心した。
肉食動物と草食動物の比率は一対六か……。
正直バランスが良いのか悪いのかの判断がつかん。
鳥類は海で魚を捕る鳥もいて、検索に引っかかってない鳥もいるかも知れないから、プラスマイナス百匹くらいには見ておこう。
虫の数は約三億。
どんな自然でも、虫類は数だけは逞しいね。
…………Gはいないだろうな?
お次は食料に関しての検索だ。
肉食動物、草食動物、鳥類の三種に限定して食用可能な動物の数を検索っと――
>食用可能な生物:3941
全部かよ!!
まぁ、一日一匹食べても地球換算だと十年以上は大丈夫みたいだし、その間にこの島から脱出する方法も模索できるだろうから、これは良い傾向と見ておこう。
さて、次はどこを拠点にするかだが……。
オレは地図を少し拡大して上下左右にスクロールさせる。
「これだ!」
ここから五キロほど先に湖があるのを発見した。
水魔法で水は出せるけど、大きな水源があれば何かと便利なのは間違いない。
この島は中心に三つの火山が存在しており、大きさはどれもほぼ同じ。
三つの火山は島の中心で正三角形を描くように、各十キロの間隔で配置されている。
そのことからも、島の中心に行くのは危険すぎるので、極力近づかないようにしよう。
地図上の一番近い火山に意識を向けると――
>名称無し
>名前を付けますか?
>>はい
>>いいえ
と表示されたので、一番近い火山を「一の山」。
その北西にある火山を「二の山」。
北東にある火山を「三の山」と名付けた。
こういうのは解り易いのでいいんだよ!
オレは湖に向かって、鬱蒼と生い茂る目前の森の中に入っていった。
うわ~、わかっちゃいたけど、雑草やら木々が多過ぎてなかなか先に進めない。
それに樹木の葉で日光も遮られてるので、かなり薄暗い。
できればスタート地点の砂浜と目的地の湖までは、簡単に往復できるようにしたいんだよなー。
となれば……やっちゃいますか? 開拓という名の森林伐採!
自然破壊? 環境汚染? 言いたくば言え!
オレはそんな罵詈雑言よりも文明が欲しい。
オレは無限収納からエクスカリバーを取り出すと、目前にある木を横一文に斬りつける。
エクスカリバーはまるで豆腐を切るかのように、ほとんど抵抗も無く樹木をスパっと切り裂いた。
というか……斬ったよな?
切り口があまりに綺麗過ぎて、ダルマ落としみたいな感じで木が倒れないんだよ。
オレはその樹木に手を添えてグッと力を込めて横に押すと、樹木はあっさりと傾き、そのまま周囲の木々の枝を巻き込みながらバキバキと音を立てて「ズズゥウンン」と、大きな音と振動を響かせながら倒れ込んだ。
斬り込み付きとはいえ、大きな樹木を軽々と押し倒せた筋力にも驚きだが、それ以上にエクスカリバーの切れ味しゅごい!
流石は剣神様からいただいた聖剣。
切れ味が半端ないわー。
しかし、こんな綺麗な聖剣を樹木斬りに使うのも少し気が引ける。
オレは一旦エクスカリバーを収納し、二本目の聖剣「フルンティング」を取り出す。
これは細身のレイピアみたいな刺突剣みたいだな。
>聖剣フルンティング
>攻撃力:18000(通常時)~32000(魔力補充時)
>全長:105cm
>重量:1.3kg
>
>>細身の刺突剣。
>>蝶のように舞い、内角を抉るように刺すべし! 刺すべし! 刺すべし!
最後の説明文に若干のツッコミを入れたいところだが、ここはあえてスルーしよう。
エクスカリバーよりも細く薄い刀身で更に切れ味は良さそうだけど、流石に刺突剣で森林伐採ってのもイメージがちょっとね……。
フルンティングを収納して、次は聖剣「アロンダイト」を取り出す。
うおっ!? すっげえデカい!!
それは、聖剣というにはあまりにも大き過ぎた……
大きく、分厚く、重く……はないけど……
ゴホン……続き続き!
そして大雑把過ぎた……
それは正に鉄塊だった……
ハイ! これが言いたかっただけですよー!
漫画の某凶戦士に出てきそうなすんごい巨大な剣、それがアロンダイトだった。
柄の部分は約七十センチ、刀身部分は二メートルはあるなコレ。
>聖剣アロンダイト
>攻撃力:90000(通常時)~170000(魔力補充時)
>全長:280cm
>重量:70kg
>
>>最大級の聖剣。
>>それは聖剣というには(以下略)
もう突っ込まねえぞ!
しかしこれはサイズ的にもデザイン的にも、今の状況で一番うってつけの聖剣なんじゃないかな?
重量七十キロとあるが、今のオレの高い筋力で振り回すのも余裕だ。
よし! アロンダイト! キミに決めた!
オレはアロンダイトを両手で持ち、左右にブンブンと振り回しながら湖方面へ前進。
行く手を阻む木々雑草をズンバラと切り倒しながら突き進んでゆく。
一キロほど進んで、ふとあることに気付く。
後ろを振り返れば切り株だらけだけど、確かにそこには道ができていた。
――ここがオレの新しい人生の初めての道かぁ……。
ここをアロンダイト道……少し長いからアロン道と名付けよう。
記念として写真を記録する。