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革命デュアリズム

「アンジェ。ようこそ俺の城に」


 そう、やりたかった事とはアンジェに俺の部屋を紹介して、簡単にここに至るまでの経緯を説明したかったのだ。


「中に入ってくれ。ちゃんと話すからさ」


 部屋に招かれたアンジェはどうすればいいかわからないようだった。それもそうだよな。きっと全部見た事の無いものだ。パソコンも冷蔵庫も暖房器具も。


「これって……」

「薄々感づいていたかもしれないけど、俺、本当はこの世界の人間じゃないんだ。天使に連れられてこの部屋ごとこの世界に来たんだ」


「天使?」

「そ。この世界を救え! だとさ。いい迷惑だ」

 この世界がちょっと楽しく感じてきてるのは内緒だ。


「今朝言ったハウトゥーファンタジーも天使に与えられたもので、メアリーは天使の使い。昨日あげたおにぎりとかは俺が元々いた世界のものなんだ」


「わかった? メアリーは偉いのよ」


 ちょろちょろと飛び回りながらいっちょまえに偉そうにしているメアリーはこの際見なかった事にしよう。ここで構うと話しがこんがらがってしまう。


「アンジェ。改めて、俺に協力してほしい」

「公平様。失礼します」

 唇に訪れた柔らかな衝撃。なんの前触れも無くいきなりキスをされた。


「んっ……」


 アンジェの体が一瞬輝いた。と同時に淡い存在感の薄い羽がアンジェに生えたが、すぐに消えてしまった。


「公平様。これで、私は名実ともにあなたのものになりました。あなたに尽くさせていただきます。どうか、どうか私を捨てる事だけはしないでください」


「え、ちょ……え?」

「わあ! すごい! 育成度が!」


 メアリーが横で何かを言っていたが、頭に入ってこなかった。今俺はアンジェの事以外眼中に無かった。


「戦乙女にとって口づけは、私の全てをあなたに捧げるという意味があります。公平様」


 ああ、そうか。ここから始まるんだ。俺とアンジェは。これで、これでやっと対等な関係だ。俺も、アンジェに俺の全てを捧げよう。


 横でメアリーが広げているハウトゥーファンタジーを見ると今の結果が書かれていた。


『戦乙女アンジェ。愛情度十 レベル二 育成度四十』

『里中公平 育成能力十 経験値五百』


 なる程。こんな感じで嫁と絆を育んでいってレベルを上げたりするのか。わかってしまえば単純明快だ。普通に接して普通に仲を深めていけばいいだけだ。


 なんてやり取りをした後、俺達は再びスフィーダ王国に訪れていた。

 現在の時刻は十五時ピッタリ。敵はハウトゥーファンタジーに乗っていた通りに来た。

西の方角から千二百人。 


 騎士長は俺の要望通りに動いてくれた。おかげで俺は高い場所から指示を出し、滅び行くドミーナ王国兵の姿を眺める事が出来た。


「お前を信じていなければ今頃スフィーダは滅んでいたな」


 俺と同じように高い場所から指揮を執っていた騎士長は嬉しそうにしていた。この光景を見て喜ぶ辺り、やはり騎士長と俺は似ている。


「でしょう?」

「しかし、お前のたてた作戦はやはり面白いな。それに効果的だ」


 俺がたてた作戦は単純明快。敵をスフィーダ王国に招き入れ、予め家を解体して燃えるように細かくした木材を大量に散りばめた石床の場所まで進行させ、火矢を放つというものだ。


 一般に、戦術的敗北とは総兵力の二割を失った時点とされる。パッと見でも大半のドミーナ王国の兵は踏んではいけない石畳を踏んでしまっている。


 前も後ろも火に囲まれ、右往左往とはこの事だ。逃げようにも逃げ場が無い。更に、半端に甲冑を背負ってるのが裏目に出たな。重たくて火の中を走り回る事なんて出来ない。ちょっと可哀想だが、ドミーナ兵の蒸し焼きの出来上がりだ。


 こちらは高い場所から火矢を放つだけで無傷で勝利出来る。最高に楽な仕事だ。栄養失調で弱った兵でも十分にいける。スフィーダの街が燃えてしまうというデメリットもあるが、そこはコラテラル・ダメージというやつで勘弁。


「いやー壮観ですねえ騎士長! これが作戦の重要性ってやつですよ」

「最高だな」


 そして、俺の作戦はこれだけに留まらない。こいつらを追い払ったらまた次の兵がやって来る。根本的な解決をしなければならない。ならばどうするか。ドミーナからなんもかんもむしりとってやる。


「騎士長、一人偉そうなのを捕虜にしてください」

「お前……その顔、まだ何か企んでいるな?」

「わかります?」


「当然だ。どうも俺とお前は似ている気がする」

 騎士長もそう思っていたとは。この人とは仲良くやっていきたいものだな。


「俺もそう思います。悪いんですけど、準備があるんでここは任せます。捕虜の準備出来たら教えて下さい。作戦室にいるんで。それじゃ」


 火は完全にまわり始めた。もうほぼ何もしなくても勝っただろう。勝ち戦を眺めているのもいいが、時間は有限だからな。次の行動を決めていこう。


 次はやっぱりドミーナを溶かすかな。やっぱり目には目を歯には歯ををでいきたいな。でも正攻法だとやられるのは間違いなくこっちだ。さーてどうっすかな。


「メアリー。ハウトゥーファンタジーでドミーナ王国の食糧事情を調べてくれ」


「んーっとね。今は食べるのに困ってないみたいだけど、元々自給率が低いみたい。土地がやせ細ってるのねー。何年後かにここと同じような状況になるみたいよ」


「ひょっとしていろんなところに戦争ふっかけてない?」


「なんでわかったの? 今はウォーム王国ってところとモントーネ村に戦争を仕掛けてるみたい」


 勝った。ドミーナのトップはアホか間抜けだな。飯が欲しいからっていろんなところに戦争ふっかけてりゃ国力が落ちるだろうに。こりゃいけるぞ。戦争に多くの兵が駆り出されてるって事は重要施設もごく一部を除いて手薄って事だ。落とすのはたやすい。


 この手の食糧確保方法だと各地に食料庫を作ってるはずだ。通常なら重要施設に分類されるが、ドミーナのお花畑トップは一つ一つは大して重要だと考えてないはずだ。だが、一つでも落とせばスフィーダの兵はある程度回復する。


「メアリー、この辺にドミーナ王国の食料庫があるはずだ。場所と警備の数を」


「すごーい。ほんとにある。北東にあるわ。警備は百人ちょっと。距離もそんなに離れてないわ!」


 ちょろい。ちょろすぎる。ちょっと行ってちょっとで帰ってこれる。スフィーダ王国の問題がまた一つ解決する。後は土地を取り返すだけだ。


「これで俺のスフィーダ王国での地位は確立されたも同然! 流石俺様。素晴らしいな」

「ふふっ。公平様、楽しそうですね」


「最高だ。智将ってのはこうじゃなくちゃ。時にアンジェ、お腹空いてないか?」


 作戦の準備で昼を食べている時間が無かった。味の薄いスープでも食べるのと食べないのとでは雲泥の差がある。


「え? 空いてないと言えば嘘になりますね」

「ほれ、これ食べな」 


 さっき部屋に戻った時に持ってきた豆パンを渡した。例のごとく賞味期限が今日までなのだ。さっさとお買い物スキルを獲得しないと現代備品が底をつく。この後の食料庫襲撃でも使うしな。俺もコッペパン食べよ。


「本当に、公平様には驚かされます。今こうしてドミーナ兵を追い払っているだけでもすごい事なのに、この後は食料を確保するつもりなんですよね? 驚きです」


「それこれも全ては嫁、もといアンジェと俺の生活のためだよ」


 嫁を育てて世界を救え。しゃくだけど、俺の好きなように生活するためには、天使様の言った通りに色々と救わなきゃならないようになっているらしい。


「嫁……ですか。嬉しいです。公平様に出会わなかったら、今頃私はスフィーダ王国と共にこの世を去ってたでしょう。何もかも、全てあなたのおかげです」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。もっともっと頑張ってアンジェに良い暮らしをさせてあげるからね」

「私も、もっともっと公平様の役に立てるように、公平様に尽くしますね」


 その後、特に会話も無く、もそもそとパンを食べていると、騎士長が嬉しそうな顏をして入ってきた。


「おう、勝ったぞ。捕虜も確保した。喜べ、隊長だ」

「お、本当ですか。捕虜と話しをさせてください」

「そう言うと思ってもう連れてきてある。来い!」

「……クソっ!」


 現れたのは顏のところどころにすすを付けた若い男だった。この若さで隊長って事はそれなりに将来を期待されてるんだろうか。まあ、どうでもいい。俺が欲しいのは情報だけだ。

「やあやあ残念だったね。簡単な戦だと思ってた? 君の名前は?」


「……」

「黙ってちゃわからないなあ」


 捕虜の尋問とか当然やった事無いからなあ、どうすればいいんだろう。こんな時騎士長ならどうするのかな? そう思って俺は騎士長を見た。


 すると、騎士長は俺に向けて軽く笑った後剣でドミーナ兵の首を薄く切った。


「お前にも国に家族がいるだろう? ん? 死にたいのか?」

「し、死にたくない。話したら殺さないでくれるのか?」


 成る程こうするのか。さっきまでのふてぶてしい態度はあっという間に消え去って、今はとんでもなく低姿勢になってる。


「それは君の態度次第だな。さあ、さっきと同じ質問だ。君の名前は?」

「ハ、ハデル」

「よしよしハデル君。この辺に食料庫あるよね?」

「え、な、なんで知って……」


「君は聞かれた事だけ答えればいいんだよ。場所と警備してる人間の数を教えて?」


 俺達は聞かなくても知ってるけど、騎士長は別だ。兵を動かすためにはここで言質を取らなければならない。面倒だが、必要な行為だ。これも信頼さえ勝ち取れば省ける工程なんだけどなあ。


「ほ、北東に百人態勢で警備してる!」

「俺達とってもお腹空いてるんだけど、食料庫奪うの協力してくれる?」

「そ、そんな!」

「出来ないの?」


 俺は黙ってハデルを見つめた。ハデルの瞳が忙しなく動いている。迷っている証拠だ。追い打ちをかけよう。


「せっかく君だけは生かしてあげようと思ってたのに」

「や、やる! 協力します!」


「うんうん、そうだね。その方がいいと思うよ。そしたら騎士長、ハデルはとりあえず牢に入れて、俺達はこの後の事を話しましょう」

「わかった」


 騎士長が入り口に立っていた兵に命令を出してた。すると、ハデルは二人の兵に脇を抱えられて、部屋から出て行った。


「しかし、お前、中々のゲスっぷりだな」

 心外だな。まさか騎士長にそんな事を言われるとは。せっかくスフィーダ王国のために働いているの酷いよ。


「せめて智将っぷりだと言ってください」

「はっはっは。悪い悪い。それで? 何か策があるんだろう?」

「いえ、ありません。普通に攻めましょう」

「だが、兵がいないぞ。皆腹が減ってまともに戦えない」


「そこで今回の作戦が役に立ちます。ドミーナ兵が乗ってきた馬があるでしょう? あれ食べましょう。ちょっと焦げてるかもしれないですけど、食べれない事はないと思います」

「馬を!? 食えるのか?」


 ああ、この世界じゃ馬は食い物じゃなくて乗るものとしてしか認知されて無いんだな。やっぱりこの辺の思考の差は武器になる。


「ええ。美味しいですよ。あ、でも肉はちゃんとお湯で煮込んでから食べさせてください。空腹でいきなり物を食べると人間は死んじゃうんで」


「……それならなんとかなるかもしれないな。火も石床だからすぐに収まるしな」

「食べて少し休んだらすぐに仕掛けましょう。弓で夜襲です。食料奪還。それが終わったらドミーナ王国を無力化します。協力してください」


「お前……」

 騎士長は半ば呆れていた。無理を通り越して無茶だとでも思っているんだろう。だけど、いけるんだな、これが。どうやって説得しようかな。


「大丈夫です。公平様なら出来ます」

 アンジェが自信たっぷりに言ってくれた。


「俺達ならやれます」

 俺も自信たっぷりに言い切った。


「しょうがない、協力してやる。戦乙女のお墨付きだしな」


 そう言って騎士長は兵に馬を食わせに行った。彼を失望させないように必ずドミーナ王国を溶かさなければ。気合を入れよう。


「こーへー。さっきの戦闘であなたにも経験値が入ってるわよー」

「どれどれ」


『戦乙女アンジェ。愛情度十五 レベル三 育成度五十』

『里中公平 育成能力二十 経験値千』


 しょっぱいな。これだけ頑張ってたったのこれっぽっちか。育成能力も上がってないし、アンジェの育成度もほぼ上がってない。やっぱりご飯を食べさせるだけじゃダメだな。もっと色々試してみる必要があるな。


「どうすれば上がるとか書いてないの?」

「んー、書いてないみたいねー」


 ですよねー。あの俗っぽい天使様がそんな親切な事する訳ないもんねー。まあ、でも当然か。人との仲を深めるのにやり方なんていうものは無いもんなあ。


「オッケ。そしたら……アンジェ。食料庫襲撃には君も参加してもらう。いいね?」

「はい。任せて下さい」


 昨日今日と比較的マシな物を食べた分他の兵よりは動けるはずだ。というか動いてもらわないと困る。


「可能な限り怪我はさせないようにはするけど、アンジェ自身も気をつけてね」


「公平様は優しいですね。今の私は人よりも傷の治りが早くなってますから、大丈夫ですよ」


 根気よく育てていけば、ボーンって感じでふっ飛ばせるくらい強くなるんだろうか。そうなればいいな。その頃には俺の嫁はどれだけの数いるのだろうか。アンジェだけなのか。はたまた幸せと魅力がいっぱいのハーレムを形成しているのか。


「そっか。アンジェには戦乙女として兵の士気を上げてもらいたいんだ。騎士長の代わりに演説をするとか、指揮を執るとかね」


「戦乙女としてですか?」


「そそ。勝利の女神、戦乙女としてね。大丈夫、そんなに難しい事じゃないよ。俺が台本を作るからそれを読み上げるだけでいい。メアリー、この世界の戦乙女はちゃんと勝利の女神として扱われてる?」


 扱われてなかったらその時はその時だ。なんか適当に箔付けてそれっぽくすればいい。こっちには奪われたものを取り返すという大義名分があるんだ。なんでもいいのさ。


「扱われてるわよー。戦乙女の他にも聖騎士とかがいるみたい」

「じゃ、そういう事で。アンジェ、頼んだよ」

「はい。わかりました」


 さて、それじゃ後は騎士長と打ち合わせかな。敵は百人だしそんなに苦労する事も無いだろうけど、やっぱり念には念を入れようかな。


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