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見果てぬ夢

 と、話しが一段落した所で控えめなノックが部屋に響いた。多分戦乙女だ。随分と控えめなノック音を見るに、これはきっと可愛らしい女の子に違いない。


「はいよー」

「失礼します」


 入室してきた女の子の年頃は俺と同じ十七、八くらいだろう。この国の人の例に漏れず栄養状態が良くないようで、痩せて顔色が悪かった。本来なら艶のある美しいであろう金髪は水分が抜けてぱさついていた。170cmくらいの痩せた体に着た鎧はヒビが入っており、手にしたハルバードは錆びていた。


 十分なご飯を食べさせてあげればとてつもない美人になるのは見てすぐにわかった。鎧の隙間から見える体もきっとナイスバディの素晴らしいスタイルのはずだ。ご飯さえ! ご飯さえ食べれば美人だ!


 俺は何かを言う前にそっと家から持ち出していたジュースと賞味期限ギリギリのおにぎりをそっと差し出した。


 彼女は一瞬ためらう様子を見せたが、俺が差し出し続けているとやがてそれを手にして女性らしく、しかしなかなかのスピードでおにぎりを平らげ、ジュースを飲みきった。


「君が戦乙女ちゃんだよね?」

「はい、そうです。あなたが私の主様ですよね?」


「そういう事になるのかな? 里中公平です。これからよろしく」

 早い事この子もとい嫁のルートを攻略して天使様にチートを貰おう。


「良かった……良かったよお。公平さまあ!」


 戦乙女は急に泣きながら俺に抱きついてきた。ヒビの入った鎧がとても痛いです。地味に力が強いから僕の背骨にヒビが入りそうですとは彼女の様子から言えなかった。


「あのおー。落ち着いて? とりあえずお話をしよう?」

「す、すいません……。やっと尽くす人が見つかって、嬉しくて」


 俺が言うと戦乙女は離れて花のような笑顔を見せてくれた。ああ、これで顔色が良かったら俺はきっと欲望を抑えられなかった。


「君の名前は?」

「アンジェです。公平様。ああ嬉しい。主様がいるってこんなに嬉しい事なんですね」


 この、なんて言ったらいいんだろう。この子可愛いんだけど、その、とても変わった子なんじゃなかろうか。そういえばガチャチケットに尽くす人がいないと寂しくて死んじゃうとか書いてた気がする。チョロインかな?


「それだけじゃ足りないでしょ? もう一個おにぎりあるからあげる。食べな」


 そう言って渡すと、彼女はまたも女性らしく、しかしスポーツカーもかくやという速度でおにぎりを平らげた。


「ほい、これも飲みな」


 あまりの食いつきに、自分用にと取っておいた炭酸飲料も渡した。ペットボトルという物が存在しないので、当初はどうやって飲むのかわからなかったが、俺が実演すると、彼女は思い切りその中身を口に含んでむせた。


「な、なんですか! これ! シュワーってしましたよ!?」

「ああ、うん。それは炭酸飲料っていって飲んでみた通りシュワーってする飲み物。慣れたらおいしいよ。毒とかじゃないから安心して」


「そうなんですか。このようなものは初めて飲みました」

「だろうね」

 ぷっくりとした唇から垂れる炭酸飲料はとてもエロかった。


 ん? ぷっくりとした唇? おかしい。おかしいぞ。さっきまで明らかに栄養失調で肉なんてついてなかったのに、唇が艷やかになっている。頬の血色も良くなって見える。栄養失調の人間ってこんなにすぐ肉付くもんなの? そんなはずないよな。


「ありがとうございました。とっても美味しかったです」

「あのさ、鎧脱いでくれない?」

「え」


 さっきはあんなにも顔色が悪かったのに、今は頬が赤い。どう考えてこれは普通じゃない。いくらなんでも回復が早過ぎる。食べてまだ十分も経ってないんだぞ。


「あ、あの。せめて湯浴みをしてから……」

「いいから早く」

「は、はい……」


 アンジェはガシャガシャと音を立ててヒビの入った鎧を脱いでいった。鎧の下には所々破れた黒い布製のインナーアーマーを着ていた。

「触るよ」


 そう言って軽く二の腕とあばら、太ももを触った。やっぱりだ。これは栄養失調の人の体なんかではない。言ってしまえば極限までダイエットした女の人の体のような感じだ。決して骨と皮だけの体じゃない。


「あ、あの……」


 アンジェはもじもじとして恥ずかしそうに顏を赤くしていた。ああ、いきなり女の子の体を触るのはマナー違反だったな。申し訳ない。


「ああ、ごめん。あのさ、聞いていい? なんかさっきと比べて随分元気になったように感じられるんだけど気のせい?」


「いえ、公平様にご飯を頂きましたから。そのおかげかと」

「いくらなんでも回復が早過ぎるように感じるんだけど、この国の人は皆そうなの?」


「ご存知かもしれないですが、私達戦乙女、つまりヴァルキリーは神族に分類されるんです。私達は人よりも体が強いので、栄養の吸収なんかも早いんです。だから今頂いた分でも体をある程度回復するには十分なんです」


 忘れてた。ここは剣と魔法の世界だった。魔法があれば神族の一人や二人は当然いるよね。きっとエルフとかドワーフもいるんだろうなあ。まあ、今はとりあえず神族に関する情報をアンジェから聞くか。嫁さんの事何も知りませんじゃ話しにならない。


「それはつまりもっと沢山食べれば強くなるって事?」

「そうですね。私が今現在持っているポテンシャルを引き出すことが出来るはずです」

「そのポテンシャルってのは――」


 と、そこまで言って服の袖を小さな手に引かれた。振り返るとメアリーがハウトゥーファンタジーを指さしていた。

「どうしたん?」

「ここを見て」


『戦乙女アンジェ 好感度二十pt レベル二 育成度十』


「こーへーがアンジェにご飯をあげたら、好感度って所と育成度ってとこが増えたの」

え、これご飯あげるだけでも育てた事になるの? 条件緩すぎじゃね? 作物大量生産してあげればいいだけじゃん。


「こーへーについても書かれてるわよ」


『里中公平 育成能力五 経験値百』


「お、こっちは比較的わかりやすいな。アンジェの方の育成度とかってのはなんなんだ?」

「えーと、待ってね……あった! ここに書いてるわ」


『嫁について』


 好感度はそのままあなたに対する好感度です。一定の値に達するか、条件を満たすと好感度は愛情度へと変わります。愛情を持つに至った嫁は後述の育成度と合わせてあなたの強力な助けとなってくれるはずです。


 レベルの上限はありません。敵とのレベルに大きな差があるからといって勝てない訳ではありません。大事なのはあなたへの想いと育成度です。あなたへの想いが強ければ強い程嫁は本来持っているポテンシャルを十分以上に発揮出来ます。そうすればあなたの嫁はレベルの差など軽々と乗り越えてくれるでしょう。


 育成度は文字通りその嫁の育成度合いです。これは嫁のポテンシャルに関わってきます。嫁のポテンシャルにも上限はありません。育成度が高ければ高い程嫁の能力上限は上がります。ですが、上がるだけです。繰り返しますが、大事なのはあなたへの想いです。想いさえ強ければメイクドラマが生まれるかもしれません。


 長い上に地味にわかりづれえ。これ絶対マスクデータみたいなのあるパターンだろ。とりあえずは大事なのは好感度。これだけは覚えておこう。


「次は……ここね。こーへーの事が書いてあるわよ」


『里中公平について』


 育成能力はあなたにとってのレベルです。これが上がれば、あなたは固有スキルを獲得出来るなど、この世界を生きる上で有利になります。また、育成能力が高ければ、嫁と仲良くなりやすい他、希少価値の高い嫁のガチャチケットが得られるかもしれません。


 経験値はあなたにとってのお金であり、嫁への貢物でもあります。育成能力向上によって獲得した固有スキルの使用には、全て経験値を使います。また、嫁に経験値を貢ぐ事によって、嫁のレベルと育成度が上げる事も出来ます。


 他にもあなたの成長に伴って、様々な項目が登場していきます。


 他にもってなんやねん。まあいいや。段々とらしくなってきた。当面はアンジェの好感度向上と俺の育成能力向上に重点を置こう。それと平行してスフィーダ王国を籠絡する。


「あの、もしかして私は邪魔でしょうか?」

 アンジェが俺の肩に手を触れながらおずおずと聞いてきた。


「あ、ごめん。全然邪魔じゃないよ。色々とワケありでさ。もう少し落ち着いたらアンジェにもしっかり話すから、許して」


「あ、いえ。すみません。配慮が足りませんでした」


 今全部を話してもいい気がしないでもないけど、この世界の事をもう少し理解してからの方がいいだろう。俺側に問題がある。今までの常識を全て捨てる必要があるからだ。


「ところで、そちらの妖精に名前はあるんですか?」


あ、やっぱりメアリー他の人にも見えてるのね。てかそうじゃなかったら俺独り言ブツブツ言ってる変人だもんな。それはいかん。


「メアリーって言うんだ。俺の相棒。仲良くしてあげて」

「メアリーよ。アンジェ、頑張ってこーへーに尽くすのよ?」


「はい。言われずともそのつもりです。それにしても、公平様はとても身分の高い方なんですね」

「ん? どういう事?」


「公平様には苗字もありますし、妖精も連れていますから」

 どういう事だ? この世界には独自の身分制度があるって事か? 


 こういう時こそハウトゥーファンタジーの出番だ。そう思ってメアリーに頼もうと思ったら既にメアリーはハウトゥーファンタジーを開いていた。


「なんかわかった?」

「苗字を持てるのは一部の王族と貴族だけ、妖精を連れられるのは選ばれた人のみ」


 なるほど、つまり俺はこの世界でかなりの身分にいるという事か。これは……場合によっては不利な状況を招くぞ。まずいな。対策を考えるか。


「まあいいや。とりあえずはそうしておこう。アンジェ、君は今日付けで俺のものになったから。俺の側を離れないで、俺の事を守ってくれ」


「はい。喜んで」

 そう言って微笑んだアンジェはやはり、俺の見立て通りかなりの美人だった。もっと美味しいものを食べさせていい格好をさせてあげなきゃな。頑張らねば!


「そしたら……とりあえずアンジェはお風呂に入ってきな」

「え……! やっぱり……わ、わかりました」


 まさかとは思うが今の反応は……。いや、深くは考えないでおこう。

「一難去ってまた一難ねー。メアリーまだ子供つくるには早いと思うな」

「いや、今はまだしないからね?」

 そう、今は。


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