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AOZORA TRAIN

「予想通りというか予想以上というか……」

 始まりの国スフィーダ王国の財政状況は良くないようだった。街を歩く人の栄養状態は良くないのか皆やせ細り、顏がコケていた。着ている服もボロボロの汚い布切れでその日の食べるものにも困っているのだろう事が見て取れた。


「スフィーダ王国はドミーナ王国との戦いに負けて、作物がよくとれる土地をうばわれてしまったらしいわ。それ以来ひんこんが続いてるみたいだよー」


 メアリーがハウトゥーファンタジーに書いていた事に付け足してくれた。

「いつの時代も敗戦国は惨めだな。しかし、さっきからジロジロ見られてるのはなんでだ?」


この国に入ってからというものずっと道行く人にジロジロと見られている。確かに服装に違和感はあるかもしれないが、そこまで大きな違いがあるようには思えなかった。


 こちらをジロジロと見ながら小声で何か話されているのはあまり心地のいいものではない。しょうがない、ここは勇気を出してこちらから声をかけてみるとするか。


「こんにちわー」

 ヒソヒソとこちらを見て話していた男の二人組に話しかけた。彼らもやはり、ボロボロの服を着ていて、体はやせ細っていた。


「え!? こ、こんにちわ!」


 軽く声をかけただけなのに随分な驚かれ方だな。ヒソヒソと話していた事を咎められるとでも思ったのだろうか。


「あのーこの辺の事教えてほしいんですけど、どこ行けばいいですかね?」


 二人組は困った顏をして周囲に目を向けたが、俺が黙って話し始めるのを待っているとやがて観念したのか口を開いた。


「あなたはドミーナ王国の使いの方ですよね? でしたら王宮へ行かれるのがよいかと」


 ん? 何か勘違いされてるみたいだな。確かドミーナ王国ってここと戦争してた国だよな。心象悪すぎだろ。俺が訂正しようとするよりも先にメアリーが口を開いた。


「わかったわ。ありがとう。さ、こーへー先を急ぎましょう」

「え、ちょ、待てよ」

 ちょっとキムタク風になってしまった。


 もっと話したかったのにメアリーが小さな手で服の袖を一生懸命引っ張ってくるのでしょうがなく二人組から離れた。


「どうしたんだよ? もっと色々聞きたかったのに」

「これよ、これ!」

 そう言ってメアリーはハウトゥーファンタジーを俺に差し出した。読んでみるとこんな事が書いてあった。


『スフィーダ王国は今、よそ者に対してとても懐疑的になっている。無闇に話しかけるのは得策ではない。運が悪いと襲撃されます』


「あぶな! こえーよこの国。さっさと戦乙女確保して家帰ろう」

「えーっと待ってね。戦乙女に会うには宮殿に入らなきゃいけないみたいね」

「だからってなあ。簡単に宮殿になんて入れてくれないよなあ。……ん、待てよ?」


 ひょっとすると家から出た時に持ってきた物が役に立つかも。供給が保証されていない以上無闇に使いたくないけど、最初の一歩が大事だしな。出し惜しみはやめるか。


「この国の食糧難って王室まで及んでるのか?」

「そうみたいよ。他にも直近の戦闘で兵隊さん達が疲弊してるみたい」

「農業技術は?」

「こーへーのいた世界とは比べ物にはならないほど悪いみたいよ?」


「ちょっとハウトゥーファンタジー貸して」


 メアリーからハウトゥーファンタジーを貰ってスフィーダ王国の状況を詳しく調べた。

 調べれば調べる程この国はいつ崩壊してもおかしくないという事がわかった。農業技術に限らず、技術や知識といったものがほとんど旧時代のものだ。これはつけいる隙があるぞ。うししし。俺は今さぞ邪悪な顏をしている事だろう。


「わ! 悪い笑み! 何か案があるの?」

「ばっちしだ! うまくいけばこの国を味方につけれるかもしれない」

 俺は親指をぐっと立てて見せた。そうと決まれば早速行動だ。俺は懲りずにその辺の人に王宮の場所を聞き、王宮へと向かった。


   ○


 王への謁見は意外とスムーズにいった。一番の難所と思われていた王宮への侵入は門兵に袖の下を渡す事で簡単に通行証を発行してくれたのだ。醤油せんべえ一つで他所者を通してくれるなんて、どれだけ食べるものに困っているんだ。


 通行証に書かれている通行身分は商人だった。食べ物とか薬を見せたから商人だと思われたんだろう。


「初めまして王様。自分はプレハブ商会の商人、里中公平です。本日は王様に直接交渉する事があり、このような形を取らせていただきました。ご無礼をお許し下さい」


 謁見の間で片膝をついて王様に言った。メアリーもちょろちょろと俺の周りを飛びながら王様に頭を下げていたが、そもそもこいつは他の人に見えているのだろうか。


 ちなみにプレハブ商会ってのは、立派な一軒家だったはずの我が家が今やプレハブ小屋のような見てくれになってしまっている事からだ。


 なんていったって純粋に俺の部屋が荒野の真ん中にポツンと建ってるだけなんだ。悲しみを通り越して虚しさが胸を支配するよ。幸いなのは屋根がついてるから雨風がしのげるって事だけだ。


「うむ。面を上げい」

 そう言った王様もやはり、あまり食べていないのだろう、王様にありがちな太った感じが一切なかった。着ているものは流石に気品あふれていたが、服に着られている感が否めなかった。


「はい。ありがとうございます」

「して、交渉と言ったな。話してみろ」

「はい。現在スフィーダ王国は食糧難にあると聞いています。そこで、私の持っている農業知識を授けようと考えています」

「ほう。続けよ」


「また、私は拙いながらも戦術をたてられます。戦闘面においても役に立つかと。また、数は少ないですが、食物の種を所持しています。他にも状況を見て私の知識を提供します」


 ここまで話しをして、一度王様の顏を見た。必死に顏に出さないようにしているようだが、口からヨダレをたらさんばかりの勢いで話しに食いついてるのをヒシヒシと感じられた。いいぞ。ここで止めの一撃を加えてやる。


「今回友好の印として食物を試供品という形でお持ちしました。ぜひお食べになってください」


 そう言って俺は家から持ってきたきびだんごを取り出した。すると、すぐに横から騎士が現れて、俺に剣を突き立てた。


「食ってみせろ」

「はいはい。毒なんて入ってませんよ」


 この展開は予想してたよ。王様に食いもん渡す時は毒味が必要だもんな。でもだからって剣を突き立てる必要はないと思うんだ。


 かばんから取り出したきびだんごを口に放り込んだ。オブラートが口の中の水分を若干奪いとったが、すぐに甘みが口に広がった。うん、うまい。


 ビニールというものが存在しないであろう事を考えてそのままかばんに放り込んでいたからほこりが気になったが、オブラートがつるつるしてるからかあまりついていなかった。


「ね? 大丈夫でしょう?」

「皿に入れろ」


 相変わらず高圧的な騎士は取り出した皿をこちらに寄越した。その上に5つきびだんごを乗せて返す。騎士は受け取る時まで偉そうだった。


「あ、食べる時は水と一緒の方がいいかもしれません」


 そう言ったが、王様はすぐに口に入れてしまった。この状況を見るに食べ物どころか砂糖菓子は相当貴重なはずだ。我慢出来なかったのかもしれないな。


「これは……食べた事のない味だ。なんという食べ物だ?」

「きびだんごです。もっと沢山王様に差し上げたいのですが、残念ながら手持ちがありません。お許し下さい」


 この辺は本当に貴重だからな。本当はまだまだあるんだけど、これ以上あげる気はさらさらありませーん。


「そうか……それは残念だ」

 よし! つかみはいいぞ。王様は相当きびだんごを気に入ったみたいだ。俺の事を信じ始めたはずだ。

「それで、交渉の方ですが……」


「おお、そうだった! で、こちらはそなたに何を提供すればいい?」


「はい。スフィーダ王国における住まい、人に指示する事の出来るある程度の身分。それと、戦乙女を一人私にください」


 大きく出たが、いけるか? 最悪戦乙女さえ手に入れられれば当初の目的は達成出来るが、どうせなら全部がっぽり頂きたい。


「いいだろう」

「王様!?」

 王様の隣に立っていた、恐らくは意見役の老人が驚いていた。


「住まいに関しては余っているくらいだ。好きに使うといい。身分に関しては平民に対してのみの特権とする。騎士長、戦乙女は?」

「ちょうどいいのが一人います」


「うむ。わかった。後日、使いの者を行かせる。今日は宿に泊まりなさい。騎士長、案内をしてやりなさい」

「はい」


 どうやら王への謁見は終わりみたいだな。重畳重畳。トントン拍子とはこの事だ。ここから俺の戦いは始まるぞ。俺だけのキングダムを作るんだ。


「行くぞ、付いて来い」


 騎士長が半ば無理矢理俺達を王宮から追い出した。まだ信頼されてないみたいだな。まあ、当然か。傍から見たら怪しいもんなあ。


 宿までの間退屈だったから騎士長に何度か話しかけたけど、やっぱり嫌われているのか一言二言の相槌を打たれるだけで会話にならなかった。


 そうした微妙な空気が漂う中辿り着いたのはボロい木造の宿だった。


「ここだ。今日はここの宿に泊まれ。主には話しを通してあるからまともな食事が出るはずだ。所望の戦乙女は後で寄越す。お前のものだ、好きに使え」

「はいよー」


 一応個室を与えられたが、置いてあるベッドは硬いし、飯は硬いなんの肉かわからないものが入ったスープと硬いパン。これでまともって普段皆はどんなものを食ってるんだよ。現代を生きていた俺からは想像がつかない程だった。


「なあメアリー。この世界一応レベル要素あるんだろ? レベル上がったらなんかチートスキル使えるとかないの?」


「チートかどーかはわからないけど、天使様が色々と便宜を図ってくれると思うよー」

「天使ってあの?」


 頭の中にパーカーを着た俗っぽい天使が浮かぶ。どうしてもホーリーに様をつける気にはなれなかった。


「うん。後、嫁との絆を深めたり、自分の国を作って発展させていったりすると、固有スキルを与えるって言ってたよー」

「どうせしょぼいやつなんだろ?」


「んーと、こーへーの世界のものを買ったり出来るみたいだよ?」

「ウソでしょ!?」


 マジかよやったぜ。ありがとうございますホーリー様。俺は自分でなければ見逃す程のスピードでもって掌を返した。


 お買い物が出来るとか、この世界の常識を変えかねないだろう。農業するにも農機具買えば格段に生産量は増えるだろうし、戦闘にしたってそうだ。この世界で銃がどこまで通用するかわからないが、無用の長物になるという事はないだろう。


 はっきり言ってチートだチート。やったぜ。


「でもね、それはこーへーの経験値を消費するらしいよ?」

「ん? レベル上がるとかっていう概念は無いのに経験値は存在するのか」

「うん。そのへんよくわからないからこんど天使様に会ったら聞いてみるといいよー」

「そうする」


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