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Tell Your World

   一日目


 そんなこんなで一夜開けた今日、俺は驚愕した。

「なんじゃこりゃあああああああ」


 松田優作ばりに叫んだ。そりゃ叫びたくもなる。目が覚めて部屋の扉を開けたら目の前に広がるのは荒野。どう考えたってあり得ない。


「どうしたのよー? 朝からそんなに大きな声だしてー」

 後ろから聞き覚えのある声がした。昨日の夜に聞いた声だ。間違いないメアリーだ。


「おま、お前ガチだったんかよ! 信じらんねえ……信じられるかーい!」

「うわー! うるさーい!」


 メアリーはスーイと宙を軽やかに飛んで俺の頭をポカポカと叩き始めた。全然痛くなかったけど、目の前をチラチラされると鬱陶しかったので、ひらひら揺らめくメアリーをむんずと掴んだ。


「わー離せー!」

「どういう事やねん! ちゃんと一から説明せえ!」


 などとメアリーとシッチャカメッチャカに暴れていると、不意に冷めた声が聞こえた。

「っんとにうっさい男ね……」


 声の方を振り向くと、ちゃっかりと俺のベッドに腰掛けた羽の生えた女性がいた。ジトっとした目と絹のように細い銀髪が特徴の天使としか形容出来ない女性だった。ちなみに胸は普通サイズ。どちらかと言うと彼女は太ももが美しかった。彼女も、自身の見た目に自信があるのか太ももを強調したミニスカートとパーカーという出で立ちだった。


 天使なのになんか俗っぽかった。いや本当に天使かどうか知らんけど。


「あんた誰やねん」

「あんた方が言う所の天使。名はホーリー。ちゃんと様付けしなさいよ? あんたは私の力でこの世界に来たんだから、全部私のおかげよ」


「いや頼んでないし」

「毎夜毎夜ファンタジー世界行きたーいって思いながら寝てたでしょ。私知ってんだからね。あんたが主人公のラノベチックな妄想してる事」


 顔から火が出るとはこの事を言うのだろう。黒歴史ノートを人前で音読されたが如き喪失感が今俺を襲っていた。しかしながら俺はめげない、なぜならここでめげてしまっては話しが一向に進まないからである。


「で、あんたは何しにここに?」

「だから、ホーリー様だっつってんでしょ! まあいいわ。あんたにはこの世界で『英雄』になってもらう必要があるの」


「『英雄』?」

「そ。ヒーローって言い換えてもいいかもね。民衆を救って、人々の指標となるの」

「さっぱり意味がわからないんですけど」


「一回しか言わないから耳かっぽっじって聞きなさい? 今この世界は『魔王ブリュンヒルデ』に侵攻されつつあるの。元々は多種多様な種族が共生して成り立っていたんだけど、突如として『魔王ブリュンヒルデ』は『魔軍』を伴ってこの世界の征服に乗り出した。あんたにはそれを阻止してほしいの」

「いや俺パンピーだから無理です」


「そこはほら、よくある転移特典ってやつよ。『嫁ガチャチケット』と『ハウトゥーファンタジー』を利用して頑張りなさい。私もちょっとだけ手を貸してあげるから。大丈夫、なんとかなるから」


 ちっともなんとかなる気がしなかった。何よりジトっとした目と冷めた表情でそんな突飛な話しをされても頭がついていかなかった。


「よしオーケー、まずはその『嫁ガチャチケット』ってのを説明してくれ。ちょっとずつ教えていってくれないといっぺんには覚えられない」


「はいはい。『嫁ガチャチケット』ってのはその名の通りあんたの『嫁』を召喚するチケットよ」

「はい?」


「あんたの念願のハーレム形成チャンスよ。よかったわね」

「いや意味わからん。嫁を召喚ってどういう事やねん」


「だから『嫁』を召喚するチケットだっつってんでしょ。初回特典で今回はノルマ無しで引かせてあげる。ほれここから一枚引いて」


 ホーリーはそう言ってくじの入っているだろうボックスをどこかから取り出して俺に向けてきた。

 何もかも唐突すぎて俺は言われるままにくじを一枚引いた。くじを開くとそこには「尽くす人がいないと寂しくて死んじゃう戦乙女」と書かれていた。


「あらあんたツイてるわね。最初の『嫁』としてはこれ以上ないくらいに最適じゃない」


 意味不明だった。こんなくじを引いたからといって何があるというのか。戦乙女どうこう言われても今現在何かが変わった様子は見られない。ひょっとして俺はバカにされているんではないだろうか。そんな気すらしてきた。


「あんたにはこれから『戦乙女ルート』を攻略してもらう。ま、難易度的にもチュートリアルとしては最適でしょう」


「ホーリーさんや、もっと詳しく説明してくれないと訳がわからないよ」

「ノベルゲームでよくあるでしょ? 誰々のヒロインルートって、それよ。ある程度の困難を乗り越えて、出会った『嫁』候補をルート攻略する事で『嫁』にする」

「そのルートって?」


「今回だとそうねえ、ちょっと行った先に村があるんだけど、そこちょうど『魔軍』との戦いで疲弊していて食糧難に陥っているのよ。で、更にもう少ししたら『魔軍』の第二侵攻に見舞われる。あんたにはこの二つの困難を乗り越えてもらう。そうすると道中で出会う予定の戦乙女があんたの『嫁』になるって訳。無事ルート攻略ね」


「そこまでわかってるんだったらあんた達が解決すれば済む話しじゃないか」


「だからホーリー様だって……まあいいわ。それじゃダメなのよ。世界を救うのは一人の『英雄』でなければダメなの。いつだって世界を救うのは一人の『英雄』と相場が決まっているでしょう? それよ。天使がどうこうしちゃいけない決まりなのよ」


「で、その『英雄』に俺が選ばれたと」

「そゆこと。ま、ここまで説明してなんだけど、あくまであんた候補の一人だからここで断れば全ては無かった事になる。これまでの記憶は消えてあなたは退屈な日常に戻る」

「はい。僕『英雄』になります」


 俺は即答した。それ程までにあの退屈な日常には未練がなかったのである。


「ふむ、よろしい。では次に『ハウトゥーファンタジー』について説明するわ。これにはこの世界の事が描かれている。今巷で何が流行っているとか、何を売ればお金になるとか、どこで戦争が起きるかとかね。ま、ある種の未来日記ね」

「何それめっちゃ便利やんけ」


「でしょ? あんたはこの二つを利用して『魔王ブリュンヒルデ』を討伐して『英雄』になるの。キャッチコピーは『嫁を育てて世界を救え!』ってところかしらね」


 素晴らしいキャッチコピーだった。俺の中に眠る何かを刺激するには十分過ぎる程にそれは魅力的な言葉だった。


「『嫁』にはそれぞれ特徴があるわ。個性と言ってもいいかもね。さっきあんたが引いた戦乙女は大器晩成型。序盤は扱いづらいけど、レベルが上がれば強力な戦力になり得る」

「どうやったらレベルが上がるんだ?」


「共に困難を乗り越えるだとかで『絆』を育んでいくの。『絆』がイコールレベルになるわけ。だから、放置とかしてると当然レベルはどんどん下がっていく。『嫁』が増えていくに連れてその辺の管理はずっと難しくなっていく。ま、その辺はあんたの手腕にかかっているってわけね」


 全ては俺の頑張り次第という事か。ぐーたらな退屈だった世界に色がついていくのがはっきりとわかった。今俺はまさにゲームやラノベの主人公になったんだ。


「『嫁』はどのタイミングで増えていくんだ?」

「『嫁ルート』を攻略して、ある程度の絆を育んだら私が次のチケットを持ってくるわ。だからあんたは安心して私の言う事を聞いてればいいって事」


「なるほど。全てはあんた次第って事か」

「だからホーリー様だっつってんでしょ! いい加減しばくわよ!」

「はいはいすいませんホーリー様。で? 俺はさしあたって何をすれば?」


「……私は心が広いので許しましょう。最初の『嫁』がいる場所、『スフィーダ王国』に向かってもらうわ。ここから歩いて四十分くらいの所にあるわ。そこで『食糧難』と『魔軍』の進撃を阻止して。それが出来れば『戦乙女ルート』を攻略したと認定してあげる」


「それはどうすればいいんだ?」

「それは自分で考えなさい。あんたは『英雄』になるのよ? それくらい出来なきゃ困るわよ。お供にメアリーをつけてあげるから、ま、程々に頑張りなさいな」


 言うだけ言ってホーリーは大きく翼を羽ばたかせるとこの場から去ってしまった。


「だとさ。頑張ろうな、メアリー」

「はいさー」


 こうして俺の『英雄譚』は幕を開けた。


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