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HEART&SOUL

「すごいわねー。人がいっぱいいる」


 俺の肩に乗って羽を休めていたメアリーが言った。確かに、メアリーの言う通り人が多い。この世界に来て初めてこんなにたくさんの人を見たな。初日から兵団との打ち合わとかで忙しくて街を見て回る時間が無かったからな、人が多いだろうとは思っていたけど、まさかここまでとは。


「そうだな。皆良い顔をしてる」


 ウォーム王国は市が栄えてるようだった。多くの人が店先に思い思いの商品を広げて物々交換をしている。結構な規模だし、人の多さも相まってウォームはやはり大国と言っても差し支えないだろう。


 これだけの規模で小さな取り引きがあちこちでを行われているのを見るのは初めてであろう騎士長とアンジェは、目を白黒とさせていた。まあ、スフィーダ王国は比較的小国だしな。しょうがないだろう。その内俺が大国にするけどさ。


 しかし、ドミーナと争っていたにも関わらず、人々の顔色がいいのはやっぱり大国の貫禄ってやつかね。食料に余裕があるって大事だな。


 兵が足りないとか言ってたけど、これだけの人がいるんだ、その辺歩いてる人に兵役を課したら兵が不足してる問題なんてすぐにでも解決しそうなもんだけど、ブリッツ王がやらないという事は何か訳があるんだろう。


 それにしても、あのリンゴみたいな果物美味そうだな。


「りんご……食べたいの……?」

 知らす知らずの内に視線が固定されてたのかカンナが俺に聞いてきた。


「ん? ああ、出来れば食べたい」

「……待ってて」


 そう言ってカンナは小走りでリンゴを売っている小太りのハゲたおっさんのもとへと向かっていった。一言二言何かを話して、こちらに山程のリンゴを抱えて戻ってきた。


「はい。……たくさんあるから……好きなだけ食べて……」

「あ、ありがとう」


 たくさん過ぎるだろう。どう見ても十個以上あるんですけど……。そんないらないっす。きっと客人相手だから気を使ったんだろう。足りないより多い方がいいしな。そういう事にしておこう。


「うふふ……いいのよ……ふふふ……」

「美味そうだな。俺にもくれよ」

 そう言って騎士長がカンナが両手で抱えているリンゴの山に手を伸ばした。

「……好きにすればいい……」

「アンジェも食いな。みずみずしくて美味いよ」


 このリンゴは俺の知っているリンゴとは比べ物にならない程みずみずしくて美味かった。空気や水が綺麗な分作物も美味しく育つのかな。


「はい。いただきます」


 さーてどこに案内してもらおうかなー。出来ればドワーフがやってる鍛冶屋を見たいんだけど、ここには無いだろうしなあ。そうだ、行商人が集まる場所に案内してもらうか。他国の品を確認したかったし、丁度いい機会だ。


「行商人が集まる場所とかってある? あったらぜひ案内してほしいんだけど」

「……なぜ?」


「うーん、いろんな国の商品を見てみたいからかな。俺あまりそういうのに詳しくなくてさ。勉強中なんだ」


「……わかったわ……なら丁度いい場所がある」

 そう言ってカンナはリンゴを抱えたままゆっくりと俺達を先導し始めた。


 後ろ姿を見てて思うけど、やっぱりすげえ暗い雰囲気をまとってるな。背後霊でも見えそうな勢いだ。着てる服が黒いのも更に助長している。


 ものすごいボインなんだからせめて猫背を直してちょ。せっかくのボインが見えないよ。俺泣いちゃうよ?


 なんて事を考えていると背後から突き刺さるような視線を感じた。間違いない、アンジェだ。修羅場回避の言霊をセットしなければ。頼む、俺の脳。なんか生み出してくれ。


「ア、アンジェ。リンゴ美味しいな」

 悲しいかな。俺の脳はこんな言葉しか思いつく事が出来なかった。


「そうですね。でも、公平様はあの人に目がいってるようですけど」


 釘を刺すように言われた言葉は事実だった。だって気になるじゃん。一応俺の嫁の一人なわけだし。でもそっちに注視し過ぎるとこうなる。アンジェの事もしっかりと気にしているという事をアピールしなければ!


「そんな事ないさ。アンジェの事もしっかり見てるよ。初めて会った時よりもずっと見てる。俺の嫁さんだろう? 大きな心で許してくれよ」


 結局俺は正直に俺の心を告げた。アンジェ相手に搦め手は無意味だろう。なら素直に俺の心を告げてお目こぼしをしてもらうしかない。


「……そうですね。私もハーレムを容認した身ですし? あちらの出方次第ですけど」


 とアンジェの視線の先にはやたらと挑発的な目をしたカンナがいた。


 頼むよ……二人共仲良くしてくれよお。おお神よ、なぜあなたはこんな困難を俺に与えるのですか、なんて思ったけど、よくよく考えればそもそもの原因はホーリーだった事に気付いた。ちくしょうホーリー。


「……あなたは……所詮二番目……うふ」

「っな! あなたの方が二番目です! 順番では私の方が最初でした!」


「はいストップ。頼むから、二人共仲良くとは言わないけど大人としての付き合いをしてください。そうじゃなければ俺の胃が死んでしまう」


 俺の言葉にアンジェ「ふんっ」と。カンナは「うふふ……」と。


 てかなんでカンナはそんな余裕そうなんだよ。正妻的な雰囲気出してるけど確かに順番的にはアンジェの次なんだけどな。さっきかけられた呪術が関係しているのだろうか。


 なんてやり取りをしていると、街の中心部まで来ていた。


 いかにも行商人風の人が大きな馬車から荷物を取り出してたり、羊皮紙片手に偉そうな人となんか話してたりと、先程までの市とはまた別の取り引きが行われていた。値引き交渉とかしてるみたいだし、雰囲気的には中央卸売市場みたいな感じだな。


「はあー。またすげえもんだな。なんか自信無くなってくるな」


 騎士長が驚きと呆れが混ざった声音で言った。そりゃあスフィーダと比べたらデカイけどさ、その態度はお上りさんそのものだよ。


「なんでだよ。自分の国を誇ろうぜ? スフィーダだって悪くないだろ」

「そりゃそうだけどよ。こんなん見せられたら、なあ?」

「さあね。ここの商品は個人でも取り引き出来るの?」


 騎士長との話しを打ち切って、俺はカンナに疑問をぶつけた。もし個人でも取り引きが出来るのであれば、いろいろと楽しそうだ。俺の世界のものとか見せたらどんな反応するかな。


「出来るわ……欲しいもの、あるの……?」

「んー今は特にないかな。将来的に必要になったらここに来るかもしれないから、その時にまたカンナにお願いするよ」


「わかったわ……」

「あ、俺は武器と防具が欲しいな。ボロくなってきてたし、いい機会だ」

「あくまでもブリッツ王の好意なんだから遠慮はしろよ? アンジェも、折れたハルバードの代わりを見つけてくれば?」


「そうですね。武器が無いと公平様をお守り出来ませんし、ブリッツ王の好意に甘えます」

「うん、そうしな」

「うっひゃー、ミスリル鋼の剣だってよ! やべえね初めて見たぜ。こっちはカタリナの鎧かよ。すげえ! 初めて見るもんばっかだ!」


 騎士長……常識の範囲内で頼むよ……。ミスリルとかファンタジー世界だと高価なものなんじゃねえの? やめてくれよ、もっと安い銅の剣とかにしてくれ……。


「……この後、あなたは国に戻ってしまうの?」


 大人げなくはしゃぐ騎士長を眺めていると、いつの間にか俺の横にぴったりと張り付いていたカンナが言った。


「うん。あくまでも拠点はあっちだからね。ドミーナの事もあるし、しばらくは頻繁に行き来するだろうけどね。どしたの? なんかあるの?」


「……そう……わかったわ。ただ……知りたかっただけ」


 そんな感じで俺達はまったりとしたペースで会話をしていた。しばらくして、ホクホク顔の騎士長がアンジェを伴って戻ってきた。


「いやあ、いいもん見つけたぜ。ってなんかしてたん?」


 なんのこっちゃと思って騎士長が指指している隣を見ると、カンナが服が触れるくらい俺の近くにいた。はしゃいでる騎士長達を見ながら会話してたから全く気づかなかった。多分カンナは会話してると無意識に人に近づく癖を持っているのだろう。隣を歩いてるとよく手とかがぶつかる人がいるけど、あんな感じだろ。


「なんもしとらんよ。それ、ちゃんと常識の範囲内だよな?」


 俺は騎士長が手にしていた、光を反射して輝いてる剣を指さして言った。アンジェは遠慮の固まりみたいな人間だから問題無いだろうけど、騎士長は怪しいからな。


「おう、銀の剣だ。ちょいと値は張るが、俺らの働きからしたら妥当だろう」


 銀って、ラインに触れるか触れないかの微妙もん選んできたな。値段知らんからわからんけど、そんなに高くない事を祈ろう。


「アンジェはどんなのにしたの?」


「鉄のハルバードにしました。今の私の力だと、またすぐに折れてしまうので、直しやすい鉄にしてみました」


 成る程ね。鉄ならある程度軟性があるから、青銅とかよりはポッキリいきづらいだろうし、いいチョイスだ。


「じゃ、申し訳ないけどカンナ、お支払いお願い」

「わかった、わ……」

「なあ、そろそろ腹減らないか? もういい時間だし、飯にしようぜ」

 騎士長は新たに手に入れた剣を腰に固定しながら、腹をさするという器用な事をしながら言った。


「確かに腹減ったな。カンナ、ご飯食べれる場所に案内してくれる?」

 支払いから戻ってきたカンナに問うと、彼女は少し考える素振りを見せた。


「少し行った所にご飯の美味しい酒場があるわ……」

「酒場か、いいね」


 ファンタジーRPGっぽい。冒険に役立つ事を店主が教えてくれるんだよな。なんて事を考えながら酒場へと向かった。


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