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ヤンデレ呪術師カンナ・クロサレナ

   十二日目


「よくやってくれた」

 ウォーム王国に戻り、作戦の成功を告げるためにブリッツ王のもとを訪れた俺を迎えたのはこの言葉だった。


「はい。無傷で、というは訳にはいかなったですが、なんとかやりきれました」


 こちらの被害は決して少なくはなかったが、目的は完全に達した。これでしばらくの間ドミーナ王国は混乱に包まれる。後は政治的に溶かすなり利用するなりをブリッツ王、カルド王と決めていこう。


「後は王の欠けたドミーナの扱いだが、里中は一度スフィーダ王国に戻るのだろう?」


「はい。ドミーナの件は早く行動を開始しないといけないとは理解しているのですが、すみません、こちらにも都合がありまして」


「いい、わかっている。急ぐと言っても、二、三日やそこらでどうなる話しでもないだろう。問題は無い。ところで、もう協定を結ぶ事は可能か?」


「はい。ただ、ブリッツ王がお書きになった正式な書簡が必要です。それをスフィーダに持ち帰り書面に同意した上で、スフィーダからもこちらに書簡をお渡しします。それに同意した時に、両国の間に正式な協定が結ばれた事になります」


「そうか。すぐに用意しよう。こちらとしても早くスフィーダと手を結んで、お前を引き入れたいと考えているのでな。公平がドミーナに寝返った場合の事を考えると恐ろしい」


 ふーん。そういう感じで釘を刺すのね。一見すると褒めてるように思えるけど、その実これは裏切ったら許さないと言っているのだろう。こっちは裏切ろうにも裏切れないっての。どんだけ俺の事評価してるんだよ。


 それに、ここは絶対に裏切らないさ。優秀なトップがいる国は将来が有望だからな。成長に手を貸して、俺の助けになってもらうのさ。


「ご冗談を。私だってウォーム王国とは戦いたくありませんよ。目の前でこの国の兵の戦いを見た今なら尚更に」


「ならいいがな。書簡をしたためる。その間ぜひウォーム王国の街並みを見て回ってくれ。王である私が言うのもなんだが、いいところだぞ。勝利祝いに街にあるものは好きに買って構わない。国が保証する」


 やったぜ。こっちの世界に来てからずっと働きっぱなしだったからいい機会だ、思いっきり羽をのばそう。美味しいものを食べて、嗜好品を買って、えへへ。夢が広がりまくリングだぜ。


「ありがとうございます!」


「喜んでくれたようでなによりだ。すまんが、護衛と支払いの保証証明を兼ねて国の精鋭を一人付ける。何、今もついているから何も変わる事はない」


 今もついてる? 見えない所で護衛か監視の人でもつけてたんだろうか。


「どんな方ですか?」


「呪術師のカンナ・クロサレナ。気を付けろよ。十七歳という歳に加えて見目麗しく肉感的な体をしているが、呪術系血統の頂点に立つクロサレナ一族の末娘だ。この間も軍の一人が、彼女の寝込みを襲おうとして呪われた」


 え、何故その名前が今ここで。


「あの、今もついてるって……」

「ん? ほれ、お前の後ろに」


 え。


 俺は振り返り、時が止まった。アンジェと騎士長とメアリーもあんぐりと口を開けて固まってしまった。


 だって、俺の真後ろに人がいただなんて今の今までまったくもってこの場にいる人間が気付いていなかったのだから。


 俺の真後ろには、黒髪ロングの知性を感じさせる切れ長の鋭い目をした全身黒タイツのやたらと肉感的な女性が立っていた。服装が、タイツにローブってありかよ……。


「……やっと……こっち、見てくれたわ、ね……えへへ」

「いや……え……?」


「む。その反応はまた身体隠しの呪文をかけていたのか。クロサレナ」

「……ずっと……かけてたわ。かけて……守ってた、の……」


 守ってた? まさかとは、いや、まさかじゃないんだろうな。この子嫁ガチャチケットで出てきた嫁だもんな。やっぱあの時のあれに関わっているよなあ。


「あの時魔法で守ってくれたのは君?」

「……そうよ……貴方の事、ずっと見守ってた…………うふふ」


 そこで、彼女が手をそっと差し出してきた。握手してって事だよね。変な呪文とかかけられないよね? ね!


「あ、握手ね。はい」

 あ、なんか暖かい何かが手を伝って来た。これ確実に呪文かかってないかなあ。

「……これで、貴方は私のもの…………えへへ」


 ひえーこの人こええよ。見た目めっちゃ美少女だけどめっちゃ病んでるじゃん! こりゃホーリーが肩に手をポンと手を置く訳だ。アンジェと絶対相性悪いだろ、これ。


「ふむ。クロサレナに気に入られているようだな。ちょうどいい、彼女にはスフィーダの使者としての役も担ってもらうとしよう。出来るな? クロサレナ」


「ふふふ……ええ……喜んで……うふふ」


 ああ、アンジェが親の仇でも見るかのような目でカンナを見ている。どうすんだこれ。メアリーは未だびっくりしたままだし、騎士長はニヤニヤしてるし、ブリッツ王は変わらずだしで、カンナ一人のせいでとんでもないカオスな空間と化してしまった。


「興味本位ですが、その呪われた兵士はどうなったんですか?」

 騎士長、そんな事聞かなくていいから。聞いてしまったら俺の明日が無い。


「世の中には聞かない方がいい話しもある……」

 ほら出たあ! 聞かない方が良かったじゃん! もうこれどうすんだよ。


「おおこわ。公平、良かったな。そんなかわいこちゃんに好かれてさ」


 っく。素直に喜べないからなんて反応していいかわからない。ここで否定的な態度を取ってカンナって子の機嫌を損ねない、そんな返答。これだ!


「そ、そうだなー。アンジェといいカンナといい両手に花ってやつだ!」


 気分はギャルゲーの主人公だった。両方に良い顔しないとバッドエンド直行だこれ。

 ああ、アンジェが顔を真っ赤にして身もだえていらっしゃる。あれはどんな反応なんだ。ポジティブに捉えていいのかネガティブに捉えるべきなのか。


「……私……重たい、から…………気をつけて」


 自分で言うんかーい。重たいんだろうね。そんな匂いがプンプンと君からはするよ。ナイスボートな展開だけは避けなければ。


「さて、話しも一段落ついた所で」

 ついてないから! まったく一段落してないよブリッツ王!

「街の観光に行ってくるといい。ウォームはすごいぞ。健全な観光を約束しよう」


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