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二人の南国

 ウォーム王国への入国と王様への謁見はハウトゥーファンタジーのおかげでスムーズにいった。さて、ウォーム王国の王、ブリッツ王を目の前にしたここからが俺の戦いだ。


「お前たちがここに来た理由はわかる。大方ドミーナについてだろう?」

「はい。我々スフィーダ王国はウォーム王国と正式な協定を結びに来ました」


 カルド王の許可取ってないけど、まああの人ならなんとかなるだろう。なあなあで許してくれそう。


「協定自体は構わん。だが、現段階のスフィーダ王国には魅力が感じられん。確かに、スフィーダ王国が我がウォーム王国に協力してくれるのであればドミーナを倒す事も出来るかもしれない。しかし、それだけだ」


「言いたい事は理解しているつもりです。お互い時間がありません。単刀直入に話しましょう。あなたは戦後の事を見据えている。違いますか?」


「ほう、少しは頭が使えるようだな」


 あんたもな。安心したよ、ウォーム王国のトップが無能じゃなくて。これなら国力が高いのも納得出来る。この国のトップは先を見ている。


「ありがとうございます。ウォーム王国は食料自給に偏って、兵力があまり充実していないご様子。そこで、我々としてはまず、戦後一年間スフィーダ王国の兵をウォーム王国の兵力に換算する、という提案をしますがいかがでしょう?」


「確かに、ウォーム王国は兵が充実していない。だが、兵の頭数は少ないが、兵一人ひとりの実力は確かなものだ。少数精鋭とも言えるな。しかし、足りないのは事実だ。その提案は魅力的だな。だが、まだ足りないな」


「せんえつながら、あなたが優秀な王であると私は確信しました。そこで、私は先行投資を要求します」

「先行投資? 先行投資とはなんだ?」


 お? ひょっとしてこの世界にはまだ先行投資という概念が無いのか? これは……イチかバチかの賭けは大好きだ。突っ込んでやる。


「先行投資とは目先の利益にとらわれない取り引きの事です。今すぐに利益にはならずとも、投資を行いゆくゆく得られる利益と交換するという事です。この場合ですと、ウォーム王国は我々スフィーダ王国と協定を結びます。現段階で利益が得られるのは我々だけですが、スフィーダには将来性があります。ウォーム王国は将来得られるであろうスフィーダ王国の利益を受け取る権利が出来るという事です」


「なるほど。しかしそれだとスフィーダ王国に裏切られる危険性があるな。お前は私からどう信頼を勝ち取るつもりだ?」


 やはりこの王はバカじゃない。先行投資という言葉は恐らく初めて聞いたはずなのに、もうメリットとデメリットを理解し始めている。認めるしかない。優秀だ。知識さえつけばこの人は偉大な指導者になる。この国はもっとデカくなるぞ。将来の大事な取り引き先になるかもしれない。慎重にいこう。


「最小の被害でドミーナを崩壊させる作戦、でどうでしょう?」

「聞こう」


「ドミーナ国王が近々査察と称して王宮を出るという情報を持っています。それを利用します。国王が逃げる事が出来ない位置まで来ると同時に正面から攻撃を仕掛け、混乱を生じさせます。その混乱に乗じて別の道からドミーナに侵入し、王を殺害し、速やかに撤退します。王さえいなくなればしばらくはドミーナは機能しなくなります。その間にどうするかは話し合いで決めましょう」


「……襲撃にはどちらの兵を使う?」

 この人すごいな。どこまでも自国のリスクを減らそうとしてる。


「もちろん、こちらの兵が」

「お前、名前は?」

「里中公平です」


「里中、いいだろう。その要求を承認する。お前の話した先行投資という取り引き、実に面白かった」

「ありがとうございます」


「今日はここに泊まっていけ。後で使いの者に作戦室まで案内させる。そこでこの国の兵にもさっきの作戦を説明してやってくれ」

「わかりました」


 その後俺達はウォーム王国の宿に案内された。着いてすぐに俺は作戦室に呼ばれ、作戦を説明させられたが、王様が言うように彼らは優秀だった。俺の作戦の本質をしっかりと理解し、俺が言うまでもなく配置を決めてくれた。


 ウォーム王国。味方だと心強いが、絶対に敵には回したくないな。人材が優秀過ぎる。現段階で機嫌を損ねたら勝ち目がない。


 何にしても、ウォームが味方になった以上ドミーナを確実に溶かす事が出来る。その先に待っているのはご褒美の領地だ。領地を手に入れたらやる事は決まっている。まずは領地の開拓。そして人を呼び込み農業を開始させる。早く国づくりがしたいな。これも国づくりの一貫といえば一貫だけど、やっぱり自分の土地を好きなように転がしたい。


「へっぷそいっ!」


 くしゃみが出てしまった。なんかブリッツ王と交渉してから背中に妙な視線を感じるんだよな。なんなんだ。日頃の行いのせいで呪われたか? 


 悪寒もするし、今日はもう寝よう。アンジェには悪いけど、今日は一人で寝かしてもらおう。


「ふふふ……ふふ……」


 宿の扉に手をかけた時に何か聞こえた気がしたが、そんな事より今は睡眠が取りたかった。のだが、


「残念ながら寝るにはまだ早いのよねー」

 いつ以来か、あてがわれた俺のベッドに例の天使様、ホーリーが腰掛けていた。相変わらず俗っぽいパーカーファッションだった。


「何よその『げっ面倒なのが来た』みたいな顔」

「いや事実俺今から寝ようと思っていた所なんで」


「残念ながら寝るにはまだ早いのよねー」

「それさっきもきいたよー」


 俺がわざわざ突っ込まなかったのに、自らを主張するためにメアリーが突っ込んでしまった。面倒そのものだった。


「同じ事言ったもの、当然よ」

「でしょうね。で? 用件はなんですか」


「とりあえず敬語やめましょう。なんかあんたの敬語気持ち悪い」

「あんた人に毒舌だねって言われた事ない?」


「敬語なくした初めての言葉がそれってあんたもなかなかよ? まあそれは置いといて」と、ホーリーはジェスチャーをした。「戦乙女ルート攻略おめでとうを言いに来たのよ」


 ああ、なんかそんな設定あったなってレベルで忘れてた。


「日々が忙しすぎて忘れてた。ってかルート攻略の鍵ってひょっとしてアレ?」

「まあ、彼女はチョロインだし、ねえ?」

「ねえと言われても……」


 頭を抱えたかった。この人と会話しているとなんか妙に脱力する。あ、人じゃなくて天使だったわ。


「そんなあんたにご褒美よ。熱望のお買い物スキル贈呈してあげる。役所の申請通ったのホントは昨日なんだけど、ま、それはいいでしょ」


「いやよくねーよ! 早ければ早い方が良かった! 下手すりゃ今回の交渉もっと楽に出来たかもしれないじゃねえか!」


「で、このお買い物スキルなんだけどね」

「あ、そこスルーするのね」

「で、このお買い物スキルなんだけどね」

「天使様また二回いったー」


 だから突っ込むと話しが進まないってさっきも言ったような気がしたけど、口には出してなかった。ホーリー様と会話してると調子が狂うな。


「あんたの経験値一ポイントを一円と換算してお買い物が出来ます」

「って事は?」


「今あんたは十二万円持ってる事になるわね。それを使ってハウトゥーファンタジーでお買い物出来るわよ。品物は基本なんでも揃ってるけど、良い物になればなる程金額は嵩むから気をつけるよーに」


「ちょっと待った。その経験値なんだけどどういう条件で加算される訳?」

「あーそういえば言ってなかったっけ?」

「言ってない!」


「……これもお役所務めの辛い所よねー。私も色々仕事入ってて忘れてたわ」


 ホーリー様、いやもう様なんてつけない。ホーリーはヒューヒューと吹けてない口笛を吹いて誤魔化しやがった。


「……もう何も言うまい。なんでもいいからはよ説明せい」


「へいへい。基本は嫁が倒した敵から得られる経験値よ? それはあんたも体感してるでしょ? で、その他に何を成したかでボーナスポイントが加算されるの」


「何を成したか?」

「そ。例えばスフィーダを飢饉から救ったとかね」


 得心がいった。やたら多くポイントが入ってる時があると思ったらそういう事だったのか。


「ホントは英雄候補が仕事した時は私が行って教えてあげないといけないんだけど、まあそこは責めないように」


「いや責めるよ! なんで来なかったん?」

「他の英雄候補生達の相手してた」

「なんで俺を後回しにする!」


「いやぶっちゃけあんたがここまで仕事してくれるとは思ってなかった」

「軽い! 俺の扱いが軽い!」


「おかげでこっちは余計な書類仕事が沢山増えたっちゅねん。仕事速度早すぎよ。あんたこっちに来てからまだ七日目でしょ? その間にやった事言いなさい」


 スフィーダ飢饉から救って、モントーネ村を領地にして、ウォーム王国との交渉を成功させた。


「……あれ? 俺ってひょっとしてめっちゃ仕事してね?」


「してるのよ。過労死するレベルで。でさー嫁ガチャチケットの配布滞ってんのよ」

「嫁ガチャチケットの配布条件は?」


「基本ルート攻略後すぐに英雄候補の意思で引ける、んだけどあんたの場合初回がチョロインでしょ? ぶっちゃけかなり初期の段階で条件満たしてたんだよね」


「お前仕事しなさすぎじゃない?」

「あー天使にお前とか言ったーわーるいんだーいーけないんだ。ねーメアリー?」

「ダメだよーこーへー。天使様にお前とか言っちゃ」


 ちくしょう味方がいない。アンジェはどこだ。彼女には今日は別部屋で寝ようと提案していたんだった。失敗したちくしょうめ。


「天使は天使で色々仕事があんのよ。無能な上司のご機嫌取りとかさあ」


 溜息と共に吐き出された言葉には妙な重みがあった。言うように天使には天使の苦労があるのだろう。そう思うとなんか許してあげようという気になってきた。


「で、まあ話しは戻るんだけど、あんた嫁ガチャチケット引けるけど引く? というか引いてください。このままでは私が過労死してしまう」


「何故に?」


「……普通嫁ガチャチケットって『嫁』がランダムに選ばれるんだけど、例外があるのよ。よくいう運命の相手だーってな感じで『嫁』側が英雄を指名するパターンね」


「それに俺が選ばれたん?」

 ホーリーは何も言わずに俺の肩にポンっと手を置いた。

「なぜそんな反応を……」

「引け」


 引きたくねー。超引きたくねー。けどきっとルート攻略とかそういうのの流れからいって引かないといけないんだろうなあ。嫌だなあ。


 などと言っても話しが進まないので、結局諦めた俺は嫁ガチャチケットを引いた。


「はーいおめでとう。『呪術師』のカンナ・クロサレナをゲット~」


 ちっともめでたいと思っていない言葉と共に引かされたチケットを見てみると、「ヤンデレ呪術師」と赤文字で書いてあった。


「…………」

「まあ、そんな反応になるわよね」

「血みどろの未来しか見えないんだけど、気のせいかな?」


「それはあんたの采配次第。まあ能力的にはかなり有能だから。大陸でも五本の指に入るクロサレナ一族の末娘。現状でも十分強いし、将来性もバッチリ。アンジェも大器晩成型だし、あんた『嫁』運は良いのよね」


「ちなみにルート攻略の条件は?」

「なし。強いて言うなら会って話す事くらいかしらねー」


 アンジェといいこのカンナという子といいなんなんだ。なんで素直に喜べない系のトリッキーな感じで攻めてくるんだ。


「って事はこの時点で俺は嫁ガチャもう一回引けるって事か」

「そ。あんたもしかして引く気? 気は確か?」

「いや引くわけないだろ。ただの確認だよ」


「ですよねー。ちなみに他の英雄候補ポシャって私あんたの専属になったから、これからはもっと頻繁に顔出すからそこんとこよろしく」


「あんたが来ると大抵面倒しかないからもう会いたくねえよ」

「ま。こんな美人を捕まえて会いたくないなんてよー言うわ」

「自分で言うな自分で」


 確かに美人だけどさあ。アンジェにはない太ももの魅力はあるけど、それ以上に面倒を運んでくる印象が強い。


「じゃ、そういう事で。私仕事溜まってるから行くわ」


 言うだけ言ってホーリーは去っていってしまった。


「嵐のような女だ」

「天使様だからあらし起こせるよー」


 メアリーのいらない補足を聞いた俺は、今日はもう何も考えずに寝る事を決意した。


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