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ナイショの話

「お前さ、本当は悪魔でもなんでも無いだろ」


 移動のための馬に乗り上げながら、騎士長が妙に親しげに話しかけてきた。さっき食堂で見せた殺気は何だったのかと言いたい。人の事思いっきり睨んでたくせに。


「悪魔では無いですね。でもこの世界の人間ではないことは本当ですよ」


「なんでカルド王の前であんな態度を取った? もうちょっとやりようがあっただろ」


「優しいと便利は似た言葉です。俺は善人ではありませんし、便利な人間になるつもりもありませんから」


 人のために何かをしたいという気持ちは素晴らしいと思うけど、お願いされたからといってなんでも言う事を聞いていれば他人に良いように利用される人間になってしまう。本人にその気があろうと無かろうと。


 俺はそんなの嫌だ。俺の目的はあくまでも、キングダムを作って嫁さん囲って楽しく暮らす事だ。天使様に言われた「英雄」云々はその過程で成される事だ。


「カルド王はそんな事を考えはしないさ」


 なんて事を道すがら話しながら景気良くお馬さんで十二畳のキングダムに向かってパカらっていたら、前方から妙な音が聞こえてきた。


「なんか変な音しません?」


 馬の操縦が出来ない俺はアンジェの後ろの乗せてもらっているから前方に何があるのかイマイチ把握出来なかった。が、グニュグニュぐちゅぐちゅ、駄菓子屋に置いてある小さなバケツに入ったスライムを潰すようなそんな音は聞こえていた。


「スライムの群れです!」


 あー成る程。道理でスライムみたいな音がする訳だ。そりゃスライムが出してる音だもんな、スライムだわな。


「あ、ホントだ。スライムだ。まあグニョグニョと。こっちに向かってくるな」


 馬を止めたアンジェの肩越しに覗いてみると、数匹のスライムがうねうねとしていた。


「スライムの駆除は私がやります。騎士長は公平様をお守りしてください」

「わかった。公平の事は俺に任せろ。スライムは任せた。戦乙女の力見せてやれ!」


 アンジェは一度大きく頷いて素早く走り去っていった。


 ところで、スライムスライム言っていると、何がスライムなのかわからなくなってきたのは俺だけだろうか。きっと俺だけなんだろうな。俺以外駄菓子屋のスライム知らないもんな。ちょっと寂しい。すらいむ……。


「見て、こーへー。アンジェすごいわよー」

「え……」


 言われて見て、俺は言葉を失った。視界の先には当然アンジェがいる訳だが、そのアンジェの動きが信じられなかったのだ。


 少し近づいた今は見えるが、さっきの場所からではスライムがいるなくらいにしか見えなかった。しかし、結構な数がいたようだ。アンジェの周りには既に広範囲に死んだスライムが広がっている。それをアンジェは俺が少し目を離した隙にやってしまったのだ。


 だが、アンジェの動きを見れば納得だった。素早い動きで接近してハルバードの一振りでスライムを倒す。


 いくら最弱だろうスライムが相手にしても強すぎる。いつの間にこんなに育った? やはり、救国の英雄となった事が大きいのか? 


 そういえば、食料庫奪還の後にアンジェの育ち具合を見ていなかったな。俺はそう思いハウトゥーファンタジーをメアリーから借りた。


『戦乙女アンジェ。愛情度二十 レベル四 育成度八十』


 嘘だろ? レベルは今の戦闘と先の戦闘で上がったんだろうからともかくとして、確か最後に見た時の育成度は四十だったはずだ。それが倍になっている。俺は?


『里中公平 育成能力二十 経験値五万九百』


 ひょえー。とんでもない上がりかたしとるやんけ。やはり救国を行った事がデカイのか?

 

「公平様。ただいま戻りました。……ん? どうされたんですか? 何か考え込んでいるようですけど」


「アンジェが随分と強くなったなーと思ってさ」

「こ、公平様にいっぱい命令していただきましたから……」


 頬を赤らめてもじもじと恥ずかしそうに言うアンジェは反則級に可愛かった。背が高くスタイルの良い彼女がやるとギャップがあって、それがまた素晴らしい。けどそっかー命令かー。なるほどね、君そういう感じで育成度上がるのね。楽でいいけどさ、でもまあなんていうの? こう、悲壮感が漂っているように思うのは俺だけだろうか。


「そ、そっか。ところで騎士長、スライムってスフィーダ王国の兵が何人いれば一体倒せるんですか?」


「大体二人くらいだな。食料が戻ったからもう少し鍛えれば一人でもなんとかなるか、といったところだ」


 マジかよ、アンジェすげえ。最初のガチャチケットでチョロイン引けたのマジラッキー。

アンジェさえいれば村の解放くらいチョロいじゃん。流石神族、流石神話に出てくるヴァルキリー。


「あー。こーへー、またわるい顏してるわよー?」

「おっとっと」

 お菓子の事じゃないぞ。勘違いしたらダメだ。


「何にしても、この時点でお前は悪魔ではないと言い切れるんだがな」

 騎士長は安心したように笑いながら言った。

「なんでです?」


「戦乙女は関わる人間によってその姿を変えると言われている。アンジェはどう見ても黒くないだろ? つまり、お前は本質的に善人だという事だよ」


「勘弁してくださいよ」


「戦略や戦術が絡むと途端にゲス顔になるがな。ま、俺は良いと思うぞ。その方が付き合いやすい」


 騎士長にまで言われるとは。ホントに気をつけないとヤバいな。昔からポーカーフェイスって苦手なんだよなあ。


 その後は何事もなく調子良くパカらって我が十二畳のキングダムが見えてきた。しかし、ホントいつ見てもプレハブ小屋だなあ。見てて悲しくなってくる。立派だった我が家はどこにいったんだ。


「あれか?」

「そうです」


 十二畳のキングダムに戻ってきた俺達は、とりあえず馬をその辺にくくりつけた。その後、俺は騎士長を家に招き入れた。


 俺の部屋を訪れた騎士長は当然のごとく言葉を失った。事前に一度訪れた事があった分、騎士長よりはマシだが、それでもやはりアンジェも興味しんしんといった様子だった。


 口を半開きにしたまま忙しなく視線を動かして、部屋の備品を見ている騎士長の姿は常の彼らしくなく、実に間抜けだった。


 泣きっ面に蜂じゃないけど、ここで懐中電灯とか点けたらビビっておしっこ漏らしたりしないかなあ。もし漏らしたら一生笑ってあげるのに。


「あ、靴はそこで脱いでくださいね。出来れば鎧も脱いで、靴のところに置いといてください。部屋が汚れちゃうんで」


「あ、ああ」


 俺の声を聞いてようやっと騎士長はぽかんと開いていた口を閉じ、いつもの凛々しい表情へと戻った。


 俺は全員を丸いちゃぶ台に座らせて、コップにコーラを注いで出した。多分騎士長コーラ飲んだらむせるぞ。思いっきり笑ってやる。


「さて、俺は異世界人という事になる訳ですが、これを見ればここの重要性がわかるでしょう」


 俺は小さい頃に集めていたビー玉とビーズをちゃぶ台に置いた。こんだけ堂々と出しておいて価値が無かったらとんだ赤っ恥だけど、多分あるだろ。だって異世界転移系物語では、常識とすら言える程高価な物として扱われてるしな。


「これは……宝石か? 随分と純度が高いようだが……」

「そうでしょうそうでしょう。それは俺の元の世界じゃ、ビー玉って言うんです」

「これを売って資金にするのか?」


「ええ。ドミーナに売ってスフィーダの資金として貸付ます。いくらになるかはわかりませんが、それなりの資金にはなるでしょう? それで当座の国費に充ててもらおうかと」


「だがドミーナとスフィーダは戦争中だ。貿易なんて現実的じゃないだろう?」


「そこはほれ、プレハブ商会の出番ですよ」


 我ながら完璧な作戦だった。宝石として扱われる俺のビー玉とビーズをそれなりの値段で売っぱらって連中の国費を削って、俺達はそれをドミーナと戦うための資金にする。話しを聞くにドミーナの首脳陣バカっぽいから上手い事いけるだろう。


「……お前ホント悪魔みたいな奴だな」


「んな事ないわい。利潤争いは戦争の基本ですよ? それはそうと騎士長、ジュース飲んでください。美味しいですから」


「む。どれ、いただこうかな」


 ヒッヒッヒッ。そんなに一気に飲んだらどうなるか知ってるのかあ? 待っているのはむせりだ。むせってむせってゴホゴホしちまえ。ヒッヒッヒッ。


「ブホっ! ゴフ、ゴフ!」


 騎士長が吐き出したコーラはそのほとんどが俺の顏に直撃した。


「……」


 日本には因果応報という言葉がある。仏教から発生した言葉だ。簡単に説明すると悪いことをすれば悪いことが返ってきますよというものだ。そう、まさに今の俺の状況だ。


 これで吐き出した相手がアンジェとかだったらご褒美だったけど、よりにもよって相手はむさ苦しい騎士長だ。最悪この上無い。


「お前! なんてもんを飲ますんだ! 毒か!?」


「毒じゃねえよ! 大体あんた俺とアンジェが飲んでんの見てんだろ! なんで吐き出すんだよ! 貴重なんだぞ!?」


「うるせえ! 得体の知れないもん飲ませやがって! 妙にニヤニヤしてると思ったらこういう事かよ!」


「ちょっとくらいイタズラしたっていいじゃねえかよ! こっちは一生懸命スフィーダが生き残るための術を考えているんだから!」


「だからってなあ!」


「ああ、公平様落ち着いて! 騎士長も! 冷静になってください」


 と、ここでオロオロと事の成り行きを見守っていたアンジェが割り込んできた。俺と騎士長は互いに顔を見合わせニコッと笑うと、


「大丈夫だ。そんなに慌てない慌てない。ちょっとふざけただけだよ。ねえ、騎士長?」


「そうだな。ちょっと悪ノリが過ぎたか。すまんな」


「お二人とも喧嘩をしていたのでは?」


「体を張ったスキンシップだよ。ちょっとしたアクシデントが起きてしまったけど」

 顔にコーラとか顔にコーラとか。


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