ルナロナへ向かう
魔導車は地面から少し浮いた状態のまま、少しずつスピードを上げながら進んでいく。
窓から入ってくる風が心地よい。
それとまだちょっとの間しか乗っていないが、乗り心地はかなり良いように思える。
速い割には車体はあまり揺れず、浮いていることもあって足場が悪くても関係ない。
この辺りはイーラドアの入口に近いこともあってちょくちょく人とすれ違う。
衝突事故が起こるのではないかとすれ違う度に思ったが、イナヴァの操縦技術の前にはその心配も杞憂に終わることとなる。
「ところでリリナさんの故郷ってどこです? 聞きそびれてましたね」
「ルネイン地方の西の方にあるアト村って所。山に囲まれてるってくらいしか特徴がない辺境の地だぞ」
「あ、そこですか。結構遠いですね。多分今日中にはたどり着けません」
「へぇー、リリナさんって遠くからイーラドアまで来てたんですね!」
あれ?
辺境の地だってのに何で知ってるの?
説明しないでもいいのは助かるからいいか。
これを聞いたイナヴァは少し考えた後、こんな提案をしてきた。
「とりあえずルナロナって所で一泊しようと思いますが、いいですかね?」
聞いたことのない名前が出てきた。
トチッカの方を見てみたが、彼女も分かってなさそうな表情をしている。
こっちは知らないのか。
「えーと、それはどこにあるの?」
「ルネイン地方の森にある小さな集落ですよ。自然と共に暮らす者達が集まってるのです。私のおすすめですよ」
説明されても知らない事に変わりないので適当に「そこでいいや」と返事をしておいた。
それにイナヴァのおすすめなら悪い場所ではないのだろう。
トチッカもこれに同意した。
「分かりました。ではルナロナに向かいますね」
◇
草原を魔導車で走り、昼頃にはルナロナがある森の前に到着した。
途中に挟んだ休憩の時間も含んで、大体五六時間はかかった。
魔導車に乗っている間、何も食べてないので腹も空きはじめている。
さて、現在は何をしているのかというとルナロナに入るための検問だ。
調べるのは私達が持っている持ち物。
持って行って駄目な物は自然に悪影響を及ぼす物のみと微妙に曖昧な定義だ。
見張りの獣人がバッグの中まで隅々と目を通してゆく。
ちなみにこの獣人、イナヴァとは違い獣の要素が強い。
この違いは何だろうか。
そんな事を考えていた間に持ち物は全てチェックされ、合否の判定が下される。
「持ち物に怪しい物は無い。駄目な物はその魔導車だけだが……お前は何度も来たことがあるし停める場所は分かるよな?」
「もちろんです。あなたはお二人の案内をお願いしますね」
私とトチッカは魔導車から自分の荷物を持ち出し、見張りの獣人に案内され森の中へと入っていく。
自然が造った道なき道を獣人に付いていくようにしてどんどん進む。
地面に段差も多く重い荷物を持って歩いている為、すぐに疲れて息が上がる。
「リリナさん! 大丈夫ですか!?」
私がこんな状態なのにトチッカは息も切らさず、人を心配する余裕まで残っている。
自分の体力のなさに悲しくなってくる。
「ほら、もうすぐだから頑張りな」
「お、そうなんですね! リリナさん、荷物も持ってあげますから、頑張りましょ!」
うぬぬ。
悔しいが言葉に甘えるとしよう。
私はトチッカにバッグを預け、歩くのを再開する。
獣人の言った通り、すぐに広い場所に出た。
木で造られた建造物が点在しており、広場の中心には大木がありツリーハウスが造られている。
「ようこそ、ルナロナへ。ゆっくりしていくといい」
私達は森の中の集落、ルナロナに到着した。