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私の旅は世界の果てに  作者: 鈴亜サクサク
旅の始まり
5/31

無職になって初めての夜

 昼間、イナヴァに会ってから今の夕方まで彼女が現れる事はなかった。

 とはいえ今から来る可能性もあるので戸締まりは怠らない。

 確認のためとは言ってたが、一目見て何を確認出来たのか。

 考えてみたけど何も思い付かない。


 そんな思考に無駄な時間を割くんだったら明日の予定でも立てておこう。

 早速だが、今日中に荷造りを済ませて、明日里帰りをしようと思う。

 イナヴァは知ってただけで違ったが、ここ数日はドレクリゼト解散の件で他の記者からの取材は間違いなくある。

 一々受けるのは面倒だし、情報が届くのが遅い田舎。つまり故郷に逃げてしまおうという算段だ。


 「で、どうやって帰るかだが……」

 

 以前ここに来るときには馬に乗って来たのだが確か二日位かけてここまで来た気がする。

 その馬は預けたっきり行方不明になった。

 一応、イーラドアみたいな大きな街には速い乗り物も用意できるが……私は操縦出来ないし、操縦士に頼もうとなるとそれなりにお金が掛かる。

 こちらは金持ちのためのプランだ。

 

 貧乏人で根無し草の私は、たっぷりとある時間を使って歩き旅がお似合いか。

 ……道半ばで力尽きるかもな。

 出費と体力的に、初めてイーラドアに来た時と同様に馬を借りよう。


 この部屋が暑いので外の風を入れる為に窓を開け、ついでに夕陽が照る海を眺める。

 心地いい潮風が体中を撫でた。

 いよいよ人が少居なくなって静かで波の音しか聞こえない。

 しかし海は昼間とは全く様子が違い、夕陽に照らされた汚れなき青とは違った美しさだ。

 ただ反射光が眩しくて見ているだけで目が痛くなってくる。

 私は海を眺めるのは程々にして床に座り込んだ。


 「何か手土産は持ってった方がいいよな」


 無意識にこんな呟きをした。

 買うとしたらイーラドアならではの名産品かな。

 故郷は山が多く、近くに海はないので海で採れる物を持っていけば喜んでくれるだろうか。

 もう夕方なので買うのは明日にしよう。


 「リリナちゃん、お風呂どうする?」


 私を呼ぶ声にビクッとした。

 しかし、この声は女将の物である事に気付きホッとする。

 イナヴァが来たのかと思ったよ。


 さて、お風呂。

 女将が聞いてるのはここにある風呂にするか、銭湯に行くかを聞いているのだろう。

 余計な出費を抑えたいとか、疲れはてたとかもあるが、人に体を、特に背中は見られたくない。

 そこには刺青のように魔力印が埋め込まれており、私の力の元で解けぬ呪い。

 個人的には格好よくて気に入ってるが、他人から見れば不気味でしかないだろう。

 そんな訳で選択肢は蓮湖亭の風呂を借りるのみ。

 

 「ここの風呂にするわ」

 「分かったわ。他の客は皆銭湯に行くらしいから貸しきりに出来るよ」


 やったぜ。

 私は着替えを持って一階食堂の奥にある風呂場へ向かう。

 風呂は石製の桶にお湯が入っているタイプであり、外に置いてある。

 つまり露天風呂だ。

 なお、やたら高い仕切りのせいで景色は見えない模様。

 外から見られないようにするための物なので文句は言えない。


 脱衣場で服を脱ぎ全裸になってから外へ出る。

 そしてシャワーで体を洗ってから湯船に浸かった。

 ちょっとぬるいが私にはこちらの方が心地よい。

 

 「はぁ~、いい気持ち~」

 

 さっきも言った通り、さっさと済ませたいので軽く温まったら石鹸で頭と体を洗い、泡を流したらもう出る。

 これ以上いると、寝落ちしそうだ。

 体を拭いて着替えたら、冷や水を1杯飲み、自分の部屋に戻る。


 途中で女将に「もうすぐご飯が出来るわよ」と言われたので着替類を部屋に置いてきたら即座に食堂へと向かった。

 夕飯の献立はブイヤベース。

 トマトの酸味と魚介の旨味が混ざり合い、何とも美味な味わいだった。

 添えてあるパンも口直しによし、スープに浸けてもよしと地味だが、いい引き立て役になっていた。

 

 「お、いい匂いですね!」


 私が丁度食べ終わった位のタイミングでトチッカが戻って来た。

 あ、そうだ。これ聞いとこう。


 「ねぇ、外でイナヴァと会った?」

 「そういえば見てないですね。記者らしき人は何人か見ましたが……」

 「そう。私は明日朝早く起きないといけないしもう寝る。おやすみ」

 「お休みなさい!」


 食堂を後にして、自分の部屋に戻ったらすぐにベットの上で横になる。

 そして目を閉じてゆっくりと夢の世界へ誘われていく。

 

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