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私の旅は世界の果てに  作者: 鈴亜サクサク
旅の始まり
4/31

海果実のシャーベット

 「リリナさーん! そろそろ行きましょー!」


 部屋に戻ってからわずか五分後の出来事。

 すぐに来ることは何となく予想は出来てたし、私は焦らない。

 予想外だったのは部屋に来て呼ぶのではなく、外から大きな声で私を呼ぼうとしていた事。

 どんだけ楽しみなんだか。


 「はいはい、今行くから待ってろ」

 「早く早くー!」


 食後のデザートを食べに行くだけだし、特に身だしなみを整える必要も無いのでそのまま外へ出る。

 

 この港町エリアは静かな時は本当に静か。

 人が全く居ないわけではないが、片手で数えきれる数の人が海釣りをしていたりベンチに座って本を読んでたりと騒がしくなるような事はない。


 逆にシーズン時は港町エリア全域を使った大規模な市場が開催され、商人や客が大勢訪れて大変賑やかになる。

 以前、興味本意でシーズン時にここに訪れた時はこの熱気を見た瞬間にビビって港町のだいぶ手前で行くのを諦めた事もあった。


 「リリナさん、あれ見てください! 何か黒いのが見えます!」


 海沿いの道を歩いていると、トチッカが海の方を指差して言った。

 確かに海の遠くの方に黒い影が見える。

 あの丸っこいシルエットは多分鯨とかだろう。

 時々、イーラドアの沖には野生の鯨や海豚が迷い込む。

 そいつらは捕まえて食ったりはせず、帰るまで見守るのが船乗りの間のルールになっているらしい。

 仮に捕まえても運ぶのが難しそう。

 

 少し眺めてたら鯨は海の彼方へと消えていった。

 私達もそれを見届けたら改めてデザートを探しに港町を出た。

 

 イーラドアの街中のあちこちには露店が立ち並ぶエリアがあり、そこでは普通の食事から食べ歩きが出来るような軽食まで様々なグルメが楽しめる。

 勿論デザートも探せばある。

 とりあえず港町から一番近くの露店通りに来てみたが……人通りが多い。

 昼過ぎなので腹を満たしに来た人達で混み合う時間帯だ。


 「行くの止めない?」


 答えは分かっているが、念のためトチッカに聞いてみる。


 「ダメです! このままだと空腹で倒れます!」


 あんたはそうかもしれんが、私は大丈夫だからと突き放そうとも考えたが、トチッカのデザートを食べるのにワクワクしている表情を見て、その考えは消え失せた。

 だが、これだけは言っておく。


 「さっき昼飯食べて空腹っておかしいだろ」

 「別腹が空腹って事ですよ!」


 間髪いれずに謎理論が返ってきた。

 これ以上どういう事か聞くのは不毛になるのは間違いない。

 暑い中そんな事やってる体力はないのでさっさと露店を見て回り、良さげな物を買っててこの人混みから離れよう。きっとそれが得策だ。


 「ちなみに何か食べたい物とかはある?」

 「うーん、さっぱりした物……あ、あれなんてどうでしょう?」

 

 ちょっと進んだ所で見つけたのは果物のシャーベットを売っている露店だった。

 旬の季節の果実、今だと海果実(シララ)を凍らせたシャーベットのみが商品のこだわりがありそうな店。

 シャーベットなら火照った体も冷やせるだろうし、今食べるデザートとしてはうってつけだ。


 「いいじゃん、早く買って帰ろ」

 「りょーかいですっ!」


 しかも幸運な事に並んでいる人はおらずすぐに買えた。

 もしや潰れかけ?

 

 シャーベットを二つ頼むと、店主のおじさんは奥に置いてある黒い大壷から片手に収まるサイズの海果実を六つ取り出し、隣に置いてある謎の装置に放り込んだ。

 そして下に受け皿を置いて少し待つと、装置からシャーベット状に粉砕された海果実が雪が降るように受け皿へと落ちていくので二つの皿に同じ量のシャーベットが乗るように上手く調整していく。

 手早く、それでいてほとんど同じ量になっている点は流石だと思う。


 「へいお待ち、お嬢さん方……?」


 販売員の男は私の方をちらっと見て言葉を詰まらせる。

 失礼な奴だな。私はこれでも女なんだよ。

 

 

 シャーベットを受け取ったらお金を払って、人の波に飲まれる前にここを離れる。


 ◇


 人が少ない場所を求めて私達は港町に戻って来た。

 座る場所を探す間にシャーベットが溶け出したら嫌なので食べ歩きしている。

 

 「あはァーっ! ひんやりして美味しいですね!」

 「そうだね。甘さと酸っぱさが丁度いい……」


 口に広がる甘さと、わずかに感じる酸味。

 決してくどくなく、いくらでも食べれそう。

 今日のこの暑さもシャーベットの美味しさを引き立てている。

 ……気がする。

 

 「おやおや? お二人はもしかして……」


 海果実のシャーベットを堪能している最中に不意に後ろから女性に声をかけられる。

 振り返って見るとそこそこ長身で兎耳の生えた女性がいた。


 「……誰?」

 「おっと、まずは自己紹介からですね。私はイナヴァ。記者をやっております」


 記者、と聞いて彼女の目的は何となく察せれる。

 ギルド解散について取材をしに来たのだろう。

 しかし、律儀に答えてやるつもりはない。

 シャーベットが溶ける時間も惜しいので適当にごまかして帰ってもらうことにした。


 「あんたの目的はだいたい分かってる。けど私らは詳しい事は良く分からんから、もっとランクが高い奴にでも聞いてきな」

 「話が早いですね。でも違います。私はドレクリゼド解散の件には興味ありません」


 予想外の返答だった。

 ギルド解散についてではなければ冒険者として大して有名でもない私達に何を聞きに来たのか。

 しばらくの沈黙の後イナヴァは踵を返し、

 

 「今日は確認にきただけです。デザートタイムを邪魔しても悪いですし、私はこの辺で」

 

 それだけ言って立ち去った。

 しかし、去り際に覗いた顔は何かを企んでそうな表情をしていた。

 わざと見えるようにあんな顔をしているようにも思える。


 「リリナさん。あの人絶対また来ますよね?」

 「そうだな。戸締まりはちゃんとしときな」


 近くに空いていたベンチがあったので残りのシャーベットはそこに座って食べた。

 少し溶け始めてたのは残念だ。

 

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