先輩…
意外と知られている霊体験スポットはみんなが行くのでつまらない。でもね?そういう場所って集まりやすいって話だし…。
だけど怖いよね。
確実に出るんだから。
だからそういう場所にはいかない。
行くならまだあまり知られていない場所がいい。
などと話していたが、どこかに当てがあるわけでもない。
社会人になって一年目。
まだ色んな場所が未体験ゾーン。
行くべきが行かざるべきかと悩んでいたら後ろから突然肩を叩かれた。
びっくりした僕は振り返った。
でもそこには誰も立ってはいない。振り返ると目の前に会社の先輩が立っていた。
「おい、どうした?何かあったか?」
「あっ、いえ、特には…ってか先輩なんでここに?」
「ああ、あのさ〜、ちょっと家内と喧嘩しちゃってさ、居づらくて出て来たわけよ。なになに?何かあった?」
「あっ、いえ、特には…先輩が気にすることでもないですから。」
「え〜?俺には言えない事?怪しいなぁ〜?」
「いえ、こんだけ暑いから涼しくなる場所知らなかなぁ〜なんて思ってたところでして…。」
「涼しいところなら喫茶店とかレジャーとか行けば涼しくないか?」
「そうなんですが、そうなると人混みが多くてかえって暑くなりそうで…。人が少なくてなおかつ涼しい場所…例えばお化け屋敷とかそう言うスポットとか知りませんか?あっ、知らなかったらいいんです。探しますから。」
「お前らマジで言ってるの?…知らなくはないけど、そこはやばいと思うぞ?」
「えっ?知ってるんすか?教えてくださいよ〜。」
「知ってる場所が一つだけあるがオススメはしないぞ?マジでやばい場所だから。」
「そこって人たくさんきますか?」
「いやいや、全然こないぞ?噂だけどな。そこはマジで出るって話だ。恐怖体験した奴が知り合いでな、教えてもらったのはここからちょっと行った所なんだがな。」
「え〜、教えてくださいよ!行きますから。」
「お、おい、本気か?あそこはいつの頃からか出るって噂のとこだぞ?知り合いも二度と行かないって行ってたくらいだからな。」
「いえ、そこがいいです。だよな?」同僚達に同意を求めるも皆ちよーーっとだけ固まってる。もしかして知ってるのか?知らないの僕だけ?
僕は皆に聞いてみたが、皆やはり知らないと言う。ただ噂だけは耳にしたことが…一度や二度はあると言う。
それは本当に怖いと言う場所らしく、誰一人として一人では近づかない場所…と言うか、昼間でも一人では近づかない恐ろしい場所のようだ。
どんな風に恐ろしいのかは聞けずじまいだったが、行けばわかるとあえて聞かずに向かうことになった。
先輩はすぐ近くまでは一緒に来てくれたが、それ以上は近づかないと言ってどんなに引っ張っても頑として動こうとはしなかった。諦めた僕らは僕らだけでその場所に入って行った。そこは古びた病院の廃墟らしく荒れていた。
壁のあちこちに落書きが施されていた。
あまり人が入らないと言う割には汚い。食べ物が食い散らかされた状態で残っていた。…そう、まるでついさっきここから逃げ出したかのようだ。仲間の一人が怖がって震えだした。
そいつはちょっとだけ霊感があるようで、顔が真っ青になっていた。
「おい、ちょっと大丈夫か?顔真っ青だぞ?!」
「ここ……マズイですよ。出ましょう。」
「今来たばっかだぞ?なんで?もっと奥にも行こうよ。」
「空気がへんなんですよ?ヤバイです。こう言う時には出るんです。」
「へ?何が出るって?」
「霊ですよ、霊。わかって言ってませんか?」
「ま、まさかここに出るなんて…ハッハッハッハッ。冗談だろ?」
「冗談でこんな顔できますか?」顔はまだ真っ青だ。どうやら本気らしい。
「せっかく涼しくなって来たのに…なんかつまんない。」
「そんなこと言ってると寄って来ますよ?いいんですか?」
取るに足らない戯言と初めは捉えていたが、あまりのその真剣な顔を見て流石にちょっと考えを変えざるを得なかった。
慌てて出口に向かうが、さっきとは何か雰囲気が違う気がしていた。
ものが移動しているのだ。
さっきあった場所には違うものが置かれている。
震える同僚。
怯える仲間たち。
僕もだんだん怖くなって来た。
その時視界に何かを捉えた気がした僕らは恐る恐る視界に映った方へと足を向けた。
そこにはさっき別れた先輩の姿が見て取れた。
でもなんか様子がへんだ。
こちらの呼びかけにも反応しない。
「っぱい。先輩!」
「お、おう。どうした?」
「先輩こそどうしてここに?」
「ああ、なんか、な。誰かに呼ばれた気がしてここに来たんだが、誰もいなくて困っていた所だ。」
だけどね?なんか先輩の姿がおかしく見えたのは僕だけだったのか?
なんか透けて見える…。
先輩が?
なんで?
僕は話すべきかどうか悩んだ。
でも放っておいて先輩に何かあったら後味悪すぎじゃん。だからみんなの前で先輩に声をかけた。
「せ、先輩…。体調はどうですか?」
「ん?特に何も変わらないけど…なんで?」
「先輩が、先輩の体が透けて見えるんですよ。お前らもそうだろ?」
僕は仲間たちに賛同を求めたが、仲間は別の意味で固まっていた。
「おい、お前らどうした?」
「お前、さっきも言ってたけど先輩って誰のことを言ってる?」
「先輩って傍島先輩の事だろ?他に誰がいる。」
「傍島って…先輩俺ら知らないぞ?誰の事言ってる?」
「おいおい、冗談だろ?お前らさっき挨拶しただろ?」
「は?俺らは誰とも挨拶交わしてないぞ。お前が独り言を言ってたから聞いてただけだ。意味がわからん。」
「え?そうなの?じゃあ僕が話してた人は誰?」
「おま、本当に知ってたのか?その…傍島先輩って人の事。」
そう言われてみると確かに…。本当かどうかわからない。ただ声をかけられたからそうだと思い込んでいた部分は大きい。
じゃあ何か?
聞こえたのは僕だけなのか?
僕は怖くなってきた。
みんな聞こえてて知ってる人だとばかり思い込んでいたのだ。
でも待てよ?確か僕…体触らなかったっけ?
よくよく考えて思い出してみると、当たる直前でかわされた気がしてきた…。
みんなの顔を見てみるが、先輩の姿がなくなっていることに今になって気がついた。
「先輩??」
その時だ、天井から何がぶら下がってきた。
それは本当にそうだったのかと思いたくなるほどの恐怖を連れてやってきた。
そう、垂れ下がっていたのは先輩だった。
足首を縛られて宙吊りになっていたのだ。上下逆で頭からは血が滴り落ちている。
殴られたような跡があった。
皆恐怖で一瞬頭が回らなかったが、1人が叫ぶと皆が騒ぎ出し、一斉に建物の出口に向かって一目散に走り出す。
その時だ。
1人の同僚の叫び声を聞いたのは。
ぶら下がっている先輩が服をつかんでいるのが見えた。僕は慌てて同僚の元へ走り服をひっぺがして一緒に走り出した。後ろは振り返らなかった。
前方には逃げてきた同僚の姿が。
皆真っ青な顔をしていた。
僕らはみんなで固まってその場を後にした。
その後、皆その話をしなくなった。
僕もそう。
そして、今過去の社員名簿を確認すると確かに傍島先輩は存在したのだ。
あの場所でいじめにあい無くなっていたことを知るのはまた後のこと…。




