フラグ
馬群によって舞った砂塵は戦場の視界を曇らせ血の匂いと混ざり咽せ返る様な匂いに頭がクラクラしてくる。
耳を塞ぎたくなるような金属同士の打ち合いや怒号が響き渡り全身が雷に打たれたかの様にビシビシと肌に突き刺さる。
もう慣れてしまったこの感覚に今は違和感を覚えた。
「妙だ」
敵は撤退し数的有利は絶対。追撃をする我が軍の士気は上がる一方。この状況で敵に逆転はほぼ不可能である。しかし、男は嫌な予感がしていた。
こんな時の勘は良く当たる。長年戦場で鍛え上げて来たのだから多分3割くらいは当たる。
「どうした。敵を追わないのか?」
「殿」
後ろを振り向くとそこには自分の主人でありこの軍の総大将が後詰めの軍を引き連れて現れた。
「すぐに追います。しかし、この戦は勝ったも同然。何も殿自ら前線まで出られてなくとも」
「この戦いは特別だからな」
主人は男に対してそう告げた。
「特別。ですか」
「あぁ。この戦いは俺が ”ゼロ”になる為の第一歩。そして同時に歴史に残る最初の聖戦だ」
頭の上で旗が立った様に男は見えた。
「それに、俺は今まで犠牲になって来た奴等の為に勝たなくちゃいけないんだ。」
わかったからもう喋るな。これ以上不謹慎な旗を立てるなと内心男はツッコミをいれる。
「行くぞ!この戦い勝ったも同然!俺に続け!」
あっ、終わった……。
男は自分の主人が立てていった不謹慎な旗を折るべく馬をかけた。