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山崎警部と妹の日常  作者: AS
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VSモンスターハウス7

 リビングでは、モンスターハウスの住人五人が、いつもの席に座っていた。ただ一つ、黒川の席だけが空席になっていた。

 今、階上の男性部屋では、警察が黒川の死を捜査している。自分たちが疑われるような物証などは残していないはずだが、それでも手放しで安心することはできなかった。全員が同じ気持ちだったのだろう。五人とも一言も言葉を発することはなく、警察が降りてくるのをじっと静かに待っていた。

 間もなくして、黒いスーツを着た男の刑事と、眼鏡をかけた女性刑事、そして男性刑事の腕にくっついている、およそ刑事には見えない女の子が、リビングに入って来た。

「どうもはじめまして。私、山崎と申します。捜査一課の刑事です。そしてこちらは部下の東堂さんです」

「はじめまして東堂です。よろしくお願いします」

 エリナは一歩前に出て、慇懃に頭を下げた。

「そしてこの腕にくっついてるのがーー」

「山崎カオルです!カオルは、お兄ちゃんのいもうとです!」

 カオルの言っていることが理解できなかったのか、五人はぽかんとした表情をしていた。

「すいません。こいつは私の妹でして。お話の邪魔はさせませんので、いないものとして扱ってください」

 山崎が釈明したが、なぜ警察関係者でもない刑事の妹がここにいるのか、五人は分からなかったが、特にそれを追及することはなかった。

「えっとーー」

「こちらから蘭さん、莉音さん、歩美さん。こちらにいらっしゃるのが、大雅さん、佐野さんです」

「ありがとうございます、東堂さん。さて、亡くなった黒川さんですが、皆さんと黒川さんはどういったご関係で?」

 山崎の質問に、一番近くの席に座っていた蘭が答えた。

「私たちは、テレビ番組の企画で、シェアハウスをしてるんです」

「テレビの企画?」

「はい。モンスターハウスって言ってーー」

「カオル知ってるよ!」

 蘭が説明するのを遮ってカオルが言った。

「日テレの『水曜日のダウンタウン』っていう番組の企画で、クロちゃんとこの人たちがシェアハウスしながら恋愛していくの!毎回めっちゃ面白いんだよ!お兄ちゃんも見たらいいのに」

「カオルさん、ちょっと静かに」

 威勢良く話し始めたカオルを、横からエリナが制した。

「あと、『水曜日のダウンタウン』は日テレじゃなくてTBSね」

「あ、そうだっけ。どの番組がどの局かなんていちいち覚えてないよー」

「いいからあなたはちょっと黙ってて」

「はーい。ごめんなさーい」

 全くこの場の空気を読まないカオルとかいう女の子の振る舞いに、五人は少なからず困惑した。もしかしたらこうやって油断させておいて、何か失言ささようという作戦なのかと疑ったが、どうやら本当に自由奔放なだけの女の子だということは、しばらく見ているうちに理解できた。

「すいません、うちの妹が」

「いえ、大丈夫です」

 答えたのは蘭だった。

「しかしテレビの企画ですか。結構有名なんですか?」

「まあ、僕らが言うのもなんですけど、そこそこ有名なんじゃないかなあ」

「Twitterのフォロワーもめっちゃ増えたしね」

 サノケンと歩美が答えた。

 このとき、歩美は左の脇腹を手で押さえていた。またさっきの痛みがぶり返したのだった。

「そうなんですか。すいません、テレビをあまり見ないもので。ラジオはよく聞くんですけどね。知ってます?『大沢悠里のゆうゆうワイド』。私、土曜日版になる前から聴いてるんですよ」

「……」

「あと『たまむすび』と上柳昌彦の『あさぼらけ』。たまにメールを読まれたこともあるんです」

「……へ、へえ。そうなんですか」

 誰も答えないので、サノケンが仕方なく応対した。

「お兄ちゃん。もうその話やめた方がいいよ。仮にこの人たちがラジオ好きでも、聴く番組はそれじゃないと思う」

「ええ。面白いのに。ゆうゆうワイド」

 山崎はしゅんとした表情を見せた。

「まあいいです。では気を取り直して、昨夜あったことを、できるだけ詳しくお教え願えますでしょうか?」

「はい」

 口を開いたのはサノケンだった。

「昨日は、ここで全員で食事をしてたら、突然黒服の人が入って来たんです」

「黒服の人?」

「はい。番組の企画で、くじ引きで当たりを引いた人が、一人だけモンスターハウスから脱落する人を決めろって言われたんです」

「なるほど。で、どなたが当たりを?」

「それは……クロちゃんです」

「黒川さん?」

「はい」

「それはそれは。で、黒川さんはどなたを脱落させたんですか?」

「……」

 サノケンは口を噤んだ。

「私です」

 サノケンに代わり、歩美が自ら申告した。

「えっと、歩美さん、でしたね。なぜ歩美さんだったんですか?」

「私、あんまりクロちゃんと関わりがなかったんです。クロちゃんはここに本気で恋人を見つけに来てて、蘭ちゃんや莉音ちゃんに比べて、私はその可能性が低かったから……」

「それは、黒川さんがそうおっしゃったんですか?」

「はい。はっきりと」

「そうですか。で、その後は?」

 再びサノケンが引き取った。

「その後は、クロちゃんは一人で男部屋に戻って行って、僕たちは各々で時間を潰していました」

「皆さんご一緒に?」

「僕と莉音は一緒にいました」

 大雅が横から答えた。

「そうですか。……最初に黒川さんの遺体を発見したのはどなたですか?」

「僕です」

 答えたのはサノケンだった。

「僕は外でご飯を食べてて、夜中の二時くらいにこの家に戻って来たんですけど、着替えを取りにあの部屋へ入ったら、中でクロちゃんがあんなことに……」

「なるほど……。一つお聞きしてもよろしいですか?」

「何ですか?」

「先程、この共同生活はテレビ番組の企画だとおっしゃいましたが、それならカメラでずっと撮影していたんじゃないですか?それを見れば、黒川さんがどうやって亡くなったのかすぐに分かるかと思うのですが」

「いえ。それは無いんです」

「何故でしょう?」

「番組の企画と言っても、二十四時間カメラが回ってる訳じゃありません。何もないところを撮ってもカメラの無駄だし、そもそもそんな監視生活、僕たちは耐えられません。カメラがあるのは、僕たちの関係に何か変化が起きそうなときだけです。例えば昨日みたいに」

「なるほど。そういうことだったんですか」

「これはあまり他言はしないようにお願いします」

「分かりました。あと、もう一つ聞かせてください」

「どうぞ」

「さっきのお話を聞く限りだと、黒川さんが自殺する理由が分からないのですが。むしろ、自分と恋愛しなさそうな歩美さんを脱落させたことで、黒川さんのモチベーションは上がっていたように想像できるんですが……」

「それは……」

「それは多分、私のせいだと思います」

 そう言ったのは莉音だった。

「莉音さん。それはどういう?」

「私、あの夜、クロちゃんのいる部屋へ行ったんです」

「……ほう」

「そこで、クロちゃんに言ったんです。歩美ちゃんを脱落させたクロちゃんに失望した。もう関わらないでって」

「黒川さんは何と?」

「ショックを受けてたみたいでした。考え直してって何度も言われましたけど、私の意思は変わりませんでした」

「それはいつのことですか?」

「クロちゃんが部屋に戻ってすぐだったんで、夜の七時半過ぎぐらいだったと思います」

「なるほど……。確かに、自殺の理由はそれで間違いないかもしれませんね」

「……はい……」

 無論これは嘘だった。黒川が自殺する理由がないことは、計画を考えたサノケンも分かっていたことだった。そこで、さっき莉音が話した作り話を思い付いた。黒川が最も好意を抱いていた莉音から拒否されたとあれば、自殺する十分な理由になると思った。警察がこれを疑う要素はないはずだ。

 山崎という刑事は、手を顎に当てて何かを考えている様子だった。やがて顎から手を外し、五人の方を見て言った。

「ありがとうございます。よく分かりました。とりあえず、今日はこの辺で失礼します。お邪魔しました」

「もう帰るんですか?」

 サノケンが思わず尋ねていた。

「はい。それとももう少しいた方がいいですか?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「……そうですか。では、我々はこれで」

「失礼しました」

「ありがとうございましたー!」

 エリナは丁寧にお辞儀をし、カオルは手を振りながらリビングを出て行った。

 しばらくすると、玄関のドアが閉まる音がした。その瞬間、リビングに張り詰めていた空気が一気に緩んだ。思わず五人全員がため息をついていた。

「やば。心臓飛び出るかと思った」

「警察の取り調べ受けるなんて初めてだもんね」

「しかも犯人だしね」

 蘭、大雅、歩美が安堵と共に口を開いた。

「こういうのが、これから何回も続くのかな……」

 莉音が弱音を漏らす。

「でも、あの人たちまた来るはずだよ」

「え?」

 サノケンの言葉に、四人は顔を歪めた。

「さっきの刑事さん、俺たちのアリバイについては何も聞いて来なかったでしょ」

「あ、そういえばそうだった」

 サノケンの指摘に歩美が相槌を打つ。

「多分、アリバイに関しては一人ずつ別々に聞いていくつもりなんだと思う。俺たちがその場で助け合ったりできないように」

「そんな……」

「大丈夫。用意したシナリオを、ちゃんと頭に入れておけばいい。あとは、それに矛盾しないように気を付けて受け答えしてれば、疑われることはない」

 しかし、サノケン以外の四人は沈黙したままだった。その様子を見て、サノケンは申し訳なさそうに言った。

「……ごめん。俺のせいでみんなを巻き込んで。おれがあんなこと言い出さなければーー」

「やめてよ」

 サノケンの言葉を蘭が遮った。

「サノケンはちゃんと私たちに拒否権を与えてくれた。嫌なら辞めさせることもできたの。その上で私たちは協力することにしたんだから。私たちはもう共犯関係なの。自分だけのせいとか言わないで」

「そうだよ。僕たちは自分の意思でサノケン君の案に乗ったんだ」

「私も同じ気持ちだよ」

「私も、サノケン君を信頼してる」

大雅、莉音、歩美も蘭に続いて言った。

「……ありがとうみんな。これからまたしんどいのが続くかもしれないけど、みんなで頑張って乗り切ろう」

「うん」

 四人はほぼ同時に頷いた。

 モンスターハウスの住人たちの結束は、その夜一層固まった。



「山崎さん」

「はい?」

 カオルをパトカーで学校に送り届けた後、エリナは運転しながら助手席に座る山崎に話しかけた。

「よかったんですか?遺書のこと、彼らに話さなくて」

「まあ別に話してもよかったんですが、もう少しいろいろ調べてからじっくり話を聞いた方が良さそうだと思いまして」

「いつになく慎重ですね」

「僕はいつだって慎重です。それにーー」

「それに?」

「彼らは何か隠してます。おそらく黒川さんの死に大きく関わっている」

「それってーー」

「東堂さん。ちょっと調べて欲しいことがあるんですが」

「はい。何でしょう?」

 山崎は、いつになく真剣な眼差しでエリナに語りかけた。


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