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山崎警部と妹の日常  作者: AS
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VSモンスターハウス3

 蘭が部屋から出ると、廊下にはサノケン、大雅、莉音の三人が既に待ち構えていた。

「どう?」

「大丈夫。ぐっすり眠ってる」

 サノケンの問いかけに蘭が応じる。

「随分かかってたな」

「睡眠薬入りのコーヒーはすぐ飲んだんだけど、それからなかなか眠らなくて」

「薬が効きにくい体質なのかもな。体がでかいから」

 そう言うと、サノケンは急に真剣な顔になり、三人の顔を見た。

「じゃあ、行くよ」

 その言葉に、莉音、蘭、大雅の三人は無言で頷いた。

 サノケンはふぅと息を吐き、男性部屋のドアを開けた。中では黒川が仰向けになり、いびきをかきながら眠っている。

「クロちゃん」

 サノケンは黒川の愛称を呼びかけた。黒川は反応しない。

「クロちゃん!」

 念のため、今度はもう少し大きな声で呼んでみた。目を覚まさないか肝を冷やしたが、黒川はやはり起きなかった。

 安全を確認したサノケンは、外にいる三人を呼び入れた。サノケンの呼びかけに応じて男性部屋に入って来た莉音、蘭、大雅の三人は、これから何が行われるかも知らず、呑気に眠っている大男を見下ろした。

「大雅。準備を」

「うん」

 そう言うと、大雅は一度部屋を出た。それから五分ほどすると、再び戻ってきた。その両手には、炭の入った七輪と、それよりも二回りほど大きなビニール袋が持たれていた。

「よし。始めよう」

 大雅が持ってきたものを確認すると、サノケンは大雅に七輪をビニール袋に入れるよう指示した。その間に、サノケンは部屋の隅に置いてある棚の中から、ノズルの付いた直方体の機械のようなものを持って来た。

「それがさっき言ってたやつ?」

 サノケンが持ってきた機械を見て、莉音が尋ねた。

「そう。CPAPシーパップっていうんだって。睡眠時無呼吸症候群の患者に推奨されてる機械で、このノズルを鼻に付けて空気を送り込むことで、気管を強制的に開いて呼吸させる仕組みらしいよ」

「詳しいね」

「俺と大雅はクロちゃんに何回もこの話聞かされてるから」

「そうなんだ」

 そう言って、蘭とサノケンは軽く笑い合った。思えば、黒川が歩美の脱落を告げてから、初めて出た笑顔だった。

「あ!」

 次の瞬間、サノケンが声をあげた。その声に、三人は一瞬にして焦った表情を見せた。何か重大なミスが発生したのだろうか。三人は同じ考えが頭をよぎった。しかし、次にサノケンの口から出た言葉は、それほどたいした問題でもなかった。

「火種忘れた」

「火種?」

「うん。炭を燃やすのに、火種がいる。何か燃やせるもの無い?」

 飄々とした顔で言うサノケンを見て、三人は同時に胸を撫で下ろした。

「何?どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ。急に大きな声出すからびっくりするじゃん」

「ごめんごめん」

 サノケンは顔の前で手を合わせながら蘭に笑顔で謝罪した。

「燃やすもの……。下のリビングに行けば何かあるかも」

 そう言って部屋を出ようとした大雅を、サノケンが呼び止めた。

「できればこの部屋にあるものの方がいい。クロちゃんは歩美ちゃんに脱落を告げた後、ずっとこの部屋にいたことにしたいから」

「そっか」

 サノケンの言葉に納得した大雅は、部屋を見回して、何か燃やせるものがないか探してみた。

すると、ゴミ箱の中に茶色い箱と、包装紙のようなものが見えた。大雅はゴミ箱の中から箱だけを取り出し、サノケンに見せた。

「これは、どう?」

「クッキーの箱か。うん、いいと思う。それにしよう」

「ちょっと待って」

 そう言ったのは莉音だった。莉音は大雅に近付き、大雅が持っているクッキーの箱をまじまじと見た。

「ねえ。この箱、何か書いてない?」

「え?」

 莉音に言われて、大雅は改めて自分が持っている箱をよく見てみた。すると、箱の上面に、黒いマジックのようなもので何か書かれてあることに気が付いた。茶色い箱に黒い字で書いてあるので、すぐには気付けなかったのだ。大雅は、そこに書かれた文を読み上げた。

「クロちゃん様。毎度ありがとうございます。これからも番組を盛り上げてくださいますようお願いいたします」

「これ、多分クロちゃんが番組のスポンサーの人から貰ったお菓子だよ。私も現場でたまにこういうの貰うから分かる」

「どうする?これ使っちゃまずいかな」

 大雅の疑問に、サノケンがすぐに答えた。

「いや、ゴミ箱に捨ててあったってことは、要らないものってことだ。練炭自殺するときの火種にしてても別に不思議じゃない。ていうかそれ以前に、スポンサーから貰ったものを捨てるかね、普通」

サノケンの呆れたものの言い方に、誰も反応を示さなかった。黒川がそういう人間であることを、ここにいる全員が既に知っていたからだ。

「じゃあ大雅、その箱を七輪の中に」

「うん」

 大雅はクッキーの箱を半分に破り、一方をビニール袋に入った七輪の中に入れ、上から網を被せた。もう一方は床に置いておいた。

 それと同時に、サノケンが懐からバーベキューなどで使われる、ロングタイプのライターを取り出した。

 サノケンはライターを着火する前に、再度三人の顔を見回した。

「みんな。辞めるなら今ならまだ間に合う。ここから先に進んだら、もう後には戻れない。もしやっぱり辞めたい人がいたら、ここで言って欲しい。別に誰も責めたりしない」

 サノケンは、蘭、莉音、大雅の順に、三人の目を見つめていった。三人ともサノケンの目を真っ直ぐに見つめ返し、誰も辞めようと言い出す者はいなかった。

「じゃあ、やるよ」

 そう言ってサノケンがライターに火をつけようとした瞬間だった。

 階下から、ギー、バタンという、ドアが開き、また閉まる音がした。

 四人は一瞬にして凍り付いた。


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