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山崎警部と妹の日常  作者: AS
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VSモンスターハウス1

「脱落するのは……歩美ちゃん」

 その瞬間、リビングが真空状態になったような感覚を、黒川以外の全員が味わっていた。

「悩んだけど、僕と恋愛しそうな感じもないしーー」

 他のメンバーたちが落ち着きを取り戻すより先に、黒川は歩美を脱落させた理由を語り出した。他のメンバーは、それを呆然とした気持ちで聞いていた。

 しかし、よく考えたら当然の選択だった。このモンスターハウスに恋愛をしに来ている黒川にとっては、少しでも自分と付き合う可能性のある女性を自分の近くに置いていた方がいい。ただ、その理由を堂々と自分たちの前で話せる黒川の図太さに、メンバーたちは少なからず驚いていた。

 黒川が語る脱落理由を聞きながら、歩美は涙を流していた。隣にいた莉音と蘭も、共同生活によってすっかり友情が芽生えていた友人との別れを惜しみ、共に涙を流した。

 歩美に密かに恋心を抱いていたサノケンは、まだ現実を受け入れられないような表情で愕然とし、大雅は何も言わず、じっと斜め下を見つめていた。

「ごめんね。でもそういうルールだから。じゃあ僕はもう寝るね」

 黒川は平然とした顔で、それだけ言い残し、リビングから出て行った。

 黒川がいなくなると、リビングには女性三人のすすり泣く声だけが聞こえ、男二人は何も言い出せずにいた。

「……私、ここを出たくない……」

 やっとの思いで、歩美が口を開いた。

「私も、歩美ちゃんに出て行って欲しくない。せっかく仲良くなれたし、これからもお姉さんみたいにいろいろ教えて欲しかったのに……」

 莉音が嗚咽を漏らしながら言った。

「何とかなんないのかな……」

 蘭が独り言のように言う。

 それからまたしばらく沈黙が続いた。各々が、歩美が脱落するというこの状況を打開する策を模索しているようだった。しかし、誰一人具体案を出すことはできないでいた。

「みんなありがとう。私が出て行っても、良かったら仲良くーー」

「あのさーー」

 歩美が別れの言葉を告げようとしたとき、サノケンがそれを遮った。歩美たちは、驚いた表情でサノケンを見た。その真剣な顔に、全員がただならぬものを感じていた。

「一つだけ考えたんだ。歩美ちゃんが脱落しなくてもいい方法」

「え?」

「そんな方法あるの?」

尋ねる歩美と莉音に、サノケンは恐る恐る口を開き、答えた。

「……クロちゃんを殺す。ていうのはどうかな」

「……え?」

 歩美と莉音は、予想だにしなかったサノケンの提案に、何と答えていいのか分からなかった。

「冗談でしょ……?無理だよ、そんなの……。だって……ねえ、蘭ちゃん?」

「……」

「……大雅くん?」

「……」

 莉音が問いかけたが、蘭と大雅は一点を見つめたまま何も答えなかった。おそらくさっきの沈黙の間、二人はサノケンと同じことを考えていたのだろう。しかし、それを実際に口にすることはできなかったようだった。

「歩美ちゃんは?歩美ちゃんはどうなの?」

「私は……」

 歩美はゆっくりと口を開いた。

「私は、まだモンスターハウスにいたい。でも、私がいたいモンスターハウスに、クロちゃんはいらない」

「……」

 歩美の答えに、莉音は絶句した。今ここにいる自分以外の四人が、黒川の殺害という同じ方向を向いていることが信じられなかった。

「みんな、本気なの?」

 莉音の問いかけに、また沈黙が続いた。

「俺はーー」

 口を開いたのは大雅だった。

「俺は、歩美ちゃんと、蘭ちゃんと……あと、莉音を泣かせたクロちゃんを……許せない、かな……」

「私はーー」

 大雅に続いて蘭が話し始める。

「クロちゃんのことが憎いとかは無いかもだけど、クロちゃんとみんなだったら、私はみんなの味方をしたいから、みんながそれを望むなら、それが私の望みでもある……」

「……あとは、莉音ちゃん」

 サノケンは、まだ困惑した様子の莉音を見つめた。その目は自分たちへの協力を訴えるものであったが、莉音が反対すればその意見を尊重するつもりであるという優しさも読み取れた。他の三人も、無理に莉音に協力させようという気は無いようだった。ここで莉音がこの話に乗って来なければ、即座に五人はこの話をやめ、何事もなかったかのように酒を酌み交わし、小さな歩美の送別会を行ったことだろう。しかし実際は、そうはならなかった。

 莉音は一度大きく息を吐いた後、サノケンの顔を見返して、「分かった」とだけ呟いた。その決意に満ちた顔を見て、サノケンは小さく頷いた。

「でも、どうやって殺すの?私、クロちゃん殺して刑務所入るとか嫌だよ?」

 蘭の疑問にサノケンが答える。

「大丈夫。クロちゃんは自殺に見せかけて殺す。多少俺たちが疑われるのは致し方ないけど、逮捕されることは絶対ない」

 蘭は少し考えた後、「分かった。サノケンを信じる」と答えた。続いて大雅、歩美、莉音もこれに応じた。

 サノケンは全員の意思を確認すると、テーブルに体を乗せ、声のボリュームを落として、黒川の殺害計画を話し始めた。


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