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山崎警部と妹の日常  作者: AS
8/153

負けられない女8

 車がたどり着いたのは、めぐりや原が泊まっているホテルだった。めぐりに再び話を聞くためだった。あれから山崎はずっと何かを考えていたが、結局違和感の正体は分からず終いだったようだ。後ろではカオルが眠たそうな目を擦っている。

 三人は一階のロビーを抜けてエレベーターホールへと向かった。カオルはあまりの眠たさに、立ったまま山崎の肩にもたれていた。

「お兄ちゃん。私眠いよー」

「だから車の中で寝てていいって言っただろ」

「だって、カオルが目を離してる間に東堂さんがお兄ちゃんに変な気起こしたら大変じゃん」

「起こさないわよ。今から日野さんのところへ行って話を聞きに行くのよ? どこにそんな隙があるっていうの?」

「いやまあ、それ以前の問題だと思うんですが…」

「そんなの分かんないじゃない。若い男女がホテルの密室で一緒にいるなんて、何か間違いが起きても不思議じゃないもん!」

「だからあなたは考え方がお子様なのよ。大人になるほどそういうのは無くなっていくのよ。あなたたち子供の性欲と、私たち大人のそれを同列に考えないで欲しいわね」

「またそういう話を大声で…」

「カオルはそういうのはちゃんとコントロールできるもん! カオルよりも、東堂さんみたいな今まで彼氏の一人もできたことないような貧乳の女の方が危険なんだから!」

「貧乳は関係ないでしょ! ていうか、彼氏がいたことないって何で決めつけるのよ!」

「え? じゃあいたことあるんですか?」

「そ、それは…」

「ほら! やっぱりいたことないんじゃん!」

「そんなラブコメもののラノベにありがちなやり取りはやめてもらえませんか?」

「そんなこと言って、山崎さんだって彼女いたことないくせに」

「何で僕の話になるのかなあ」

「お兄ちゃんには私がいれば彼女なんていらないの! 私なら、お兄ちゃんの恋人代わりになってあげられるよ! 何だったら、普通の彼女にはできないことだって…」

「どうしてあなたはそうやってすぐに下の話にしたがるの!? 山崎さんのこともちょっとは考えたら? 妹に下の話をされる兄がどんな気持ちか…」

「東堂さん、お気持ちはありがたいのですが、あんまりそういうことを大声で言うのはちょっと…」

「あら? 何で東堂さんはカオルの今の話が下の話だと思ったのかしら? カオルが言った『普通の彼女ができないこと』っていうのは、料理や家事のことなんですけど? それが何で下の話になっちゃうのかしら? 東堂さん、一体何を考えてたの?」

「ふん! それで私を手玉に取ったつもり? そんなの小学生でも思い付くようなおちょくり方ね! やってることは十回クイズと同じレベルのことじゃない」

「そんな低レベルな誘い水に自分が引っかかってるってちゃんと自覚してるんですか、東堂さん? そんなんだから東堂さんは―」

 この後もエリナとカオルによる聞くに堪えない口喧嘩が交わされたが、既に呆れかえっていた山崎は二人のやり取りを聞くのをやめ、さっきまで考えていた違和感の正体を突き止めることに思考を集中させることにした。一体あの映像の何が自分に違和感を与えているのだろうか。エリナの言った通り、普通に見ていれば何の変哲もない、かるたの練習風景である。しかし、何かがおかしい気がするのだ。正確には分からないが、自分が知っている情報と矛盾しているものが、あの映像には映っていた気がする。だが、どれだけ考えてみてもやはり答えは出なかった。そんなことを考えている間にも、隣ではカオルとエリナは醜い女同士の口喧嘩を続けていた。さすがに山崎は止めに入ることにした。

「二人とも、そろそろ落ち着いて」

 山崎が間に入ると、やっと二人は落ち着いた。

「何で二人ともそんなに仲が悪いんですか…」

「私は何も言ってません。悪いのはカオルさんです」

「東堂さん。カオルの兄である僕が言うのも変な話ですが、東堂さんの方が七つも年上なんですから、カオルの言うことは子供の言うことだと思って聞き流してくれませんか?」

「…善処します」

「お願いします」

 納得のいっていない様子のエリナに対して、山崎は感謝という形で「これ以上は面倒なことはやめてください」と暗に訴えかけていた。

「はあ…。ところで、遅いですね、エレベーター」

 エリナが溜息交じりに言った。

「そうですね。まあこのホテルには一つしかエレベーターがありませんから、こういうこともあるかもしれませんね」

「何か、不便ですね」

「まあそう言わず。日野さんの部屋は何階でしたっけ」

「四階です。確か、大川さんの部屋も同じ階にあったと思います。四階なら、エレベーターを待つより、階段で上がった方が早―」

 その瞬間、エリナと山崎の頭に電流が走ったような感覚があった。

「山崎さん!」

「僕も今、東堂さんと同じことを考えていると思います」

「どうしますか?」

「日野さんに話を聞くのはもう少し後にしましょう。その前に調べていただきたいことがあります」

「分かってますが、一人ではかなり時間がかかるかと」

「もちろん僕も手伝います。あと…」

 山崎はカオルの腕を掴んだ。

「お前にも手伝ってもらうよ、カオル」

「えー。カオルは面倒臭いのは―」

「これまで散々僕の仕事に面倒をかけて来たよね? たまには僕の仕事に役立つことをしたって罰は当たらないんじゃないかな?」

 そう言ってカオルに微笑みかける山崎の顔は、笑顔ではあるが目は笑っていなかった。それは「お願い」や「依頼」ではなく、明確な「命令」であった。

「は、はーい」

 山崎の冷たい笑顔の迫力に負けたカオルは、その「命令」に従う他なかった。

「では、三人で手分けして調べましょう」

 そう言って山崎は、エリナとカオルに指示を出し、三人は各々散って行った。


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