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山崎警部と妹の日常  作者: AS
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山崎のとある休日4

「何だ?」高津が言う。

「あの、それやらなきゃ駄目ですか?」

「当たり前だろ!」

「いや私、手を縛られるのとかが苦手でして。すぐ痛くなっちゃうんですよ。あと閉所恐怖症なんで目隠しもちょっと・・・」

「知るか!ちょっとの間なんだから我慢しろ!」

「そんな・・・。大丈夫ですよ。何もしませんから。仮に私が抵抗しようとしたところで、あなた方に力で敵うはずありませんし」

「うるさい!大人しくしてろ!」

 二人のやり取りが耳に入った三枝は、二人の元へ近付いていった。駄々をこねていた男の名前を聞くと、その男は山崎と名乗った。

「山崎さん。何度も言っているように、僕たちはあなたに危害を加えるつもりはないんです。もしあなたがこのまま拒否し続けるのであれば、僕たちはあなたに手を上げなければならない。それは僕たちにとっても望ましいことではないんです。できれば僕たちは誰も傷付けずに銀行強盗を遂行したいんです。数十分の辛抱ですから。分かってくれませんか?」

「…」

 ここまで言ってもこの山崎という男はまだ首を縦に振らなかった。三枝はいよいよ声を上げそうになるのを、何とか堪えた。この男が何を考えているのか、三枝には理解できなかった。

 三枝が閉口していると、山崎という男の隣にいた女の銀行員が、山崎に対して口を開いた。

「あの、お客様…」

「はい?」

「あの、この方たちもああおっしゃってる訳ですし、ここは折れていただくことはできませんか?」

「うーん」

「ここにいる全員の安全のためなんです。もちろんお客様自身も。ですからーー」

 その女が話していると、何かトラブルがあったと察したのか、向こうから山本が近寄ってきた。

「どうかしましたか?」

「それがこの男がさーー」

 三枝が状況を説明しようとすると、山崎という男は急に身を乗り出し、山本が持っていたアタッシュケースに触れた。

「おお。これが二億円を入れるためのケースですか。さすがに立派なのを用意されましたね」

 山本は慌ててこの男からアタッシュケースを離した。

「おい!何してる!」

 三枝は思わず声を荒げていた。

「何って、ちょっと触っただけじゃないですか。そんなに怒らなくても」

「油断も隙もないな。やっぱりあなたは拘束しておいた方がよさそうだ」

「え、いや、そんな、待ってくださいよ」

「待ちません。高津さん、お願いします」

「おう」

 三枝の指示により、高津は山崎の腕を半ば強引に縛った。山崎は最初は嫌がったが、諦めたのかすぐに大人しくなった。「高津」という呼び名を聞かれてしまったが、どうせ偽名なのだから構わないと思った。

 腕を縛ると、今度はアイマスクをつけた。そのときも山崎は「暗いの怖いんですけど…」と不満を言ったが、もはや高津も三枝も聞く耳を持たなかった。

 山崎の自由を奪い、残るはその隣にいる、胸に「神楽坂」と書かれたネームプレートをつけた、小柄な女を残すのみとなった。しかし、三枝たちはこの女を拘束しなかった。この女には、銀行の金庫を開けさせ、ケースに金を詰めさせる役割を担わせることを、三枝は銀行に乗り込んだときから決めていたのだった。

「神楽坂さんとおっしゃるんですね?あなたは僕たちと一緒に来て、お金の準備を手伝ってもらいます。立てますか?」

 三枝が尋ねると、神楽坂は怯えた様子を見せながら、ゆっくりと立ち上がった。

「あのーー」

 そのとき、さっき拘束した山崎という男が、目隠しをされたまま話しかけて来た。

「何ですか?」

 一応答えはしたが、三枝の声には明らかに苛立ちが混じっていた。

「ちょっとお聞きしたいんですが、皆さんはお金を奪った後、ここからどうやって逃げるつもりなんですか?」

「ああ?」

 高津も苛立った様子で返事をする。

「だって、皆さんはここに乗り込んで来たとき、真っ先に入口のシャッターを閉めさせましたよね?確かにそうすれば外からの邪魔は入りませんが、代わりに皆さんも逃げられなくなるはずです。このままだと警察が来るのを我々と一緒に待つだけになりますが、どうするおつもりなんですか?」

「あのなぁ、何でお前にそんなことーー」

「高津さん。もういいです。この人には構わないでおきましょう。それよりも計画の遂行が優先です。この人のせいで随分時間をロスしました」

 山崎に突っかかろうとした高津を、三枝が制した。高津はすぐに「そうだな」と答えると、神楽坂と共に金庫の奥へと向かい、三枝もそれに続いた。一度後ろを振り返ると、目隠しをされ、拘束された状態で座り込んでいる山崎という男が、じっと何かを思案しているように見えた。三枝はそれを何だか不気味に感じたが、今はそれよりも優先すべきことがあるので、あの男のことは無視することにした。



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