表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山崎警部と妹の日常  作者: AS
134/153

恩師2

 芹沢に話した内容をもう一度山崎にも話した吉田と曽根崎は、少しうんざりした様子だった。山崎は気にせず二人に質問を始めた。

「まず吉田君。君の財布の特徴を教えてください」

 山崎は同級生にも敬語で話していた。あまり山崎とは親しくなかった吉田と曽根崎も、何となく山崎のことは噂で聞いていたので、特にそれに触れることはなかった。

「革製の結構良いやつだよ。高校入ったときに、親戚のおじさんが買ってくれたんだ」

「色は?」

「黒」

「他に何か付いたりしてますか?」

「他? この前の誕生日に、彼女にもらったストラップなら付いてるけど」

「ストラップ? それはどんな?」

「何か小さい水晶みたいなやつだよ。何でそんなこと聞くんだよ?」

「いえ。何か手がかりになるかもと思いまして。では次に曽根崎君」

「……何?」

 曽根崎は山崎のことを少し気味悪がっているようだった。

「君が忘れ物を取りに行った吉田君を待っている間、部室に誰か入って来たりはしませんでしたか?」

「……誰も来てない……」

「そうですか。ところでーー」

 そう言うと、山崎はすっと曽根崎の顔に自分の顔を近付けた。驚いた曽根崎は、少し後ろに仰け反った。

「な、なんだよ急に」

「いえ、目の下のクマが気になったもので。昨日は遅かったんですか?」

 山崎の言う通り、曽根崎の目の下にはクマができていた。

「この前、新作のゲームが出たから、昨日夜中までやってたんだよ。別にいいだろ」

「そうですか。分かりました。では、部室を見せてもらってもいいですか?」

「ちょっと山崎君。君はどこまでーー」

 本格的に捜査をしようとしている山崎を、後ろで聞いていた芹沢が思わず制止した。

「乗りかかった船です。ここまで来たらとことんやりましょう。先生だって、これを親御さんや教頭先生たちに知られて、事を大袈裟にはしたくないでしょう?」

 それはそうだったのだが、そんなことまで考慮に入れているこの高校生に、芹沢は一種の恐ろしさを感じた。

 山崎は吉田と曽根崎に案内されながら、部室棟二階にある男子バスケットボール部の部室へと足を踏み入れた。芹沢も、監督責任として山崎について行った。

 部室の中はかなり散らかっていた。部員たちの鞄や荷物だけでなく、部員たちが持ち寄ったのであろうたくさんの漫画などが、床に散らばっていた。

 山崎は部室の中を見渡した後、開いたままになっている窓を見た。

「あの窓はずっと開いてたんですか?」

「ああ。あそこは基本開いてるよ」

 答えたのは吉田だった。

「なるほど……」

 そう言うと、山崎は曽根崎の方を見た。曽根崎は不安そうに、視線をどこに置いていいのか迷っているようだった。

「分かりました」

 少し間を置いて、山崎が言った。

「分かったって、何が分かったのかね?」

「吉田君の財布の行方ですよ、先生」

「何?」

「本当か!? どこだよ!?」

「まあまあ、落ち着いてください、吉田君。その前に、一つ確かめなければならないことがあります」

「確かめなければならないこと?」

「はい。曽根崎君」

「わ! ……な、何?」

 曽根崎は、突然名前を呼ばれて驚いた顔を見せた。山崎は気にせず問いを投げかけた。

「ここの部室、随分散らかってるようですが、何かあったんですか?」

「え? それはーー」

 横から口を出そうとした吉田を山崎は手で制し、曽根崎の答えを待った。曽根崎は、少し考える様子を見せた後、思い出したように言った。

「え、えっと、昨日部員たちでここで遊んでて、そのときに散らかっちゃったんだよ。本当は昨日片付けるべきだったんだけど、面倒臭くてこのままにーー」

「え?」

 吉田と芹沢が同時に口に疑問の意を口に出した。

「曽根崎、お前何言ってんだよ?」

「え?」

 吉田の言葉に、曽根崎は困惑していた。この中で一人だけ、状況を理解しているらしい山崎が、ニヤニヤしながら曽根崎に言った。

「曽根崎君が動揺するのも無理はありません。この中であなただけが、部室が散らかっている理由を知らないのですから」

「え?」

 曽根崎はさらに困惑した。

「いいですか、曽根崎君。実はさっき、この近くで地震があったんですよ。それもそこそこ大きな」

「え!?」

「おい曽根崎。お前何で知らないんだよ?」

「あの地震は結構大きかった。気付かないはずはないのだが……」

 疑問を抱く吉田と芹沢にも聞こえるように、山崎は続けた。

「なぜ曽根崎君が地震のことを知らないのか。それは、吉田君が部室から出て行った後、曽根崎君はここでずっと眠っていたからですよね?」

「え?」

 吉田と芹沢は予想外の言葉に耳を疑った。曽根崎は、ばつが悪そうな表情で下を向いていた。

「おそらく昨日夜遅くまでゲームをやっていた影響でしょう。睡眠不足だった君は、一人になった途端、あっという間に眠りに落ちてしまった。それも地震にも気付かないほど深く。犯人は、その間に吉田君の財布を盗み出したんです」

「曽根崎、本当なのか?」

 吉田の問いに、曽根崎は黙ったままゆっくりと頷いた。

「何で言わないんだよ!」

「だって、僕が寝てる間に盗まれたなんて分かったら、その、すごく、責められると思って……」

「そんなの、言わない方が責めるに決まってるだろ!」

「……ごめん」

 興奮する吉田を、芹沢が冷静に諭した。

「まあまあ、その辺にしておきなさい。で、山崎君。ということは、犯人はやはり分からないということになるのかな」

「いえ。犯人の大体の目星も付いてます」

「何?」

「そうなのか!? 誰だよ! 誰が俺の財布盗んだんだよ!」

 吉田は山崎に詰め寄った。山崎は冷静に、犯人の名を告げた。

「犯人はーー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ