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山崎警部と妹の日常  作者: AS
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負けられない女11

 某所にある某カフェ。昼時ということもあり、店内は昼食を摂りに来ているサラリーマンやOLで溢れていた。

 そんな中、窓際の一席に、二人の美女が向かい合って座っていた。一人は髪は肩にかかるぐらいの長さで少し明るめ。童顔で、黒縁の眼鏡が似合っている。胸が貧相なのが玉に瑕だが、気にしない人にとっては何ら問題は無いだろう。もう一人は髪は長く、それを後ろで縛ってポニーテールにしている。顔は「可愛い」というよりは「綺麗」と形容されるべき見た目で、どことなく大人の色気のようなものを醸し出している。胸もなかなかに豊満で、その大きさはシャツの上からでも分かるほどだった。

 この全くタイプの違う二人の美女が、店内中の男性はもちろん女性の目線までも奪い、更には窓の外からこの二人を見た人の集客にも一役買っていることを、二人は知る由もなかった。

「あの新しい刑事さん、どんな感じ? 山崎さん、だっけ?」

「どんなって…。うーん。一言で言うと、変人ですね」

「ははは。だろうね。現場に妹連れて来るぐらいなんだから」

「本当そうですよ。またその妹が生意気で…。マイコさんからも何か言ってくださいよ」

「私には関係ないもん。私の仕事は死体や現場を詳しく調べるだけ。刑事さんの妹の面倒を見るのは管轄外だもん」

「そんなの、私だってそうですよ。何で私が上司の妹の子守をしなきゃならないんですか」

「でも、意外といいコンビに見えたよ。東堂さんと…えっと…カオルさん?」

「やめてくださいよ。昨日だって、例の事故の捜査にまた勝手に付いて来て、邪魔ばっかりするんですよ?」

「例の事故って、あのかるたの選手が階段から落ちたやつ?」

「そうですけど」

「あれ、まだ調べてんの!? とっくに事故で片付けられたと思ってたよ」

「だって、捜査はあらゆる可能性を吟味する必要があるってマイコさんも―」

「確かにあの場ではああ言ったし、事実でもあるとは思うけど、あれは事故の可能性がかなり高いと思ってたからね」

「私も最初はそう思ってましたけど、山崎さんはそうじゃないみたいです。実際、いろいろ調べていくと、事故じゃない可能性もだんだん見えて来て…。多分、山崎さんじゃなかったら、マイコさんの言う通り、とっくに事故として片付けられていたと思います」

「ふーん。そうなんだ…」

 相槌を打ちながら、マイコはコーヒーを口にした。

「ところで、山崎さんとはどうなってんの?」

「どうなってるってどういうことですか?」

「そりゃあ、男としてどうなのかって話よ。見た感じ、顔は結構カッコよかったじゃない」

「男としてって…そんなの何もないに決まってるじゃないですか!?」

 勢い余って、エリナは水の入っていたコップを零してしまった。

「あーあー。すいませーん! 雑巾か何かもらえますかー?」

 マイコは呆れた様子で店員を読んだ。間もなく雑巾とティッシュを持った女性の店員がやって来て、テーブルと床を素早く拭き、あっという間に元通りにしてしまった。店員が掃除をしている間、エリナはずっと「すいません、すいません」と謝罪を繰り返していた。

 店員が戻って行った後、再びマイコが話を切り出した。

「もう…焦り過ぎよ、東堂さん」

「別に焦ってた訳じゃ…」

「私は冗談のつもりで言ったんだけど、もしかして本当に―」

「違いますってば! 確かに顔は…まあイケメンの部類には入るかもしれませんけど、あんなシスコンの男性、私は絶対に嫌です!」

「そうかなあ。家族を大事にするのはいいことじゃない?」

「大事にするのにも限度がありますよ。いくら頼まれたからって、普通人が亡くなった場所に妹を連れて来ますか?」

「ふふ…。確かにそうかもね」

「そうですよ! …あ、そういえば…」

「何?」

「いえ。昨日、山崎さんが言ってたんです。妹といつも行動を共にしてるのは、妹が勝手に付いて来るからだけじゃないって。他にも理由があるんだって」

「へえ。何なの、その理由って」

「それが、結局教えてもらえなかったんですよ」

「えー。気になるじゃない」

「まあ、そんなのないと思いますけどね。どうせ、妹と一緒にいるための口実だと思いますよ」

「そうなのかなあ…。私は、本当に何か理由があるからだと思うけどなあ」

「何ですか? それ」

「それは私には分からないよ。本人に聞いてみて」

「はあ…。まあいいや」

 エリナが肩を落としていると、突然エリナのスマホが鳴った。エリナはスマホを操作し、耳に当てた。

「はい…。はい…。分かりました。すぐに向かいます」

 それだけ言って、エリナは電話を切った。

「何? 呼び出し?」

「はい。噂をすればです」

「あらあら? もしかしてデート?」

「そんな訳ありませんよ。何か相談したいことがあるから、今いる喫茶店に来てくれって」

「それってデートじゃないの?」

「山崎さんの声の後ろから、妹さんの罵声が聞こえて来ました」

「あら…。頑張ってね」

「はい…」

 エリナが財布を出そうとすると、その手をマイコが止めた。

「ここは私が出しとくから、東堂さんは早く行ってあげて」

「え…。でも…」

「いいの。私も今日は休みで暇だったから、付き合ってくれたお礼。それに、例の事故がどんな結末になるのか、私も興味あるの。だから、今はそっちに集中して」

「…分かりました。いつか必ずお返ししますから」

「はいはい」

 エリナはマイコに頭を下げ、店を出て行った。一人残されたマイコは、残ったコーヒーを一気に飲み干し、ぼそっと呟いた。

「はあ…。いいなあ。仕事楽しそうで…。…彼氏欲しい」


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