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山崎警部と妹の日常  作者: AS
109/153

愛され過ぎた女4

 夕飯の片付けも終わり、綾乃が風呂から上がるまでの間、徹は明日綾乃に持たせる為の弁当の準備をしていた。

 塩むすびにミートボール、ウインナー、プチトマト、レタス、唐揚げなどを入れる予定で、今日はその下準備をした。栄養と彩りのバランス、そして味。全てに気を使った理想的な弁当と言えた。

 綾乃が風呂から上がり、寝室に入ったことを確認すると、今度は徹が風呂に入った。湯船は若干温くなってはいたが、風邪を引いてしまうほどではないし、いつものことなのでもうこの温度に慣れてしまっていた。

 早々に風呂を済ませると、寝間着に着替え、台所でお茶を一杯飲み、自分の寝室へと向かった。徹と綾乃の寝室はちょうど向かいになっていて、徹が自身の寝室へ向かう手前で、綾乃の寝室の前を通るような造りになっていた。

 寝室に入る前に、綾乃の寝室に一瞬耳を傾けると、部屋からは物音一つしなかった。既に眠ってしまったのだろう。そんなことを考えながら、徹は自らの寝室のドアを開けた。

 日課にしている就寝前の三十分の読書を終えると、徹は部屋の電気を消した。今読んでいる小説もかなり終盤まで来た。明日には読み終えられそうだ。徹はこの後の小説の展開を予想しながら、ベッドの上で目を閉じた。

 瞼の裏に広がる真っ暗な世界の中で、徹は今日の綾乃とのやり取りを思い返した。

 今日は綾乃とまともに会話できただろうか?会話という会話と言えば、綾乃が指輪を無くしたことと、明日高校の同級生と旅行に行くと言い出したときに軽く話したぐらいだろうか。それでさえ、会話のやり取りは二、三回往復ぐらいで、まともなキャッチボールはなかった。

 いつからこんなふうになってしまったのだろう。結婚した当初はこんなことはなかったはずだ。確かに綾乃は口数が多い方ではないが、人の話を無視するような人間ではない。そもそもそんな人間なら最初から結婚などしない。

 徹は、どうしたら結婚当初のような仲の良かった関係に戻れるのか、毎晩のように考えていた。それには、そもそもこうなってしまった原因を究明する必要があるのだが、正直なところ徹には、これといった原因が思い浮かばなかった。もちろん、非の打ち所がない完璧な夫かと言われれば肯定しかねるが、かといって、ここまでの扱いを受けるほどのことはした覚えがなかった。

 やはりいくら考えても答えが出ることはなかったが、一つだけ確かに言えることは、ここまで真剣に頭を悩ませるほどに、徹は綾乃を愛していた。

 綾乃と出会って六年になるが、徹の綾乃への愛が衰えるようなことはなかった。むしろ年月を重ねて、綾乃の新しい一面が見えるたびに、徹は更に綾乃への愛が深まるのを感じるのだった。

 結局今日も答えは出ないまま、徹は寝ることにした。その前にスマホを少し操作し、スマホに挿したイヤホンを耳に嵌め、目を閉じた。仕事と家事で疲れていた徹は、すぐに眠りに落ちた。



 今何時だろうか。

 徹は微睡みの中にいた。起きているのか眠っているのか、自分でもよく分かっていない。このまま目を閉じていれば、やがて再び眠りに落ちるだろう。

 そんなふうに考えていると、誰かが自分の首に触れるような感覚があった。錯覚だろうか。それとも夢だろうか。どちらにしてもざわざわして気持ちが悪いので、早く首から離れて欲しかった。

 しかし、徹の思いに反して、首の感覚は続いた。どうやらこれは夢ではなく、現実のものらしい。微睡みの中でそう気付き始めた徹は、重たいまぶたをこじ開けて、その正体を確かめることにした。

 そして、徹がゆっくりと目を開けた瞬間だった。突然息ができなくなった。次の瞬間には、自分の首が何か硬くて四角いものに、非常に強い力で絞められていることに気付いた。どうやら手ではなく、紐やベルトのような帯状のものらしいと分かった。

 突然のことで驚き、一気に目が覚めた徹は、目を見開いてそこに誰がいるのかを確かめようとした。確かに自分の体の上に誰かが跨っているらしいことは分かったが、部屋が暗いためになかなかその顔を判別することができなかった。

 そして、少しずつ薄れ行く意識の中で、目が慣れてやっとのことでその人物の顔を確認することができた。

 そこにいたのは、必死の形相で自分を殺そうとしている綾乃だった。

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