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山崎警部と妹の日常  作者: AS
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VSモンスターハウス14

 エリナが山崎に今の居場所を聞くと、カオルと喫茶コロンボにいると教えてくれた。何か考え事をするときはいつもあそこだ。

 山崎と仕事をするようになってからすっかり自分も行きつけになってしまったその喫茶店を目指して、エリナは歩き出した。この店にたどり着くには狭い路地を何度も曲がらなければならず、相変わらず分かりにくい場所にあった。山崎がどうやってこの店を見つけたのか、エリナは不思議だった。

 エリナが喫茶コロンボに着いたとき、店内はいつもの奥の席に山崎とカオルがいる以外は、全て空席だった。エリナはこの店に自分たち以外の客がいるところを見たことがない。これだけ分かりにくい場所にあるのだから当然と言えば当然なのだが、どうやって経営が成り立っているのか、エリナはいつも不思議だった。

「あ、東堂さん。こちらです」

「はい。あ、マスター。私カフェラテお願いします」

 山崎のいる席に向かう途中で、エリナはマスターに注文した。鼻の下に白い髭をたくわえたマスターは、何も言わずにっこり笑ってカフェラテを作り始める。そういえば、この喫茶店のマスターの声を、エリナはまだ聞いたことがなかった。いつもカウンターの向こう側で黙って食器やコップを布巾で拭いている。一体この店には何個食器が置いているのかと思いたくなるほど、マスターはひたすら食器を拭いているのだった。

 山崎とカオルはいつもの席で、いつものように山崎はオムライスを食べ、カオルはオレンジジュースを飲んでいた。喫茶店ではあるのだが、この店の料理や飲み物は、何を頼んでも美味しかった。

「お疲れ様です、山崎さん」

「東堂さんもお疲れ様です」

「おつかれー、東堂さん」

「はいはい、カオルさんもお疲れ様」

 そう言いながら、エリナもいつもの席に座った。山崎を真ん中にして、左側にカオル、右側にエリナが座るのが、喫茶コロンボでのお決まりの定位置になっていた。

 すると、そのテーブルに小林ミクがカフェラテの入ったカップを持って現れた。

「お待たせしました。山崎さんに付きまとうゴキブリメガネのお客様。こちらカフェラテになります」

 そう満面の笑みで言いながら、ミクはカフェラテを乱暴にテーブルに置いた。ミクはここでアルバイトをしている女の子で、歳はカオルと同じ十七歳だが、よく大学生や社会人に間違われるほど大人びたカオルとは対照的に、ミクはよく小学生に間違われるほど見た目が幼い。ミクが今着ているメイド喫茶のメイドさんのようなこの店の制服が、更にそれを助長していた。

「ありがとう、ミクさん。あと、私の名前は東堂エリナだから。よろしくね」

「何をおっしゃいますやら。山崎さんに近付く私以外の女はみんなゴギブリ同然ですから。東堂さんは私にとって、ゴキブリがメガネかけて歩いてるのと一緒です」

「はあ……。はいはい。もう分かったから。カフェラテありがと」

「ごゆっくりー」

 ミクは笑顔を全く崩すことなく、テーブルを離れて行った。

 エリナはカフェラテを飲みながら、まだオムライスを食べている山崎に言った。

「お食事中失礼します。山崎さんから言われてたこと、調べて来ましたよ。そのまま食べながら聞いてください」

「ふひはへん。ほへはいひはふ」

「喋らなくていいので聞いててください。まずサノケンさんですが、彼は証言の通り、黒川さんが亡くなった日の夜九時半頃から夜中の一時頃まで、モンスターハウスの近所にある個人居酒屋で一人で食事をしていました。店主の吉田さんという方がサノケンさんを見ていて、会話も交わしてます」

 山崎は相変わらず食事を続けている。

「そして歩美さんですが、彼女も証言の通り、あの日、夜八時頃にネットカフェにいました。しかし、一つ気になることが」

「ひひはるほと?」

「はい。歩美さん、確かにネットカフェには入室したんですが、ものの三十分ほどで出て来てしまっているんです」

「……」

 山崎は、口をもぐもぐと動かしながら何かを考えているようだった。

「それ以降戻って来ることもなかったそうです。つまり、歩美さんには、あの日の夜八時半以降のアリバイがありません」

 山崎は、口の中に入っているオムライスを飲み込んだ。

「なるほど……」

「それと、これ、山崎さんが欲しがってた情報です」

 そう言って、エリナは一枚の資料を山崎に手渡した。山崎はそれに目を通すと、ニヤリと笑った。

「そんな情報が何かの役に立つんですか?」

「そりゃあもう」

「……山崎さん。実際のところどうなんです?」

「何がですか?」

「あの五人のうち、誰かが黒川さんを殺したって、そう考えてるんじゃないですか?じゃないと、わざわざ全員のアリバイをこんなに詳しく調べたりしないですもん」

「うーん。半分正解で、半分不正解ってとこですかね」

「半分正解?どういうことですか?」

 山崎は、コップに入った水を一気に飲んで言った。

「五人のうちの"誰か"ではなく、五人"全員"が、黒川さんの死に関わっていると、私は考えてます」

「全員!?そんな……。でも、そんなのどうやって証明するんですか?」

「五人全員の犯行を証明するのは正直かなり難しいですね」

「じゃあ……」

「私に考えがあります。その為に、東堂さんが持って来てくれたこの情報が役に立つんです」

 山崎は、エリナから受け取った資料を見せながら言った。

 エリナは、山崎の言っている意味が分からず、首を傾げるしかなかった。


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