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プロローグ②

 プロローグ②

 

 俺は歩きながら、大通りの中央を頻繁に行き交っている馬車や荷車を見る。人と物が丁重に運ばれているのだ。

 日よけがなく、座席が剥き出しになっている馬車などを見ると羨ましくなる。あの座席に座れるだけのお金があればと思ってしまうし。

 

「ま、実際にお金があっても俺は馬車になんて乗らないだろうけどな。そんなお金があれば、食い物でも買った方が良い」

 

 新しい町に来たら、とにかく食べる。

 勘考することを止めなければ、食べること一つでも色々なことが分かったりするものだ。

 食というものは本当に馬鹿にできない。

 

 そんなことを考えながら、俺はひたすら石畳の道を歩く。

 道は良く舗装されていたが、石の隙間には砂漠の黄色い砂が入り込んでいて、ジャリジャリとしていた。

 幾ら高い壁に囲まれていても砂の侵入までは防げないか。

 この道の掃除をしている人たちも大変だろうな。綺麗にしても、綺麗にしてもすぐに砂だらけになってしまうだろうから。

 でも、もし掃除を止めたら、酷く歩きづらい道になっていたに違いない。


「本当に良い町だな。素直にそう感じさせてくれるからこそ、世界中から人がやって来るんだろうが」


 俺のような外国人は、せいぜい町の人に迷惑をかけないようにしないとな。

 

 ちなみに、砂漠の中にあるということもあってか、町にある建物は基本的に砂の色との調和を感じさせる黄土色が多かった。

 お世辞にも綺麗とは言い難い色ではあるが、それでも良い意味での温かさや、生活感を感じさせる。

 

 一方、大通りの両脇には様々な店が建ち並んでいるので、足を止めて売り物を見ている人も多かった。

 カウンターや陳列棚が道に面している店がほとんどなので、何が売られているのかは歩きながらでも分かるし。


 こういうところも祭りを彷彿させるな。


「さすがに色々な物が売ってるな。お金のある人間にとっては、この大通りは天国かもしれない」

 

 そんなことを言いながら、俺も立派な剣や槍、斧などを売っている店の前では立ち止まってしまった。

 が、どれもこれも値の張る品ばかりでとても手が出せない。でも、その分、売られている武器の品質はかなり良く見えた。

 

「こんな豪華な剣は初めて見たぞ。しかも、武器としての質も素晴らしく良いと来ている。やっぱり、都会の武器屋は一味、違うな」


 俺は店で一番、高い剣を見ながら思わず溜息を吐いてしまった。こんな宝石が散りばめられた剣なんて誰が買うんだろうな。

 この値段なら、俺の暮らしていた村で家が三軒は建てられるぞ。名剣は一国にすら匹敵するって言っていた本もあったけど本当かもしれない。


 とにかく、この王都にいると何だか金銭感覚が狂いそうだし、その上、武器屋は大通りに何軒もあった。

 

 さすが迷宮があるサンクリウム王国の王都だ。

 

 迷宮に挑戦しようとしている冒険者に必要になりそうな物は何でも売っていそうだ。


 俺も王都に滞在し続ければ、この通りにある店には何かとお世話になるかもしれないし、どこに何があるかはちゃんとと調べた方が良いかもしれない。


「ま、時間はたくさんあるし、焦る必要はないさ。どこに何があるのかを調べるのも、この王都の楽しみ方の一つみたいだからな」

 

 そう言うと、俺は何だかお腹が減ってしまったので、道端にあった屋台で鳥の串焼きを買い、それを食べながら歩く。

 鳥の串焼きは安い割りには味の方は悪くなかった。暑い土地柄のせいか味もさっぱりしているし。

 屋台の串焼きでも唸らされるのは、やはりサンクリウム王国の王都か。これなら、他の食べ物も期待できそうだな。

 

「こいつは旨いな。値段も安いし、庶民の舌にも合っているような味つけだ。よし、次も買うことにしよう」


 俺は喉も渇いていたが、近くに水が飲めるような井戸はなかった。まあ、休憩できるような店の中に入るのは最初な目的を果たしてからだな。


 間違っても裸に近いくらい肌を露わにした女性たちが客引きをしている卑猥そうな店になんて入ってはいけない。

 異国の女性の滑らかな肌には気を付けるべきだと本にも書いてあったからな。

 女性への一時の興味と引き替えに全ての金を失い、せっかく辿り着いた王都で野垂れ死ぬわけにはいかない。


 もし、そうなったらあまりにも間抜けだ。


「都会の女性には気を付けないとな。まあ、俺のような子供じゃ、女性も相手にはしてくれないだろうけど」


 お金があれば話は別かもしれないが。

 

 そもそも、俺がこの王都に来たのはゲムヘナルの迷宮に挑戦するためだ。ゲムヘナルの迷宮は王都の地下にあり、最下層までは何と百階もあるという。


 その呆れるような深さを持つ迷宮が作られた目的は知らない。

 

 ただ、迷宮を作ったのは古代人だと言われている。古代人は高度な文明を誇っていたが、ある日、その姿を消した。

 言い伝えではこの世界、リバインニウムの創造神であるゼクスナートが引き起こした大洪水で滅ぼされたと言われている。

 

 その真偽は定かではないが。


「でも、この王都は古代人が生きていた時の名残を感じさせるんだよな。昔、行ったことがある古代の遺跡に通じるような雰囲気もあるし」


 だからこそ、町を歩いているだけでロマンを感じてしまうのかもしれない。

 

 ちなみに迷宮の至るところには魔界へと繋がる穴が開いていて、そこからモンスターが際限なく現れるらしいのだ。


 魔界の王、アルハザークが生みだしたモンスターたちが、どれほど凶悪なのかは、俺も知識としてしか知らない。


 ただ、迷宮に挑む冒険譚の本は俺もたくさん読んだし、実際に迷宮に潜った人間の話も聞いたので想像はできる。

 が、その想像を超えるモンスターと戦う勇気は今の俺にはない。

 

「今は無理でも順調にレベルを上げていけば良いだけさ。最後に勝つのはいつだって諦めることを知らない人間だからな」


 俺はまだまだ強くなる。

 

 なんて言ったって、俺は勇者とまで言われた爺さんを超えなきゃならないんだから。


 それには危険を恐れて、経験を積むのを躊躇っていては駄目だ。幾つもの死線を越えなければ本当の勇者にはなれない。


 とはいえ、蛮勇に身を任せれば得てして救いのない死が待っている。どこで勇気を出すかで勇者になれるかどうかが決まるのだ。


「爺さんを超えたいなんて大真面目に言ったら、俺を知っている奴らはきっと鼻で笑うだろうな」


 実際、俺は爺さんと比較され、笑われながら育ったのだ。


「でも、いつか笑えなくしてやる」


 俺は指の関節が鳴らしながら言った。

 

 とにかく、冒険者の大半は最下層を目指すのではなく、モンスターを狩るために迷宮に潜っていると聞いている。

 モンスターの肉は食料にもなるし、角や牙、革などは加工品として使われる。

 この地方で作られたモンスターの部位を材料とした工芸品は余所の地方でも売られていて、大変な人気があった。

 俺の家にもサンクリウム産のアクセサリーはある。アクセサリーに疎い俺でも良くできた代物だと言うことは分かった。

 

「ドレイクの牙で作られたアクセサリーは格好良かったよな。あれと同じくらい格好良いアクセサリーが売ってたら俺も買いたいぞ」

 

 残念ながら、今はアクセサリーなどにお金は使っていられないが。

 

 何にせよ、迷宮に現れるモンスターは王都に住む人々にとって、欠かせない資源となっているようなのだ。

 まあ、モンスターが王都の経済を大きく支えているのは間違いないだろう。

 それはまるで適度に供給するかのようにモンスターを迷宮に送り込んでいるという魔王アルハザークも分かっているはずだ。

 魔王アルハザークとこの国の王宮は裏で通じているのでは、と疑念を持つ者がいるのも当然だろう。

 

 ただ、少し前までこの国の王だった賢王ガナートスはその呼び方が表す通り、賢い王として知られていた。

 なので、裏で邪悪な魔王と結託していたとは思いたくないが。


「ま、爺さんもガナートス王の手腕は高く評価していたからな」


 俺は爺さんの話を思い出しながら言葉を続ける。


「なら、ガナートス王が誰を利用しようとこの国に不利益もたらすようなことはしないだろう」


 ちなみに、今のこのサンクリウム王国を治めているのは賢王ガナートスの息子、カルナックだ。

 でも、カルナックは賢王と呼ばれた父親とは違い才覚があまりなく、何ともパッとしない人物だと聞いている。

 

「何せよ、俺はいつか魔王アルハザークも打ち倒して見せる。その時こそ世界が、いや、あの爺さんが俺という人間を認める時だ」


 俺の一人言に、通行人が不可解なものでも見るような目を向けてきた。でも、気にする必要はない。

 この人混みの中で、取り留めのない一人言に興味を持つ奴もいないだろう。

 もし、いたら俺がどのような決意で、遙々、この王都にまでやって来たかを熱く語ってやっても良い。

 

 ちなみに、迷宮の中には宝もある。

 浅い階の宝は全て発見されてしまったらしいが、深い階にはまだ手つかずの宝が眠ってると聞いているからな。


 それを手に入れられれば一攫千金も夢じゃない。


 古代の魔法の力が込められた品なんて見つけたら、それだけで一年は遊んで暮らせるお金になる。

 

 世界中の冒険者がやって来るサンクリウム王国の王都が、このリバインニウムで最も華やかな都と言われるのも頷けるというものだ。

 

《プロローグ② 終了》





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