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第一章 迷宮の最下層にある学校⑦

 第一章 迷宮の最下層にある学校⑦


 モンスターに出会うことなく、無事に学院に戻ってきた俺たちは、武器を校舎裏にある鍛冶場に持って行く。


 石造りの無骨な建物になっている鍛冶場の炉は燃えていて、背の低いボルブというドワーフが槌で焼けたオレンジ色の鉄を叩いていた。

 鉄が叩かれる度に赤い火の粉が舞い散る。と、同時に鉄、特有の匂いも押し寄せてくる。

 そんな鍛冶場には熱を帯びた空気が充満していて、俺も汗が噴き出してきた。下手なところに触ると火傷してしまいそうだな。

 鋳型に流し込まれるドロドロに溶かされた鉄なんかを見ると、心まで熱く燃え盛りそうだったし。

 

 でも、その整然とした作業の工程を見るに、この鍛冶場ではそれなりに良い武器が作られていそうだった。

 

 一方、カイルは炭だらけの顔をしているボルブさんの傍に歩み寄ると、穂先の鋭さが失われ始めた槍を鍛錬し直してくれと頼む。

 ハンスも鏃の殺傷力を高められないか、ボルブさんと相談した。

 

 それから、その場にいた見習いのような生徒たちが、俺たちの持ち帰った武器を安値で買い取る。

 ハンスに渡されたお金を見た俺はもう少し高値で買い取ってくれても良いんじゃないかと言いたくなったけど。

 

 その後、俺たちは校舎の中に入って、食堂に向かう。俺が仲間に入ったお祝いをしたいとハンスが言ったのだ。

 

 俺たちは食堂に入ると、夕方という時間帯のせいか前よりも生徒たちが増えていた食堂に入った。

 

「遠慮せずに何でも好きな物を頼んでくれ。特にディン君は」


 ハンスは席に着くと気前良く言った。

 

「なら、ステーキを食べさせて貰おうかな。体を動かしたおかげで、良い感じにお腹が減ってるし、ここは肉が食べたい」


 何の肉かはハンスたちに聞けば分かるだろう。


「アタシもビッグボアのステーキが食べたい。もちろん、スパイスはたっぷりと使って貰うからね」


 チェルシーは元気良く言った。

 

「俺はステーキだけじゃなくて、厚切りパンと暴れバイソンの乳から作られたチーズも食わせて貰うぜ」


 カイルは運ばれてきた冷水をゴクゴクと喉に流し込みながら言った。


 食堂では乳製品も食べられるのか。そいつはありがたいし、俺も水ではなくミルクを飲ませて貰おうかな。

 

「私は仮設農園で取れたばかりの野菜を使ったサラダが食べようかな。健康を維持するためにも野菜成分の補給は欠かせないし」


 アリスは淡泊に言った。

 

 にしても農園まであるなんて凄いな。どんな野菜が育てられているのか、暇になったら見に行ってみよう。

 もし、熟れた赤いトマトなんてあったら、かぶり付きたいし。

 

 そんなことを考えていると、食堂の向こう側から、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「よっ、ディン」


 そう大きな声を上げて、飛んできたのは姿を消していたフィズだった。

 

「フィズじゃないか、今までどこに行ってたんだ」


 俺は憤然としながら言った。

 

「ちょっと用事があったんだ。でも、迷宮にはもう潜ってきたみたいだな。モンスターの血の匂いがするし」


 フィズは俺の前にフワリと着地すると、優美に羽を広げた。それから、小さい鼻をヒクヒクさせる。

 

「ああ。モンスターも思っていたより強くなかったし、ちゃんと戦えたよ。あの戦いぶりはお前にも見せたかったくらいだ」


 自信は付いた。

 

「それは良かった。でも、浅い階のモンスターに勝っても自慢にはならないぞ。せめてミノタウロスくらいは倒せるようにならなきゃな」


「そりゃ強敵だ」


 まあ、最初のボスはなんて言っても竜王ガンティアラスだからな。なら、ミノタウロスにも打ち勝って見せないと。

 

「だろう。ま、モンスターとの戦いに慣れたら、今度は冒険者ランクを上げることを意識してみろよ」


 冒険者ランクはまだ分からないことが多い。

 

 特にパーティーの冒険者ランクと、個人の冒険者ランクの違いが分かりにくい。ま、徐々に勉強していくさ。

 

「冒険者ランクが高くなれば、色々な面で優遇されるようになるからな。ちなみに力のない冒険者が一番、困るのは生活用品の確保だ」


「生活用品というと、石けんとかもあるのか?」


 不潔なのは嫌いだ。

 

 でも、旅している最中は風呂は入れないことも多い。もっとも、この学院には浴場もあると聞いているので、早めに入りたいけど。

 

「ああ。魔界の穴からやって来る行商人のホビットが週に何度か学院を訪れるからな」


 行商人が来てくれるのはありがたい。

 

「ホビットはただモンスターと戦ってるだけじゃ、調達できない品物を売ってくれるから重宝するぜ」


「そいつは良いな」


「だろう。エルフにドワーフにホビット、それに妖精は人間に対してあからさまな敵意はないから、迷宮の中で会っても殺してくれるなよ」


 かつては異種族たちも、地上で良く見られたという。

 だけど、勢力を伸ばそうとした人間たちに迫害され、今ではほとんどその姿が見られなくなった。

 

 でも、人間が暮らせないような瘴気に満ちていると言われている魔界でも、彼らは逞しく生き抜いていたみたいだな。

 そのバイタリティーはこんなところに飛ばされた俺も見習うべきかもしれない。

 

「分かった」


 不必要な殺しをするつもりはない。

 

「じゃあ、色々と教えてやったんだから、おいらにも何か食べさせてくれよ。ついでにジンジャーエールも飲みたい」


 結局、目当てはそれか。

 

「フィズに何か食べさせてあげても良いかな、ハンス。こいつには返しておきたい借りがあるし」


 俺の言葉にハンスは嫌な顔をしなかった。

 

「別に構わないよ。フィズが僕たちの食事にたかりに来るのは別に初めてのことじゃないからね」


 だと思ったよ。

 

 そもそも、ここにいるみんなの人の良さを知っていたからこそ、フィズも俺を【ラグドール】の部室に連れてきたんだろうし。

 

「でも、フィズ。君は学院の生徒にお世話になりっぱなしなんだから、ガンティアラスの弱点の一つでも見つけてきくれないか。同じドラゴンだろう?」


 ハンスの言葉にフィズは顔をしかめる。

 

「そんな無茶を言われても困る。ノコノコガンティアラスに近づいたら、たちまち灼熱の炎で黒焦げにされちまうよ」


 やっぱり、ガンティアラスは炎を吐けるみたいだな。

 

 炎を防ぐには、魔法のバリアを張って貰うしかない。でなければ、例え全身を鎧で包み込んでいても炎を防ぐことは叶わないはずだ。

 

「役に立たないな」


 ハンスはがっかりしたように言った。

 

「しょうがないだろ。とにかく、暴れバイソンの霜降りステーキを食べさせてくれよ。あのとろけるような肉の食感はたまらないんだ」


 フィズは舌なめずりをした。

 

「霜降りステーキを食べたいだなんて、図々しい野郎だな。お前みたいな奴をタダ飯食いって言うんだよ。自覚してんのか?」


 カイルがしかめ面で言った。

 

「さあな」


 フィズは惚けたような顔をした。

 

 その後、食事を終えた俺たちは部室棟にある【ラグドール】の部室に戻ってきた。

 

 すると、チェルシーは疲れたと言って、ベッドの一段目に横になり、カイルはまだお腹に余裕があるのか、棚の中に入っていたお菓子を取り出す。

 

 アリスは小さな焜炉でお湯を沸かすと、ポットで良い香りの漂う紅茶を入れた。

 

 ハンスは椅子に座って校内新聞なるものを読んでいる。

 

 フィズも姿を消すことなく、クッションの上で丸くなっていた。

 

 俺はというと、一人だけベッドがないのでハンスから寝袋を貸して貰う。

 

 ちなみに、学院には寮もある。

 が、寮の部屋を使える人間は限られているという。なので、部屋を使っているのは個人の冒険者ランクが高い生徒ばかりらしい。

 

 俺は血の付いた愛剣の刃を布で綺麗に拭きながら、どこの世界でも物を言うのは金と力かと厭世家を気取るように心の中で呟いた。

 それから、魔法の力で動いているという水時計が夜の十一時を指し示すと、みんな揃って就寝した。

 

 まあ、俺は女の子がいる部屋で寝るのには抵抗があったが、疲れていたせいかすぐに眠りに落ちてしまった。

 

 とにかく、こうして俺の初めての迷宮ライフが終わったのだった。

 

《第一章⑦ 終了 第二章に続く》


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