明日
わたしには、明日がきません…。
目の前の少女が言う。
重い病気でも患っているの?と聞いてみる。
彼女は、
そういうわけでは、ないのです。わたしには、今日しかないのです。
よくわからないけど、君が死んでしまうということなの?とほんとによくわからないので聞いてみる。いいえ、と彼女は首を横に振る。ますます混乱を極め、結局どういうことなのかと、聞いてみた。
わたしは、記憶がないのです。1日も、わたしが生きてきた記録が残っていません…。明日を切実に願って、徹夜をしても、来るのは今日だけ。明日が来ることが、ないのです…。
と、彼女は目を伏せて言うのだ。できることは、ある?聞いてみても首を振るだけ。
『最後に一つだけ、いい?』
なんですか?
『君は誰なの…?』
わたしは…なんなんでしょうね、それも分かりません。
『…そう。ほんとによくわからいんだけど、君はきっと、辛くない。それだけはわかるよ』
ほんとに?ほんとにそう思いますか?
『うん、思うよ。なんでかはわかんないんだけどね』
そう言って、笑いかけてみる。
なら、わたしはきっと大丈夫なのでしょう。あなたがそう思えるのなら、わたしは辛くないんですね…。
彼女はそう言うと、初めてこっちを見て、笑ってくれた。ああ、辛くないよ。きっと。
目を覚ます。さっきのはどうやら夢だったらしい。
『あれは…、そうか。わたしか』
今になって思えばあの子はわたしなのだな。
わたしはこのことを覚えていられないだろう。だってなにも覚えてないから。でも、うん。辛くない。辛くないよ。
わたしにはもう、明日は来なくなってしまったけど。
わたしはもう、死んでしまったけれど。