第8話 雛鳥になった涼
それから三時間目じゅう、正座をしながら説教をされたクラスメート達は。
三時間目が終わる鐘と共に立ち上がるが。
「痛っ! 痛い〜!」
「ちょっと〜、立てないよ〜」
三時間目じゅう、正座し続けた所為で。
全員、生まれたての子馬の様な状態になっていた。
まあ、自業自得であるのだが。
ちなみに、全員正座している間。
涼は、女性教師の隣で体育座りで座り、事の成り行きを見守っていた。
それから全員、フラつく足を引きずりながら、体育館を後にしたのであった。
*********
教室に戻り、四時間目が始まった。
しかし、涼を除く全員が、足の痛みの為か。
机に座ったまま、前かがみ気味になっている。
それは、涼を膝に乗せている亜美も例外では無かった。
亜美は、一、二時間目と違い。
膝に乗せている涼を抱き締めたまま、ジッとしていた。
どうやら、痛さを我慢している様だ。
痛むのは膝から下なので、辛うじて涼を乗せる事は出来るのだが。
ただ、地味に痛むので、涼を抱き締めて我慢しているのである。
そんな訳で、二人以外のクラスメート達は。
痛みを我慢するに一杯で、二人に意識を向ける暇は無く。
亜美も、チョッカイを出すような状態では無かった。
しかし、その間、涼は教室に入ってから。
始めて、落ち着いて過ごす事が出来たのだった。
*********
「(キ〜ンコ〜ン、カ〜ンコ〜ン)」
ようやく、四時間目が終わる鐘が鳴った。
「(ガタガタガタ)」
「早く行かないと〜! 席が無くなるよ〜!」
「あっ! 待ってよ〜!」
数人のクラスメートが、慌てて教室を飛び出した。
恐らく、学食で食事を取る生徒達であろうか。
流石に、もう足の痛みも引いたみたいだ。
「あ、僕も行かないと」
「あれっ? 涼くん、ドコ行くの?」
「僕も学食の方に、食べに行くの」
教室を飛び出した生徒を見た、涼が。
自分も教室を出ようとした所を、亜美に止められた。
涼は小学部の時は、給食が出ていたが。
高等部に飛び級したので、今まで通りにはいかなくなった為。
親から、学食で昼食を取るように言われていた。
そう言う訳で、学食に向かおうとしていた所であった。
「あれ、そうなの?
だったら、私と一緒にお弁当を食べない?」
「えっ?」
「だから、戻ろうよ〜」
「(ヒョイッ)」
亜美の誘いの言葉と共に、涼が背後から抱き抱えられ。
再び、一緒に机へ戻ったのである。
・・・
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん」
「(パクっ)」
「美味しい?」
「うん♪」
美味しそうに頷く、膝の上の涼を。
嬉しそうに微笑みながら、見ている亜美。
涼は、亜美に弁当を食べさせて貰っていた。
亜美は、昼は弁当派で、毎日、自分で作っていたのだ。
そして、その手作り弁当を、机に広げ。
箸でオカズを摘み、涼に食べさせていたのである。
その手作りオカズを、満足そう食べる涼を見て。
亜美も、嬉しくなる。
「お姉ちゃんの作る、ご飯。
いつも、美味しいねえ〜」
「うふふ、涼くん、ありがとうね♡」
涼の言葉に、亜美は微笑みながら、涼の頭を撫でていた。
亜美は昔から、涼の世話をしていたが。
その中には、涼の食事の世話もあった。
そうやって、自分の作ってた物を。
”美味しい、美味しい”と言って食べる涼を見て。
亜貴は、喜んで作っていたのである。
「ねえ、ねえ、涼くん。
今度、このオカズ食べない?」
「(パクっ)」
「美味しい?」
「うん♪」
「涼くん、ありがとう〜」
今度は前から、オカズが摘まれた箸が、涼の口元まで伸びると。
そのオカズを、涼がパクついた。
そして、涼の返事に満足した箸の持ち主が。
先ほどの亜美同様に、涼の頭を撫でた。
一緒に、弁当を食べているのは二人だけでは無かった。
二人の席の周囲には、弁当派の数人の生徒が椅子を持ってきて。
弁当を、一緒に食べていた。
しかも、ただ一緒に食べるだけでなく。
自分の弁当に入っているオカズを、涼に食べさせていたのであった。
「ねえ、涼くん。
嫌いな物って、あるの?」
「う〜ん、別に無いけど」
「良かった〜、じゃあ、これも食べてみてちょうだい」
そう言って、また別のクラスメートが涼に食べさせる。
こんな具合に、みんな涼に、食べさせているのであるが。
その様子は、あたかも、親鳥が雛に餌を食べさせているかの様であった。
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん」
「(パクっ)」
涼は、手を動かさず。
目の前に伸びたオカズに、大きく口を開けてパクついている。
その様子もまた、雛鳥の様に見える印象を強くしていた。
そうやって、涼は。
クラスメート達から、食べさせて貰っていたのであった。