第3話 初顔合わせ
雅は、涼と手を繋いで廊下を歩いている。
「もうチョットで着くからね」
「はい♪」
雅がそう言うと、涼が元気良く返事をした。
繋がれた、少年の手の感触を堪能しながら雅は。
喜びに浮かれそうになる心を、必死で抑えていた。
・・・
「今からホームルームをするから。
じゃあ、宮山くん、呼んだら入ってきて自己紹介してね」
「はい」
二人はある教室の入り口で立ち止まった。
入り口には、”1年A組”と立て札が立っている。
ここが雅の受け持ちのクラスであり。
また、今日から涼が、編入するクラスである。
「ここで、少し待っててね」
「はい、分かりました」
雅が教室の扉を開けながら、涼に待つように言い。
それに対して、涼もニコやかに返事をした。
こうして、まずは雅が、先に教室の中へと入った。
*********
「(ざわざわざわ・・・)」
雅が教室に入る。
教室の中は、落ち着きが無い様で、妙に騒がしかった。
「はい、はい、はい。
皆さ〜ん、静かに! 静かに!」
雅が、手を叩きながら。
大きめの声で静かにするように言う。
それと共に、教室の中が水を打った様に静まった。
「起立! 気を付け! 礼! 着席!」
そして、いつもの様に。
日直の号令に従い、朝礼が行われる。
朝礼が終わり全員が着席すると、また教室が静まり返った。
その静まり返った教室を、一度見回した後、雅が再び口を開く。
「皆さんも、恐らく気付いているかもしれませんが。
今日から、このクラスに新しく、編入生が入る事になりました」
雅の言葉を聞いて、全員が息を飲んだ。
「それじゃあ、入って来てちょうだい」
「(ガラッ)」
「しつれいしま〜す」
雅の合図と共に、扉が開き。
教室に、一人の人間が頭を下げつつ入ってきた。
その入ってきた人間は、小学生の男の子である。
その子を見ればサラサラの髪、パッチリとした瞳、全体的に整ったパーツが。
バランス良く配置された顔をしており。
一見すると、女の子の様に見えるが。
カッターシャツにネクタイ、チックのショートパンツ、黒いランドセルと言う。
小学部の男子生徒の制服を着ているので、男の子だと言うのが分かる。
そんな女顔の美少年が、教室に入ってきたのである。
その姿を見たクラス中の生徒全員が、一瞬息を飲んで固まった後。
「「「「「「「「「「キャーーーーーーッ! かわいーーーーーい!」」」」」」」」」」
歓声が爆発した。
その声の、余りの大きさに、涼は思わず手で耳を塞いだ。
「皆さん、静かに、静かにしなさいーーーー!」
それに対し、雅がその声に負けない大声で制止する。
雅の声で、声が小さくなったが。
それでも、教室のアチラコチラでヒソヒソ話が、まだ聞こえていた。
そんな状況でも、緊張の為か。
涼は、歓声が無かったかの様な足取りで、教壇に登り、黒板の前に立った。
「じゃあ宮山くん、自己紹介をお願いね」
「(カツ、カツカツ、カツ、カツ)」
「ぼ、僕は、宮山 涼と言います。
皆さん、どうかヨロシクお願いします・・・」
「(ペコリ)」
雅が促すと、涼が黒板に自分の名前を書き。
次に、たどたどしい言葉で自己紹介をしながら、ペコリと頭を下げた。
「ああ・・・、可愛いなあ・・・」
「ホント、可愛いよ〜」
「頭を撫でたいなあ・・・」
「頬ずりしたいよ〜」
「ああ、抱き締めてモフモフしたい」
その様子を見ていたクラスの女生徒達が。
余りの可愛さに、感嘆の言葉を洩らしたり。
あるいは、思わず欲望に塗れた発言をしていた。
しかし、当の本人は、緊張していて。
そんな自分に対する、欲望の声が耳に入っていなかったのである。