第2話 職員室にて
少年こと涼が、校門をくぐってから、校庭を通り。
玄関で下駄箱に靴を入れ、上履きに履き替える。
前もって、自分用の下駄箱を教えられていたので。
そこに靴を入れたのである。
「(ぽて、ぽて、ぽて・・・)」
そこから、廊下を歩いて、ひとまず職員室へと向かう。
「(チラチラ)」
「キャッ〜!」
通りかかった女生徒二人組が。
涼をチラチラ見た後、小さな声だが騒ぎ始める。
廊下を通る間じゅう涼は。
通りかかる生徒の、好奇心に溢れる生温かい視線と。
若干の、邪な欲望を含んだ視線に、晒されていた。
「はあ・・・」
だが、不安感に襲われていた涼は。
そんな視線にまで、注意を向ける余裕は無かった。
こうして、涼が周囲の視線を一身に集めながら。
職員室へと、廊下を歩いていたのだった。
*********
「(ガヤガヤガヤ)」
涼が、職員室に着いた。
扉が開いた出入り口から、色々な人の話し声が聞こえる。
「しつれいしま〜す〜」
「(ピタッ!)」
「(ガヤガヤガヤ)」
涼が出入り口で、緊張した面持ちになりながら、一旦、立ち止まり。
そこで、場違いな高くて幼い声を出しつつ、一礼をする。
すると、職員室の中が一瞬、静まるが。
全員が涼を一瞥すると、すぐに喧騒が戻った。
職員、全員が、涼の事は承知していたみたいである。
頭を下げていた涼が、顔を上げると、職員室の中に入った。
そうして、職員室の中に入り。
それから職員室にある、ある席の前まで歩いたら、そこで立ち止まった。
「先生、おはようございま〜す」
「あら、宮山くん、おはよう」
涼が、まだ緊張した表情のまま立ち止まり。
幼い声で挨拶すると、机の前で何かを書いていた女性が。
振り返り、少年に挨拶を返した。
振り返った女性は、髪をうなじで切り揃えた髪型で、眼鏡を掛けており。
服装は、グレーのレディーススーツに、黒のタイトスカートと言う。
如何にも、”女教師”と言った外見の女性であった。
その振り返った女性は、今度、涼が編入する教室の担任になる。
来山寺 雅である。
ちなみに、担当教科は世界史である。
「ちょっと待っててね、今片付けてるから」
そう言って、机に向き直した。
だか、机に向かった雅の目は、喜色に染まっていた。
実は、雅は涼の様な可愛い男の子が、好みであったのだ。
それだけでなく。
前にも”幼気無い少年を守るため”と言う。
明らかに、取って付けた様な理由で、涼に、何度か接触した事があった
このとき雅は、教師と言う立場を利用し。
防犯と称して、涼の手を握りながら、一緒に、歩いたりしていたのである。
そう言う訳で、涼は少しだけ雅とは面識があるのだ。
また数日前に、顔合わせに涼と会った時。
涼が、自分のクラスの生徒になる事を、校長から告げられると。
表面上は冷静さを装いながらも、内心では狂喜乱舞していたのであった。
それは仕事が終わり、自分のアパートに帰ると。
すぐさまベッドへと駆け込みダイブし、クッションに抱き付いて転がりまくったり。
喜びの余り奇声を発したりと言った。
近所迷惑な奇行を、延々(えんえん)と繰り返していた事からも分かる。
「(あ、イケナイ、イケナイ、よだれが出ている)」
雅が、その時の事を思い出していたら、思わず顔が緩んでいるのに気付き。
気合を入れて、顔を引き締めなおした。
そうして、自分の顔を撫で回し、引き締まっているのを確認したら。
振り返り、涼に向き直した。
「ほら、ほら、そんなに緊張しないの」
「(なでなで)」
余りにも、緊張していた少年を見かねた雅が。
涼の頭を撫でたのである。
「(きゃ〜! 気持ち良い!)」
雅は、涼の髪の感触の良さに感動の余り。
心の中で、絶叫していた。
それから、涼を見てみると。
涼の方は、撫でられる感触に目を細めていた。
そうやって、気持ち良さそうな涼の顔を見ながら。
思わず抱き締めて、頬ずりしたくなる様な衝動を。
必死で抑えていた雅であった。
*********
「さあ、行きましょうか」
「はい」
しばらくの間、涼の頭を撫でていた雅が。
微笑みながらそう言うと、涼がニコやかに返事を返した。
雅が、涼の雅を信頼したような笑顔に、内心、身震いしながら喜んでいたけど。
努めて平静を装っていた。
それから雅が、涼の小さな手を握り、一緒に職員室を出た。
涼の小さく柔らかい手に、緩みそうになる顔を必死になって抑えつつ。
二人で手を繋いで、一緒に教室へと向かった。