◇螺旋階段のその上。
キーワード:階段・歌声
螺旋階段、響く歌声。
これはいったい誰の音?
午後五時。
夕焼け色に染まる螺旋階段に歌の雨が降り注ぐ。
声の主は分からない。
分からないからこその魅力と、知りたいという興味。
僕は後者を選んでしまった。
降ってくるのなら、単純に上に居ればいい。そんな簡単に出会えるのならもうとっくに正体が明かされているはずだ。
午後五時。
時は充ちた。
その正体を暴くべく僕は螺旋階段がギリギリ見える位置で様子をうかがっていた。
名前も知らないきれいな歌を今日も響かせる、正体不明の誰か。
今日こそはその顔を拝んでやる!
そう思っていたのに、姿がない。
声はするというのにどこにも居ないのだ。
下から響いているわけではない、絶対に上からだ。
僕は音の在処を探る。神経を研ぎ澄まし小さな音も聞きもらさないようにと気を張った。
でも、それでも、上からなのだ。
ここは最上階。
屋上なんてものはこの建物にはない。
なのに上から響くこの歌声の正体は……?
背中がぶるりと震えた。
信じてはいない。
あんな非科学的なものは、信じる価値すらないはずだ。
なのにどうしてだろう?
僕はどうしても後ろを振り向くことが出来ないのだ。
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