私は要らない子
やっと一人きりになった姫は、ほぅっと溜息をついた。
何やら肩の荷が降りたような気がして、ベッドに倒れこんだ。
「これからは、一人なのね……」
と呟き、目を閉じる。
いや、よくよく考えてみたら自分は城に居た時も一人きりだったではないか。
母親は自分の顔を見ると、畏怖と侮蔑の眼差しを向けるし、父親に至っては式典などの国の行事でくらいしか顔合わせをしなかった。
学校も行かせてもらえずに、専属家庭教師を何人も雇って学問を習った。
物心ついた時にはもはや大きな一人部屋を与えられて、小さな姫はそれを持て余していた。
両親のベットルームからも遠く、添い寝をしてもらった記憶が無い。
周りの文官や大臣や乳母、メイド達はこぞって自分のことを"才色兼備"だとか"聡明で立派な姫様"などと褒めそやしていたのだが、それは愛情ではない。
では無償の愛を与えてくれるはずの両親にとって、自分は愛されるべき子供であったのだろうか。
誰か、自分の事を愛してくれた人がいたのだろうか。
いや、自分はいつも"お世継ぎ"や"皇女"としてしか見られていなかった。
だが、貧困などの問題が山積みになっているこの国で、女が皇太子として立つのは内乱のきっかけになり兼ねない。
不安要素を増やすだけであった。
その点、伯父上の子供はまだ幼いが嫡男であり、また王族直系も存続出来るのだ。
私なぞ必要ないから、成人の儀の前に捨てた、それだけだ。
そう頭の中で理解するように反芻しては、痛む心に蓋をして言い聞かせる。
閉じた目からは雫が零れることもなく、ただただ無表情の姫がいた。
「"白雪姫"か……。
見た目の象徴ではなく、心が雪のように冷え切った、愛情すら知らない人間だと言われているみたいね」
国民から親しまれている愛称が皮肉に聞こえ、ぼやきには自嘲が混じっていた。