白雪姫の独り立ち
40代くらいの男と10代半ばの女の子が、街の外れの人通りの無いような道を歩いている。
「姫様、本当に宜しいのでございますか?」
男が少女に心配そうに尋ねる。
一方少女の方は不安など微塵も感じていないような立ち振る舞いだ。
「大丈夫です。
一度、外の世界に出てみたかったのですから」
女の子は華やかな服装ではないものの、高貴な雰囲気を纏っており、まるで散歩に来たかのように楽しそうだ。
「ですが、姫様。
この通り、人が滅多に来ませんぞ。
心細いのではありませんか?」
「ひとりぼっちなのは、城でも同じこと。
寧ろ、ここの方が鳥やリスなど動物や草花と触れ合えて、私には合っている気がします」
「ですが、しかし……」
尚も食い下がろうとしない男に、少女は振り返り立ち止まった。
「お世継ぎが私しかいないので、その私に万が一の事があったら……と、この国の将来を案じるのは確かです。
しかし、この国は何かがおかしいのです。
貴方も薄々は気づいているのでは?
そして、それは城に引きこもっていては知る事が出来ない。
私は、この国が、民が好きなのです。
ですから、これはチャンスなのです」
先程までのおっとりした雰囲気を全く感じない、それは皇女の顔だった。
付き人の男は、この国の将来ではなく彼女自身を心配したのだが、彼女にとっては国民の方が大切なようであった。
「では、月に一度、必ずやお伺い致します。
10歳になる娘は、知っての通り姫様のことを"白雪姫"と愛称で呼んでいて、とても憧れているのです。
恐れ多い事ですが、宜しければ妻や娘も連れて参りますので」
と、渋々ながら彼なりの精一杯の譲歩を提案すれば、
「まぁ!貴方の奥様や娘さんにも会えるのねっ!
それは嬉しいわ、楽しみに待っています」
とにっこり笑って快諾した。
脇道から少し森の中に入った所に、人1人が住めるような小さな小屋があった。
長らく人が住んでいないようであったが、掃除をすればそれなりに使えそうなものが揃っている。
小屋の裏には小川が流れていて、とりあえず生活はできそうだった。
「いきなりだったもので、ベッドのマットや掛け布団しか準備出来ませんでしたが……」
と、申し訳なさそうに男は言う。
「充分です、ありがとう。
ほら、貴方がずっと不在だと、私が居ないと気づかれた時に真っ先に疑われてしまうわ。
私なら、何とかやっていきます。
ですので、早く帰りなさい」
と姫に言われると、男は城に戻らざるを得ない。
後ろ髪を引かれる思いで、やっと帰って行った。