私の子
白雪姫とは、ディクタートゥア帝国に生まれた第一皇女である。
濡れたような漆黒の髪、雪みたいな白い肌、そして果実の如く艶やかな唇は、赤ん坊のころから、大層美しい姫になるであろうと皆確信していた。
……そう、それは彼女の母親も相当な美しさであったために、容姿の麗しさは約束されたも同然であったのだ。
時は遡り、白雪姫が生まれた際に、それはそれは不思議な事が起こった。
産まれたての姫は産声をあげる事なく、静かにぬるま湯で身を清められた。
目も開ける事もなく、泣き声もあげない赤ん坊に、助産師や女官達は大変慌てて王妃の元へ向かった。
「王妃様、大変でございます!
姫様が、何も…何も反応してくれず未だ産声すらあげておりません!!
どうしたら……」
と、半泣きになっている女官に王妃は頷いた。
王妃といえば、まだ出産した直後なので寝台で横になっていて、
「姫を、こちらに」
とだけ告げると、こちらもまた静かに目を閉じた。
冷静さを取り戻しつつあった助産師の婆が姫を抱いて王妃の横についた。
「王妃様、こちらが姫君でございますよ」
そっと囁くように王妃に申し上げれば、彼女は怠そうな身体を僅かに持ち上げて、赤子を見遣った。
「あぁ、この子が、私の子……!!」
ゆっくりと手を伸ばし、王妃の指が赤ん坊の頬を撫でる。
黒髪に白い肌、産まれたてではあるが、顔の作りも王妃にそっくりであった。
「私の子なんだわ……」
と呟くと、まるで王妃の言葉に反応するように、まだ産声すら出さない赤ん坊は目を開けて、無邪気に笑ったのだ!
その目を見て、王妃は驚愕する。
ーーーその目は黒目の彼女とは似てもにつかない、あの忌々しき王の碧い目だった。