鏡よ、鏡
「鏡よ、鏡。
この世で一番美しい者は、誰と申す?」
薄暗い部屋の中、女が一人、鏡に向かって独り言のように問うた。
「お妃様、貴女様は大変美しい。
ですが、この世で一番美しい者は白雪姫でございます」
鏡の丁寧な答を聞いた王妃は血相を変えて詰め寄る。
「っ⁉そなたっ!!今、何と申した!」
「はい、お妃様。
私めは、この世で一番美しい者は白雪姫だと…」
「もうよいわっ!少々黙っておれ!!」
苦々し気に遮ると、女は濃紺のドレスを翻し、粗暴な歩き方で窓辺に寄る。
(何故、シュニーはまだこの地に居る?)
視線を遠くに遣り、意識を集中させる。
自分の家来に、白雪姫を城から連れ出し"魔女の森"と呼ばれる所へ行くようにと命令した筈なのに。
“エーデルワイスよ、何処に?”
呟くように唱えると、だんだんと白雪姫の気配を感知してくるものの、彼女の消息は遠からず近からずで曖昧だ。
(城下町に紛れているというのか?)
だとしたら、それはマズい。
白雪姫のような美しい娘は、いくら王都とはいえ、すぐに噂になるだろう。
そして、姫は城に返還され、自分は"彼"により一層強く拘束されるのが手に取るように分かる。
そうなれば、自分はともかく姫は……
(なんとかして、姫を国から追い出さねばならない)
彼女は家々の小さな灯りが点々としている街に目を向け、小さく溜息をついた。
現地語で白雪姫をシュニーヴァイスヒェンと言うそうです。