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第2章 恋の盛り その5

これは、昭和も終わりの頃の、


ある男女の話である。


その5

 

あと1時間ぐらいで夜も明けようとする頃になって、


高崎は目をさました。


恭子は静かな顔で彼の方を向いて眠っていた。


それを見て、彼は彼女の唇に自分のそれを、そっと押しつけた。


すると彼女はきらきらと光る目を大きく開けて彼に微笑みかけた。


そこで彼は昨夜は別々に風呂に入ったことに気がついて、


今回の旅では彼女と一緒に風呂に入りたい


と考えたことを思い出したのである。


そして今なら誰もいないからと彼女を露天風呂に誘った。


彼女はすぐに頷いた。

  



二人が風呂場に着いたころは、まだ夜の暗さは残り、誰もいなかった。


目の前に笛吹川の水面があまり明るくない宿の明りに照らされていた。


彼は先に浴槽に入り彼女を待っていた。


後から浴槽に入ってきた彼女はタオル一枚で前を隠すと、


恥ずかしそうにほほ笑んで、向こうを向いた。


「どうしたの」と彼が聞くと、


「恥ずかしいのです」と小声で答えて、


彼の方を向こうとしなかった。


彼は彼女の手を引いて顔をこちらに向かせて唇を重ねた。


露店風呂の二人の影が重なったときには


川のせせらぎの音がまた大きくなったのであった。




部屋に帰ってから、高崎は恭子に向って言った。


「寒くて悪いんだけどね。君の体をしっかり記憶しておきたいから、


立って見せてくれないか」


彼女は今度は躊躇なく、


浴衣を脱いだ生まれたままの姿で彼の前に立った。


ようやく空があかるくなり、その薄暗い部屋の中に


彼女の姿が浮かび上がったのをみると、


彼は彼女の腰を抱きしめて言った。


「これで君は本当に僕のものになってくれたね」


そして二人は再び体を一つにしたあと、


渓流の川音だけが聞こえてくるなかに、


また眠りに落ちるのであった。



 翌日の朝彼女は眼を覚ますといきなり彼に


「二人の浴衣姿の写真をとっておきたいのですけど」


とねだった。


彼女はどうしてもこの旅のしるしを残しておきたかったのである。


彼は写真を残すことにためらいを感じていたが、


結局は彼女の強い願いに負けて


部屋の中で、二人は写真をとったのである。




旅館を出ると外は初冬の寒さに支配されていた。


二人は今日が日曜のであることを思い出して


誰か知人に会うことを恐れるように


ほとんど観光客の少ない渓谷の奥に向かってさまよい歩き続けた。


そして午後になり歩き疲れると、


他に乗客のいない帰りのバスに乗ったが、


いつしか彼は彼女の膝の上で眠ってしまった。


彼女は彼の寝顔をみて幸せな気持ちが満ちてきたが、


しかし同時に


これから先の行く末に対する不安を感じていた。


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