表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

第2章 恋の盛り その4

これは、昭和も終わりの頃の、


ある男女の話である。



話が途切れた気まずさを誤魔化すように


恭子が鏡の前に行き、身づくろいを始めた時、


高崎は後ろから彼女を抱きしめた。


彼女の顔はいっそうこわばっていた。


彼は彼女の手を引いて布団に寝かせた。


そして彼女の浴衣の前を開くと、


彼女は下着を厳重に身につけていた。


彼がやや乱暴にそれらをはがそうとすると、


「やさしくしてください。」と泣くような声を、


こわばった顔で彼女が言った。



言うまでもなく彼女の心はすでに彼を受け入れていた。


しかし彼女の体はその気持ちとは裏腹に


最後の抵抗を試みていた。


しかしそれは、


彼に対する拒絶を意味するものではなかったのだ。


彼女にとり、彼は初めての男であった。


だから彼女の体は、容易に開こうとしなかったのである。


彼のほうもふだんあまり飲めない酒を飲み過ぎたせいか


妻に職場旅行だと嘘をついてここに来て


妻を初めて裏切る罪悪感に襲われて、


彼自身が機能しなかったのである。


彼が必死になればなるほど


二人ともそれ以上は進むこともできなくなったのであった。




しばらくの時間が経った。


高崎は、恭子の裸の背中に腕を回して言った。


「今日は、こうして一晩中、話していよう」


彼はいつか彼女に聞いてもらいたいと思っていた将来に対する夢を


語り始めた。


その話は彼女がかねてから彼に聞きたいと思っていた話であった。


彼女はなぜかほっとしていた。


ひとつ布団のなかで、


ほとんど彼の胸に顔をつけて聴いていた。


彼女は心に幸せな気持ちが満ちてくるのを感じた。


一時間も経った頃、彼の話しが一区切りついた。


二人はお互いの顔を見つめあった。


それまでこわばっていた彼女の顔が自然にほころんでいた。


彼女もまた彼の優しい笑顔を見て心が溶けて行くような気もちになっていた。


その時、彼自身が機能しはじめ、


同時に彼女の体も徐々に開き始めた。


これまで開かれたことのなかった彼女の扉をするっと通り抜けたのである。


なおも彼自身は突き進んでいった。


そして彼自身は、ついに彼女の奥に到達することが出来たのである。


彼女は彼のものを奥深く受け入れたことを感じていた。


すると彼女は彼に対する愛が、


体中に満ち溢れるような幸せを感じたのだった。


そして二人はこれまで聞こえなかったはずの


旅館の前を流れる川のせせらぎの音が、


かなりの大きさで聞こえていることに、


初めて気がついたのである。


その音を聞きながら、


二人は静かな眠りに落ちた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ