第2章 恋の盛り その2
これは、昭和も終わりの頃の、
ある男女の話である。
結局そのときは、旅行の話は決まらなかったのであり、
二人の間では、中途半端な状態になったのである。
恭子としては、今すぐに高崎と一線を超える決心がつかなかった。
彼女はかつてもそうであった。
大学時代に恋愛関係になった男はいた。
そんなとき友人仲間では関係をもつのが普通であった。
その男は関係が持てないなら別れるとまで言ったのだが
その執拗とも言える男の懇願を
どうしても受け入れることが出来ないでいたことがあったのだ。
彼女は衝動的に関係することに強い抵抗を持っていた。
振り返ってみればその男をそれほど愛していなかったのだと
恭子は今になって思うのであった。
しかし、今の高崎に対しては、
はっきりと愛していると感じていたし、
彼がそんなに求めるのならすぐにでも許してもいいとも思えるのであるが、
やはり、二人の関係は社会的に許されないものであり、
ぬきさしならないところにまで踏み出す覚悟を、
まだ彼女は持つことが出来なかったのである。
また、それと同時に彼は自分とそうなったら、
自分に対する興味は薄れて、
彼から離れていくのではないかという不安もあった。
彼女は、男との初めての時に、
そのように考える種類の女でもあったのだ。
その夜、彼女は彼と旅館にいる夢を見た。
そして、夢のなかで、
自分の身体の奥に彼のぬくもりをはっきりと感じたのであった。
朝になり下着は濡れていたが
彼女はこれまでにない幸せな気持ちになっていた。
そして今度言われたらすぐ承知しようと考えた。
しかし数日たっても高崎は旅行の話をいっさい言わなくなった。
今度は恭子が、
「自分が承知しないので彼の気持ちが離れていくのではないか」
と不安を覚えるようになってしまっていた。
そしてとうとう、彼女は自分の方からこう言ったのである。
「あなたが旅行の話をしてくれたとき、
その晩に私は二人で旅館に泊まって
貴方が浴衣姿でいる夢をみました。
私も浴衣を着ていました。
私は最愛の人に巡り合えたと思いました。
どうか私を貴方の好きなところへ連れて行って下さい。」
ここで、ひと月後となる
12月の最初の土曜日に旅行の約束が成立したのであるが、
恋をする男女の気持ちは不思議なもので
そうなると今度は、それを待てない気持ちになってしまうものである。
特に男の場合はそうである。
そして次の逢瀬の時になると、
彼は、これまでより、はっきりと恭子の体を求めるようになり、
キスをするたびに彼女のその部分に手を伸ばそうとしたが
彼女はそれは旅行まで待って欲しいと必死に懇願するのだった。
しかし二人はそんなことの応酬を2,3日繰り返していたが、
結局、彼は彼女にそのことを承諾させてしまったのである。
初めて結ばれようという旅行の約束ができたばかりというのに、
彼はその週末の夜に、
横浜の港にある有名なホテルのツインルームの予約を
取ったのである。




