第2章 恋の盛り その1
これは、昭和も終わりの頃の、
ある男女の話である。
10月になって、二人は土曜日にも逢うようになっていった。
二人が行ったのは、横浜の港であった。
明るい陽射は、恭子の若々しく、
あどけなく可愛らしい顔立ちを、
一層いきいきと活発にさせていた。
高崎はそれを眩しく感じるとともに、
急に自分の年齢を考え、
明るいところに急に引き出されてうろたえている虫のように
まわりを気にして、
場違いな落ち着かない気持ちになっていた。
しかし、彼女の方は、
いつものスーツ姿でない彼に、
新鮮さを感じていたし、
はしゃぐ気持ちを抑えられないでいた。
彼女は観覧車に乗ることを強くねだったが、
彼は、若い者同士で乗っている光景を見て、
自分と彼女の年齢差を考えると、
躊躇を感じないわけにはいかなかったのである。
彼女の執拗な要求に応えて、
二人がゴンドラに乗ったのは、
すっかり夜になっていた時刻であった。
高崎がしぶしぶではあるが、
自分の要求をきいてくれたことで、
恭子はやさしい気持ちになっていた。
やがてゴンドラが一番上に近づいたころに、
にっこりと彼に微笑みかけて
「言うことをきいてくれたから、ご褒美をあげる」
といって彼の口元に自分のそれを近づけた。
彼は彼女の肩を抱き寄せると、
着衣の上からではあったが、
初めて彼女の胸を愛撫したのである。
そして彼は、
今日中に、どうしても言おうと準備していた言葉を、
彼女の耳元でささやいた。
「今度の休みにどこか静かな温泉にでも旅行に行こう」
「え?そんなにすぐにですか・・・」
と驚きと喜びが交差する表情で、
承知か不承知か分からない答えをしたが、
すぐに顔を赤らめて小さい声で言った。
「私、初めてなんです」
彼は、驚きで少し言葉を失った。
いまどきの若い娘としては、
23歳にもなっていれば、
当然にセックスの体験はあるものと思っていたのだ。
そして、「この娘の初めての男に、
自分はなっていいのだろうか」という思いが、
頭の中を支配して、
これ以上は、彼女に要求できない気持ちになったのである。
彼女の方といえば
こんなに好きなのだから抱かれてもいいと感じていたが、
今すぐにそれを言うことに抵抗を感じていた。
二人の会話はそこで途絶えしまって、
二人はゴンドラの外をみた。
それは夜の海の上に、ひときわ大きな花火が開いた瞬間であった。




