表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

第4章 恋の終わり その5

これは、昭和も終わりの頃の、


ある男女の話である。




しかし、高崎は別れを心から納得したわけではなかったのである。


彼は家に居ても、


職場に居ても空いた時間になると


恭子ともう一度やり直すことは出来ないのか、


もう一度話し合いことは出来ないのかと


何度も考えるのであった。


そして彼女の退社時間に待ち伏せをしようかと思いつめたり、


彼女の職場に電話しようか迷ったりしたが、


結局はそれも出来ず苦しみ、


眠れぬ夜が続くようになり、


神経科にも通い始めたのである。



彼が、神経科の医師に恥を忍んで現在の苦しみを訴えると、


彼と同年輩の女性の医師は言ったのである。


「あなたのような年齢での失恋は


若い時よりダメージが大きいのです。


だから心の傷が癒えるのに時間がかかることを覚悟して下さい。


しかしあなたは、傷ついて苦しんでいると言われるけれど


同時に、とても満足している顔をしていますよ。


苦しいこともあったけれど、


楽しいこともたくさんあったのではないですか?」



はたして、医師のいうとおり、彼の心の傷が癒えるためには、


彼が想像していたよりもはるかに長い時間を要したのである。


しかし彼はこれまでまわりから怖いもの知らずのやり手


と言われていて、


他人の思惑など歯牙にもかけない男であったのであるが、


この後は、他人の気持ちを深く理解することが出来る


優しい男と言われるようになっていくのである。



ところで、彼女のほうは、


実は少し嘘をついていた。


交際の申し込みを受けていたのは、


前に付き合っていた男ではなく、彼も知っている


彼女と同期の若い男からであった。


その男は前から彼女に好意を持っていて、


彼女が男と別れたらしいとの噂を知り、


彼女に声をかけたのだった。


それから彼女は、その男と付き合うようになった。


二人が別れて1年たったとき、


彼女が結婚したことを彼は社内報で知ったのである。


そのころ彼は妻との関係は穏やかなものになっていた。


しかし彼が妻を抱くことは二度となかったし、


妻のほうも求めることはなかったのである。


それでも妻は、前と同じに、


いや以前より彼に対してずっとやさしくなっていた。


そして職場においても彼は円満な男と言われるようになった。


そのことが仕事に良い影響を与えないわけはないのである。


しだいに彼は周りの信頼を取り戻し、


仕事も順調に進むようになり、


同期の誰よりも昇進のスピードも増すことになった。


誰から見ても彼は順調な人生を歩む幸福な男になったのである。


しかし彼の心の奥底に潜んでいる傷痕は、


そう簡単に癒えることはなかった。


大きな仕事が一段落したときなど、


心に隙間が生じたときなどに


たまらない寂しさに襲われるのであった。


その寂しさはその後20年近くも続いたのであるが、


それが彼の得た「幸福」の代償であった。


彼女の方はといえば、その後二人のこどもにも恵まれ、


夫となった男の地位も上がり、


幸せな家庭を築いたと言えたであろう。


しかし、彼女が、40歳代の半ばにさしかかったころ、


夫に女がいることを知った。


今度は自分が若い女に脅かされることになったのである。


夫との別れ話が持ち上がったときに、彼女は思うのであった。


あのとき、あのように彼と別れるしかなかったのだろうか。


彼と別れてすぐ今の夫と結婚したのは、


自分の気持ちを偽ったのではないだろうか。


そして、そのころの彼との出来事が、


自分にも分らないような感情を伴って思い起こされるのだった。


それは、心のどこかにぽっかりと大きな穴が空いたような、


取り返し付かない罪をしてしまったような


どうしようもない苦痛であった。


それが彼女の「幸福」の代償であった。


完 


これで「小説」は終わりです。

こんなお粗末な作品を、

最後まで読んでくださってありがとうございました。


これは現代の話ではなく

昭和も終わろうとしていた時期の話ですから

そのころは携帯電話もなければ

パソコンでメールを送るなんてことは出来ませんでした。

したがってその頃の恋人たちが連絡を取るためには

電話をするというのが一般的であったと思います。


しかし電話をするのがままならないことがあります。

特にこの小説のような不倫の恋ということになれば

相手の家に電話することはなかなか出来ません。

当時はやっていた歌謡曲に

「ダイヤルまわして手を止めた・・・(曲名「恋に落ちて」?)」

というのがありましたが

まさにそんな風景ですね。


したがって駅の掲示板に書くとか

当時の不倫の恋人はいろいろ工夫したものです。

この小説の主人公は文章を書くのが好きで

交換日記というものでお互いの気持ちを伝え合っています。

今はサイトとかメールとか携帯とかいろいろあって

不倫しやすい?時代になりました。

便利になったものです。


でも交換日記のような手書きの文字を書き、

相手の文章を読むといった情緒は

もう求めようにありません。


不倫という言葉も

日常茶飯事的なことのような軽い意味に

使われるようになってしまったようです。

そのうち不倫という言葉自体も死語になるかも知れません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ