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第4章 恋の終わり その4

これは、昭和も終わりの頃の、


ある男女の話である。


その旅行も終わりになり、


次が終点の駅というときになって、


高崎は言った。


「今度はどこに旅行しようか」


すると恭子はこう言ったのである。


「あなたとの旅行が一番楽しかった。


でもこれでお終いでしょう・・・


私、旅行から帰ったら、もう会いませんから。


もう、私の部屋には来ないで下さい。


というより私あなたには言わなかったけれど来週には引っ越します。


引っ越し先は教えたくありません。


あなたが奥さんを説得できないのは


最初から分かっていました。


だからあの時すでに私はあなたにさよならしていました。


もう私はひとりで大丈夫です。


あなたなしでも生きていける気持ちになりました。」


しかし彼の方は、


このとき彼女と別れる心の準備は出来ていなかった。


そして彼は、恥も外聞もない気持ちになり、


別れの期限をあとふた月、


いやひと月でもいいから伸ばしてくれと懇願するのだった。




それはかって、高崎が恭子の前ではけっして見せたことのない姿であった。


彼女がかってあれほど尊敬していた男の姿は


どこにもなかったのである。


彼女は彼のふるまいがすべて疎ましく感じ始めている気持ちを、


どうすることも出来なくなっていた。


彼女は首を縦には振らなかった。


それだけでなく、


彼に対してとどめを刺そうという残忍とも言える気持ちが


心の底から湧きあがるのを抑えることが


出来なくなっていたのである。



そしてさらに彼女は言った。


「実は、学生時代に少しだけ付き合っていた人と最近会いました。


その人から結婚を前提に付き合ってもらいたいと言われました。


まだ結婚については返事はしていないけど、


嫌いで別れた人ではないので、


付き合えばたぶん好きになると思います・・・


あなたのことは、もう男の人としては好きにはなれません。」


彼が何も答えられずにいるとさらに彼女はさらに


「そうだ貴方に撮ってもらった写真はみんな焼き捨てますね。


あなたもネガを焼き捨ててくれませんか?」


と最後は笑みをたたえて言ったのである。


この彼女の最後の言葉は、


彼の心に見事に致命傷を与えるものであった。


そして彼女が別れる準備を2月前からしていたことを、


ここにいたってようやく彼は身にしみて知ったのである。


そして彼は彼女の部屋の鍵を返して、


二度と会わないとの約束をさせられたのであった。


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