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第4章 恋の終わり その3

これは、昭和も終わりの頃の、


ある男女の話である。



ある夜、高崎はいつものように彼女のアパートを訪れたが、


恭子が遅くなっても帰ってこない日があった。


翌日彼が問いただすと、


彼女は異様に目の据わった顔で言った。


「どうしても奥さんの顔を見たくなって、


昨日はあなたの家の方まで行ったの。


もう、どっちを取るかはっきりして。


私をとらないのだったら、すぐに別れて。」


彼女の顔はもはや1年前とは、すっかり変っていた。


それまでのあどけなく可愛らしい顔立ちはどこにもなく


頬の肉が落ち、目に険が目立つようになっていた。


彼はついに彼女に切り出した。


「妻と別れて君と結婚するようにやってみる。


ふた月時間が欲しい。それまで妻を説得できなかったら、


別れることにしよう。


そしてふた月後に旅行しないか。


二人の新しい始まりにしたい。


でも万が一妻を説得できなければお別れ旅行にしよう」


彼女は黙ってそれを聞いていた。


そして言った。


「分かりました。もう私から結婚を迫ったり、


それが出来ないなら、すぐに別れてくれなどと言いません。」


それを聞いて彼はこれでしばらくは言い争いをしなくてすむと


密かに安堵していた。


しかしそれは彼の思い違いであることを後で知ることになるのである。





その日から恭子は高崎と会っている時でも、


一人黙って考えている時間が多くなった。


そしてこれまで以上に、彼を求めるようになり、


「毎日にでも抱いて欲しいのです。」


と彼に言うのであった。


二人の間には平和な時間が戻ってきたように思えた。



ふた月経った。


約束どおり、7月の末、二人は群馬の温泉に一泊した。


高崎は恭子に、妻を説得できなかったことをまだ言っていなかった。


しかし彼女はそれを感じていた。


最初から最後の旅になるという感じで二人は旅をした。


出かけた群馬の宿は古くからの湯治宿であった。


泊まる客も少ない寂しい宿であった。


食事をして休む時になっても彼は彼女を抱くことが出来なかった。




彼は、朝方に彼女を抱いた。


抱きながら、これが最後だと思っていた。


彼女もそれを感じていた。


彼女の体は喜びの声をあげたが、


頭の中は冷静さを保っていた。



体を合わせた後に、


早朝で誰もいない二人は大きな風呂場に向かったが、


もはや彼女の恥じらう姿はどこにもなかった。


そして彼が風呂場でも抱こうとすると、


「今はそういう気持ちになれません」


と彼に背を見せたのである。


彼は恭子の背中を見ながらそれ以上何も言うことが出来なかった。


それからの二人はほとんど口を開かず旅を続けたのである。


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