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第4章 恋の終わり その2

これは、昭和も終わりの頃の、


ある男女の話である。



高崎はうろたえた。


そして彼は、それがそんな簡単なことではないことを、


恭子に分からせようと、


その晩の妻との話をしたのである。


すると彼女は雷に打たれたような顔になり、


「私が身を引きます。あなたはすぐ帰って下さい。


もう別れて下さい。」


と言って泣きだしたのである。


その日、彼女はなかなか泣き止まなかった。


彼はもてあました。


その場を早く切り抜けたかった。


そして言った。


「必ず君と結婚するから、


もう少し時間をくれないか」


すると彼女は、急に険しい顔になり、


「いつまでに結婚するか期限を決めて下さい。


もしそれができないのなら、すぐ私と別れて下さい。」


と言ったのである。




その頃になると、毎晩のように、


彼女と「妻と別れるか、自分たちが別れるか」


という際限のない諍いが繰り返されるようになった。


もはやそこには愛のやすらぎはなく、


肌を合わせても、


相手を貪る度合いは激しさを増していたが、


二人が、これまでに感じてきた心と体が一体となったような喜びは


もはや遠いものになっていったのである。



彼が彼女のアパートを訪れるようになってひと月ほどたった。


これまで二人の関係が他人に知れなかったのは


社外で会うことに細心の注意を使っていたからであるが、


あるとき前の勤め先すなわち彼女のいる職場にも


何回か出かける用事があった。


そのとき二人は否応なく顔を合わせることになったのであるが、


そのとき冷静を装うように努めていたことは勿論である。


しかしそれがかえって不自然な感じとなり、


ある女性社員の気づくところになってしまったのである。



その女性が運悪く噂好きということで


会社中のスキャンダルとなっていくのに


それほど時間がかからなかったのである。



また彼の妻も夫の裏切りを確信していた。


彼に対しては何も言わなかったが、


いつしか飲めなかった酒を飲むようになり、


彼が帰ると台所に空の酒瓶が転がっているようになった。


彼のとっては家も、彼女のアパートも、会社もすべて、


地獄の場となってしまった。


もはや彼にとってやすらぐ場所はどこにもなくなったのである。



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