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第3章 恋の翳り その5

これは、昭和も終わりの頃の、


ある男女の話である。



その日の夜、高崎は次のような返事を書いた。


「心の交流については大賛成です。


これからこれまでの私の人生について


書きたいと思っています。


だからあなたも、


これまで体験したこと、感じた事を書いてください」


するとまた恭子から返事がくる。


「あなたが心の交流について理解して賛成してくれて、


とても嬉しいです。そこで提案があります。


日記交換をしましょう。


日記を2冊作って、夜書いて朝交換するのです


そうすれば、しっかりと会話のキャッチボールができます。


そしてそれが貯まっていけば、二人の共通の宝になります」



彼女は現在の不安定な状況から、


もっと安定したものにしたかったのである。


普通の恋人ならば、次のステップは、


結婚しようということになるのかも知れないが、


二人にそれは許されていない。


それならば、愛の言葉をもっと見える形にしたくなったのである。


しかし彼女は、このようなことを


彼が心から賛成しているわけではないことも感じ取っていた。 


しかし彼女はここで引くわけにはいかなかなかった。


いよいよ彼女は彼に対して、


はっきりと要求するしかないと心を決めていた。


こういう気持ちの底には、


もはや彼は上司ではないのだという考えが潜んでいたのであるが、


彼女自身それをはっきりとは意識はしていなかったのである。





しかし高崎の方は、


いよいよ恭子の真剣さが怖くなってきていた。


何か漠然とした不安が頭の中を横切ったのであるが、


否定する理由も考えられず、


結局彼女の言うとおりにすることになった。


そして彼はその不安が、


当たっていたことをすぐに知ることになるのである。


最初のうちは、日記の内容も


「他の人よりあなたに美味しいお茶を淹れていることを


知っていましたか?


私は毎朝のお茶を入れる時に、


最初の一番美味しいところを、


あなたのお茶碗に淹れて、


その出涸らしを他のひとに淹れているのです。


ひどいでしょう。」


とか、


「あのときあなたが嫌がったけれど、


二人で撮った浴衣姿の写真は私の一番の宝物です。


これまで私の写真は、


どこかぎごちなく撮られているのが、


ほとんどなのですけれど、


あの旅館での写真は、


本当に幸せそうな顔になっているのです。


私は、いつも他人に対して、


いつも緊張して、


警戒して生きてきました。


だからいつも写真は強張った表情ばかりだったのです。


でもあなたといると自然の気持ちで振舞えるのです。


突然に、変なことを言うようですが、


私は、あの旅行のときの、


私の中にあなたが初めて入ってきた瞬間のことは忘れられません。


心から幸せの瞬間だったのです。


あの時の私は、本当に、無邪気で無防備だったのです。


私は最愛の人に巡り合えて幸せです。」


など彼を喜ばす内容であったが、


しだいにそのような愛の言葉は少なくなり、


次第に、いろいろな要求を突きつけてくるようになったのである。


交換日記を始めてからひと月近く経ったときの朝に、


彼は日記を見て仰天したのである。


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