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第3章 恋の翳り その1

これは、昭和も終わりの頃の、


ある男女の話である。


その旅行から帰ると二人の職場も年末の慌ただしい時期になっていた。


それは昼間の仕事だけではなく、


職場のそれぞれの単位での忘年会や、


取引先での接待も連日のようにある時期であった。


そのため二人はこれまでのようには


会うことが出来ない日も多くなっていた。


しかも職場では否応なく顔を会わせないわけにはゆかず、


お互い仕事以外の話が出来ないぶんだけ、


かえってこれがつらいものである。


また、職場で高崎のところへ他の部署の奇麗な女性が来て、


彼が嬉しそうに話をしているのを見ると、


恭子は心穏やかならぬものを感じたりしたのであった。


しかしそれは彼の方も彼女に若い男が話しかけるのを見ると


つい気になってしまう点は同じであった。


その日の夜も彼はお得意の接待に出かけたが、


その日は彼より10歳近く年配となる係長と、


もう一人の若い部下が同行した。


その接待が終わっての帰り道に、


二人が職場の噂話を始めていたのを


彼は聞くともなしに聞いていた。


しかしそのうち若い部下が恭子の噂話を始めて


「最近、彼女に男が出来たらしいとみんな言っていますが、


係長は知っていますか」


という言葉が聞こえてきて彼は耳をそばだてたのである。


係長が「それは何かあったのかね?」と聞くと、


「最近の彼女は、帰りの時刻が近づくとそわそわしているんですよ。


そして化粧を直すだけでなく必ず歯を磨いていますね。


あれは男とキスするためだってみんな言っていますよ。


それに前はあまりお化粧もしないところがあったけれど、


今は結構濃い化粧していますよ。」


その言葉に思わず反応した高崎の顔を見て、


若い部下は言った。


「最近になって彼女が奇麗になったと課長は思いませんか?」


彼は内心の動きを悟られないように、


「相手の男は、社内の者なのかね?」


と聞いた。


部下の若い男は、いつも仕事オンリーという顔をしている彼が、


珍しくこんな噂ばなし口を挟んできたことに興味を持ったようであった。


若い部下は彼に親しい表情を見せて答えた。


「私が思うにあれは、普通の恋じゃないですね。


このごろの彼女は、ときどき思いつめたような顔をするかと思えば、


とても大人びた女のよう顔になるんですよ。


これは普通の付き合いではないですね。


同年代の男と付き合っているという感じじゃあないですね。


もしかしたら彼女は不倫しているかもしれないですよ。


なにか起こる前に課長からそれとなく注意されたらどうですかね」


と言ったのでああった。


彼は、内心慌てたが懸命に顔の表情を消すと


「分かった・・・


年明け早々にする予定になっている定例の職場内ヒアリングの時にでも


彼女に悩みがないかそれとなく聞いてみよう」


と答えるのが精いっぱいであった。


高崎は彼女との今後に何らかの対応が必要なことを感じたのであった。


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