表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の身体は妹に捧げる  作者: TARO


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/16

第七話 終わりを告げた平穏

真由希との会話を終えてから数日、何も変わらない平穏な日々が続いていた。


あの突然の襲撃がまるで白昼夢であったかのように一転した平穏に徐々に慣れ始めていたときのことだった。

それは、クラスメートとの会話から始まった。

「莉子さんって、赤坂君の妹なのよね?」

「えっ?どうしたのいきなり」

大分クラスメートとも打ち解け、日常会話を楽しんでいた莉子は質問の意図が分からず動揺した。

「いやーなんというか、さ。あんまり似てないような気がして」

近くにいた他の女生徒が反応する。

「本当よね。どっちもルックスはいいと思うんだけど、何か兄妹って雰囲気じゃないのよね」

「髪の色とかも違うもんね~」

そう、莉子の髪の色は龍治のように茶色がかった黒髪ではなく割と明るめのブロンドであった。

「髪も長いし、まるでモデルさんだよね」

「そうそう、うらやましいなあ~」

莉子は照れた。

しかし、その表情の裏には小さな疑問が膨らみ始めていたのだった。






同時刻。

龍治はいつものように風紀委員の仕事を全うしていた。

全域を見て回るのは骨であるため、莉子のいる教室を中心に円形に見回っていた。

「この学校は用務員が少ないんだな…」

かなりの範囲を一日見回っているのだが人と遭遇する確率は極めて低い。

極稀に授業の為に研究棟から教室棟へと向かう先生と出会うだけだ。

そのかわり、視線の数は多い。

龍治は何処にいても視線を感じていた。

「監視カメラ…なのか?」

一見ただの花壇のように見えて実際は草の間にカメラが仕掛けてあったりと言うのはザラにあった。

この学校において、教師があろうことか覗きや盗撮をする可能性はゼロに等しかった。

更に、仕掛けてあるカメラには「監視用」と書かれたシールを張られていたため特に気にはしていなかった。

見回りを続けていた龍治は池の近くに座り込んでいる真由希を見つけた。

「坂崎さん」

名前を呼ばれてゆっくりと龍治のほうを向くと、途端に微笑を浮かべた。

「龍治さんでしたか。委員会ですか?」

いつの間にか名前で呼ばれていたがそれはさておき、肯定の意思表示をする龍治。

「隣、よろしいですか?」

「ええ、どうぞ」

許可を得て、龍治は隣に座った。

「サクラ…綺麗ですよね」

「はあ。確かにそう思いますが、もう花弁は散っていてもおかしくないかと思います」

「ご存知でしょう?サクラフォーエバー。父の会社と栖鳳の本会社が共同開発したんです」

そういえばそのようなことをニュースでやっていたなと龍治は思い出した。

「とは言っても、実際にはアルフォードの遺産なんですけどね」

「アルフォード、ですか?」

アルフォード社とは、戦前に世界の経済の底支えといっても差し支えないほどの膨大な財力を有した企業である。現在は元社長一家が戦争で死亡したりするなどで、経営破綻を起こし数社がその遺産を分配した…というのが一般的に伝えられている情報であり、龍治が知っている情報でもあった。

「分配に参加したのは、日本からは栖鳳、坂崎、そして赤坂です。

 栖鳳家が戦後大きく発展したのはこの技術遺産のおかげと言えるのでしょうね」

溜息をついた真由希を横目に、龍治は呟いた。

「サクラフォーエバーですか…。Mr.アルフォードは一体何を思って開発したのでしょうね」

「この名前は栖鳳家が付けたものらしいですよ?」

一拍置いて、続けた。

「元々の開発名はNatural Revival Plan。自然復活計画です」

「そうだったんですか…。それなら計画に着手した理由も分からないでもないです」

戦前は技術発展が進むと共に自然保護地区の減少が地球温暖化よりも重要な環境問題として指摘され続けてきていた。

その点を鑑みればアルフォード氏の理想は明白だ。

その後もちょっとした世間話を続けた二人だったが、巡回中の教師に見つかって絞られたというのは後日談だ。






莉子は部屋の鍵を開けた。

龍治はいない。職員室に行ったところ、先生に怒られていたので置いてきたのだ。

莉子は鞄を投げ、姿見の前にある椅子に腰掛けた。

鏡を見つつコンタクトを外す。

そこから現れたのは蒼い瞳。

「やっぱり、変だよね。片方の目だけ蒼いなんて…。

 お兄ちゃんは両方とも同じ黒なのに」

莉子は昔のことを思い出していた。


「ねえ、早紀叔母さん。どうして私の右目は蒼いの?

 どうして私の髪の毛は金色なの?」

幼い莉子はある日叔母に聞いたことがある。

その頃既に両親は死亡していたため、叔母が後見人だった。

両親は二人ともが物心付く前に事故死していた。

莉子の質問に対して叔母は眉を顰めた。

「そんなのは、あなたのご両親に聞いたらどう?

 まあ、答えてはくれないでしょうね。

 それと、今後そういう話はしないで頂戴。いいわね?」

今でも思い出せる。

叔母のその時の眼を。

莉子の目を通して何か(・・)を憎々しげに見つめる目を。

だから莉子は今でも叔母が苦手なのだ。(勿論、それだけが理由ではないのだが。)


「あんな事言われたのは久しぶりだったから思い出しちゃったじゃない…。

 それにしても遅いなあ…お兄ちゃん」

ふと携帯を見るとメールが入っていた。送信者は龍治だった。

内容は、早紀に呼ばれて今日は寮に帰れないということとちゃんと寝るように、といった旨だった。

「も~。仕方が無いなあ。お兄ちゃんの分まで食堂でご飯食べよう…」

回想を含めてテンションが二段階ほど下がってしまったが、莉子は支度をして食堂へと降りていった。






少し前。

龍治は説教から解放され、寮への道を急いでいた。

「まったく…何で僕が文句を言われなければ…」

普段全くそういうのは意識しないのであったが、余りにも理不尽な説教だったので愚痴をこぼしてしまう。

普段と違う(・・・・・)

これがどれだけ重要な意味を占めるか。

普段と違うが故に気が付かなかったのだ。

普段の彼であれば気が付くはずのものを。

彼を狙った銃口が火を噴くことを。

気が付いたときは遅かった。

龍治の左腕が、肘であった(・・・)ところから指先までが消し飛んでいた。

事実が認識できない。

いかに実戦経験があっても、自身が攻撃を受けることは想像していなかったのだ。

認識がおぼろげながら、龍治は周りを見回した。

消し飛んでいたと思っていた右腕は落ちていた。

痛みがようやく襲い始めた。

犯人を捜そうと再び見回すが、見つからなかった。

既に場を去った後だったのだ。

「ああ…血が流れていく…。

 僕は…死ぬのか…?

 莉子…僕は…」

「龍治さん!?しっかりしてください!」

気を失う寸前、少女の声が聞こえた気がした。

あれー急展開だよ急展開ww

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ