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僕の身体は妹に捧げる  作者: TARO


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第六話 目に映るのは皆「虚偽」

「つまり、そういうことですね?」

龍治は数十分の話し合いをこうして纏めた。

「真由希さんは僕の所属している風紀委員の一人であると。

 莉子も分かったね?」

龍治の問いかけ―有無を言わせぬ―に渋々ながら頷く莉子を見て龍治は肩の力を抜いた。

「それでは龍治さん、風紀委員の打ち合わせがありますのでちょっと一階の食堂まで行きましょう?」

「分かりました。それじゃあ莉子、きちんと戸締りをして寝るんだよ?」

話の途中で幾度か目を擦っていた莉子からの返事を聞いて、二人は部屋を出た。





実際はちょっとしたホテルのラウンジさながらの外観の食堂に到着した二人は壁際の一人用ソファに向かい合って座った。

壁掛けの大時計は日付の変更を告げようとしていた。

「妹さんには教えていらっしゃらないのですね」

龍治が答える前に矢継ぎ早に言葉を続ける。

「あなたの命にかかわるのではないのですか?

 妹さんを蚊帳の外において、それで彼女が喜ばれるとでもお思いですか!」

 あなた方は二人きりの兄妹でしょう!」

龍治の表情は変わらない。

(わたくし)はそれでも構わないのですが。死傷が出なければいいのですから。

 では本題に移りましょうか」

頷く龍治を見て真由希は資料を取り出した。

「あなたが今日殺害した人物の詳細情報です。

 どうやら栖鳳家の犬であることは間違いないようですね」

真由希のことについての質問は本人からも、そして早紀からも禁止されているため龍治はそこには触れず、資料を眺める。

「真由希さんがお掃除(・・)なさったのですか?」

掃除と言う言葉に対して一瞬顔を顰めたが(といっても表情にはっきりとは現れていない)真由希は答えた。

「私の仕事はこの学校を保つと言うことですから。

 ですが、今日のような行為が続くようでは問題がありますよ。

 今回は学園長に気取られる前に片が付きましたがいつもいつもそういうわけには参りませんから」

龍治は素直に謝罪した。

「すみません。以後事前にお教えしておきますので」

その言葉の意味が分からないはずも無く、真由希は溜息をついた。

「話を変えます。あなたは風紀委員所属と言うことですが、風紀委員は全部で八人います。

 それは勿論ご存知ですよね」

首を横に振る龍治に資料を開いて説明をする。

(つくづく厄介な人な気がするな…)

龍治の頭の中に入ってきた説明は他の風紀委員は大体が栖鳳家の分家や縁者の家が多いと言うことだけだった。

「それで、あなたと早紀さんの間に交わされた契約ですが。

 護りきれる自身はあるのでしょうね?」

「当然です。それが僕の存在意義ですから」

「でも当事者のもう一方には事実を言わないというのですか」

話が堂々巡りになりそうだと感じた龍治は強めの言葉で纏めた。

「莉子はその気になれば僕の為に学園を辞めてくれるでしょう。

 でも、残りの一生を僕と逃亡生活(・・・・)を続けるわけには行きません。

 それでは本末転倒です」

龍治の強気の言葉に真意であると感じ取ったのか特に言及することなく話し合いは終わった。

「武器等の要望があったら聞いておきましょうか?」

「少し考えさせてもらいます。今日はいいですよ」

「わかりました。それでは」


部屋に戻った龍治は何故か自分のベッドで寝ていた莉子を莉子自身のベッドに運んでやるという作業をする羽目になったが、事情説明をする必要が無くなったと考えればこの状況は幸運だったのだろうと自己完結し就寝した。






時は少し遡る。

夕食時に学園長室には二つの人影があった。

「それで?隊員の一人が死んでいると言うのは本当なの?」

問いかけたのは緑子。

その言葉に応じたのは緑子の前に直立不動の姿勢を維持している男だった。

「ハッ。死体は見つかってはいませんが、現場と思われる場所に大量の血痕がありました。

 検査結果はもう少し出るまでに時間がかかりますが間違いないでしょう」

男の肉体はその辺の教師とは全く違った。

そして胸元には組織の部隊長である証明である刺繍があった。

「本当に、厄介な獣を私は迎え入れてしまったのね。

 あの時断っておくべきだったわ。

 今から考えると何で私が赤坂の女帝に平伏さなければならないのよ。

 私だって栖鳳の直系だというのに。

 それもこれもお父様が…」

話が長くなりそうな予感がして、部隊長は緑子の呟きを遮った。

「それで、これからどうなさいます?

 仕留めると仰るのであれば一両日中には片付けられると思いますが」

「止めておきなさい。しばらくは隊員の接触を避けるように。無駄に人員が減るのはただの損失だわ」

「了解しました」

男が退出した後緑子は机に設置してある受話器を手に取った。

「円卓を用意して頂戴」


緑子が向かったのは都心にある栖鳳財閥本社ビルだった。

最上階にある会議室の扉を開くと数人の目が緑子に向く。

軽く会釈をしつつ席に着くと部屋の明かりがついた。

「では、文書用件壱号から処理していきます」

緑子の言葉を合図として積み上げられた事業案件が片付けられていく。

ある程度の量をこなした後緑子は他の文書とは異なる真紅の文書を手に取った。

「文書用件零号についての会議を行います」

集まった役員の顔に緊張の色が現れた。

レスナンバーである零号案件の場合は特秘事項としてのものがほとんどである。

役員とは言ってもそれなりの企業のトップを務めている人物がほとんどであるためそれなりに会議が与える影響は大きい。


「では、零号案件について坂崎(・・)さん。報告をお願いします」

呼ばれた男が席を立ち報告を行う。

「零号案件、最重要人物である赤坂龍治の進退については我が娘、真由希の独断で動いております。

 私は一切接触が不可能な状況です」

周りの役員から溜息がこぼれる。

「娘さんにはよく言っておくようお願いしますよ?」

緑子が普段の様子からは想像もできない冷めた視線を男に向けた。

男は何も言えず席に付いた。


他の役員から質問が浴びせられる。

「対象の人物に対してはどのような対応をしましょうか」

「やはり早いうちに芽を摘んでおいたほうが」

「ならばお宅の部隊を動かせば…」

全体的な意見が強硬手段に傾いているのを感じた緑子は流れを止めた。

「とりあえずは現状維持です。

 本日我が社の警備員が殺害されたのです。万全を期すべきです」

皆が沈黙する。

そして会議はお開きとなった。

十数人からなる役員の一人がとてつもない(・・・・・・)笑顔だったことに気が付くものはいなかった。

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